「高市早苗氏が首相になれば靖国参拝をするだろうから、中国でまたひどい反日騒ぎが起き、せっかく落ち着いてきた日韓関係がまた悪化する。このような懸念が自民党総裁選の最終盤に党所属国会議員の中に広がったことが、1回目の投票で1位だった高市氏が決選投票で逆転された大きな理由だ」と、政治評論家らが口々に語った。
私はそれを新聞で読んで心の底から悔しかった。私が人生をかけて戦っている歴史認識問題が原因で高市氏は負けた可能性があるからだ。声を大にして言いたいことは、靖国神社に誰がお参りするかについて、外国政府の反応を気にするということ自体、独立国家としてあり得ないことだ。それがまかり通っていることこそが、我々を拘束している戦後レジームの現実だ。自民党は戦後レジームからの脱却を公約した安倍晋三政権で何回も選挙を戦い、勝利してきたのではないか。戦後レジームと戦う気概が、半分強の自民党議員になかった。
日本の反日派が火をつけた歴史認識問題
歴史認識問題とは何か。単純に複数の国の歴史認識が一致せず対立していることではない。戦争や植民地支配などは本来なら条約で清算し、その後は内政不干渉の原則で他国の歴史認識を外交に取り上げないのが近代国家だ。中国も韓国も国交正常化から1982年までは外交に歴史認識を持ち出さなかった。
1982年に日本マスコミの誤報が原因で、歴史教科書検定に対して中韓両国政府が公式に抗議、修正を求めた。歴史認識問題はこのとき始まり、92年の慰安婦問題で本格化した。靖国神社参拝についても、1979年に「A級戦犯」の合祀が公になってから6年間、大平正芳、鈴木善幸、中曽根康弘の3首相が計21回参拝をしても中国は全く抗議をしなかった。1985年7月の中曽根首相の「公式参拝」で初めて抗議した。韓国はその時も抗議せず、1996年の橋本龍太郎首相の参拝に対して金泳三政権で初めて抗議した。
歴史認識問題の特徴はすべて日本国内の反日マスコミと運動家が火をつけたものだということだ。82年の教科書問題は歴史教科書の検定で「華北への侵略」という原稿を検定で「進出」と書き直させたという日本マスコミ全社の誤報が原因だった。産経新聞だけが訂正記事を出した。慰安婦問題が朝日新聞のねつ造報道で始まったことは、日本では今や周知の事実だ。1985年の中曽根首相靖国参拝への中国の抗議は、朝日などの反対キャンペーンの中で訪中した社会党代表に対して姚依林副首相が最初に公式に非難した。
首相は国の名誉を守る気概を持て
日韓間の慰安婦問題、戦時労働者問題については安倍晋三政権以降、岸田文雄政権まで、官邸に歴史戦担当部署を置いて事実に基づく反論を行ってきた。朝日が国内の批判に耐えられなくなり、誤報を認めて謝罪もした。韓国で再び左派政権が発足して反日政策をとっても、是々非々で対処する基盤が日本政府と国内世論にできている。
しかし、日中関係は異なる。すでに靖国神社毀損事件、日本人学校生徒襲撃事件が複数回起きた。台湾有事がもし起きるなら、中国は日本に大規模な心理戦を仕掛けてくるだろうし、中国国内では「南京大虐殺の報復を行え」とする感情的な反日世論が沸騰するだろう。それに対して日本国民の大多数が国益の観点から冷静に対応するためには、中国との歴史認識問題において彼らの嘘キャンペーンに対する事実に基づく反論を国内で固めておくことが肝要だ。そのためにはまず首相が自国の安全と名誉を守るという気概を持つことが不可欠だ。
そのことを口にした高市氏を、アジア外交をおかしくするなどの理由で首相にふさわしくないと攻撃したマスコミ多数の論調には大きく失望する。ただ、そのネガティブキャンペーンの中でも高市氏が半数近くの票を集めたことには希望がある。石破茂政権が歴史認識問題でわが国の国益と名誉を守る政策を実行するかどうか、厳しく見守っていきたい。(了)