2021年3月の記事一覧
個人情報をいかに守るか問い直す好機 松原実穂子(NTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト)
無料通信アプリ「LINE(ライン)」利用者の個人情報が、中国の関連会社で閲覧できる状態になっていたことが明らかになるなど、ここ最近、日本では、個人情報の保管・管理の方法を巡り、議論が白熱している。 個人情報を守るには、各国の法律が当局による情報アクセスをどのように規定しているのか、どのようなリスクが規制上あり得るのかを念頭に置き、どの国に情報を保管するかを検討しなければいけないのは当然であ...
二階自民幹事長の人権感覚を問う 有元隆志(産経新聞月刊「正論」発行人)
自民党の二階俊博幹事長は「政界寝業師」の異名をとる。政治家の存在感が軽くなったなかで、その発言に注目が集まる数少ない人物である。その言動はかつての金丸信自民党元副総裁を彷彿とさせる。金丸氏はボケた風を装って発信し、政局を自身の思う方向に引き寄せることを得意とした。ただ、過度の「金丸神話」を作り上げたことは、メディアにとっても反省すべきことであった。同様のことは二階氏にも言える。 現職「親中...
フリゲート艦派遣、ドイツの変化球 佐藤伸行(追手門学院大学教授)
ドイツ政府は、今年8月にも海軍のフリゲート艦1隻をインド太平洋地域に派遣する計画を明らかにした。新疆ウイグル自治区における中国のジェノサイドに対して、欧州連合(EU)が制裁を科したことと相俟って、ドイツ艦艇のインド太平洋派遣はメルケル政権が覚悟を決めて「中国への牽制」に乗り出したものと一応は解釈される。だが、ドイツの思惑はそれほど直球的ではないし、派遣計画は実施までに微妙に姿を変えるかもしれない...
頑なな専守防衛のツケが回って来た 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
3月25日に北朝鮮が日本海に発射した弾道ミサイルは、本年1月14日夜の軍事パレードに初めて登場したロシア製イスカンデルの改良型ミサイルと思われる。この時期、発射に踏み切った理由を色々と政治的に推測する向きがあるが、軍事的には、開発した兵器の発射試験を早く行って、その作動をテストしたかったからと見るのが普通だ。 最善策は発射前後の迎撃 25日夜のBS-TBS「報道1930」でコメンテー...
司法に翻弄されない安全対策の構築を 奈良林 直(東京工業大学特任教授)
運転を認めなかった司法判断は、今回の日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)に対する3月18日の水戸地裁判決までに7件あるが、大半がその後の高裁審理などで、運転容認へと覆っている。 同じ3月18日には、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)についても広島高裁が差し止め取り消しの決定を出している。これは去年1月、同じ広島高裁で「四国電力の活断層の調査は不十分で、阿蘇山噴火の想定も小さすぎる...
防大校長は制服自衛官にすべき 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
現在の国分良成防衛大学校校長の後任に、国際政治学者で米国を専門とする久保文明氏が就任すると報じられている。筆者は、これまで毎年、米サンフランシスコで行われてきた日米安全保障対話を始め、様々な学会やセミナーで久保氏と同席したことがあり、彼の米国政治分析には一定の敬意を払っている。 それでも、これまで約60に及ぶ士官学校を訪問し、その結果を纏めた『世界の士官学校』を執筆した者として敢えて述べれ...
日米2+2の非対称性正せ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
16日に日米安全保障協議委員会、いわゆる「2+2」が都内で行われた。1990年に日米の外務、防衛両省の閣僚級で行う現在の枠組みが出来てから今回で約20回目の開催であるが、そのうち筆者は在米日本大使館の防衛駐在官時代、4回出席している。 1996年は沖縄の普天間飛行場移設問題があって、9月にワシントンで、また12月には東京でと計2回行われた。後者では出席のため米国から一時帰国した。1997年...
注目すべき新選挙権法案の米議会攻防 島田洋一(福井県立大学教授)
3月4日、新たな選挙権法案が米下院を通過した。提案した民主党側は「人民のため法」(For the People Act)という呼称を付けている。コロナ下で緊急避難的に実施された広範囲の郵便投票を恒久化すると共に、オンライン有権者登録、当日有権者登録を認めるなどの内容である。その分、本人確認は難しくならざるを得ない。 採決の結果は220対210。多数派の民主党が全員賛成し、共和党は全員が反対...
いっそ「無観客」でも開催を 佐野慎輔(尚美学園大学教授)
この夏、東京オリンピック・パラリンピックは本当に開催されるのだろうか? 私にもそう聞いてくる人が少なくない。 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は、自身の再選を決めた3月10日からの総会の冒頭、こう述べた。 「7月の開幕を疑う理由はない」 開催権を持つ組織のトップの断言は何より重い。しかし、依然、疑義が呈されるのは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行...
福島第一原発事故から10年 奈良林 直(東京工業大学特任教授)
福島第一原子力発電所の事故から3月11日で10年が経過した。この間に得られた教訓は何か、今なお原発に賛成する国民の割合が少数派にとどまっているのはなぜか―などについて反省点を整理してみたい。 政府は2050年までに二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指すとしているが。それを見据えつつ、原子力規制委員会が原発の安全安心の確保について2013年に...
小池新党が取り沙汰される背景 有元隆志(産経新聞正論調査室長兼月刊「正論」発行人)
東京都の小池百合子知事が新党「希望の党」を立ち上げたのは4年前のことだった。一時は旋風を巻き起こす勢いだったが、小池氏の「排除の論理」発言もあり失速し、翌年には解散した。4年の月日を経て、再び小池氏をトップにした都市新党結成の可能性が取り沙汰されている。 維新、都民ファの連携情報も 小池氏に近い関係者によると、「新党の代表は小池氏が就き、日本維新の会をはじめ改革マインドを持つ野党議員...
米新政権下の国家安保戦略への不安 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
バイデン米大統領が3月3日、包括的な国家戦略「国家安全保障戦略」策定に向けた暫定指針を発表した。日本メディアは、トランプ政権に比して同盟や多国間機構を重視する姿勢を示しているとして好意的に受け止めているようであるが、筆者の評価は全く違う。 タイトルに暫定的(Interim)とあるためか、目次は「はじめに」と「まとめ」を除けば「グローバルな安全保障景観」と「我々の安全保障優先順位」の2項目の...
バイデン政権への欧州の期待と齟齬 三好範英(読売新聞編集委員)
「米国は帰ってきた」――バイデン米大統領はこの言葉を繰り返した。2月19日、オンラインで開催された「ミュンヘン安全保障会議」での演説でのことだ。 同会議は1962年から毎年開催されており、バイデン大統領は1980年から上院議員や副大統領として何度も出席している常連だ。安保をテーマにする国際会議としては老舗的な会議だが、現職米大統領が(ウェブ上ではあるが)参加したのは初めてだった。米欧関係改...