公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.04.23 (月) 印刷する

シリア攻撃が与えた北への衝撃 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 先週4月16日付の「ろんだん」で、米英仏によるシリア攻撃は「化学兵器を依然として製造・保有している北朝鮮や、中国に対する有効なシグナルでもある」と書いた。その後、攻撃の詳細が判明するに及んで、筆者が想定していた以上に北への強いメッセージになっていることが分かってきた。

 ●劣悪な防空システム
 当時、シリアの防空システムは、地中海に展開する艦艇から低空で侵入してくる巡航ミサイル・トマホークの攻撃に気を奪われており、その監視の目をかいくぐって大きな戦果を挙げたのは、爆撃機B-1Bから発射された統合空対地スタンドオフミサイル(Joint Air to Surface Standoff Missile-JASSM-)で、初めて実戦で使用された。ちなみにJASSMは自衛隊も導入すべく、2018年度予算で購入経費を計上している。
 同ミサイルの伸張型(Extended Range-ER-)は射程が約1000キロあり、爆撃機だけでなくF/A-18やF-15といった海空軍の戦術航空機にも搭載できる。既に東アジアに展開する第7艦隊や第5空軍には配備済みである。
 昨年、北朝鮮は自国近くに飛来したステルス爆撃機B-1Bを防空レーダーシステムで探知できなかった。グアム島から飛来するB-1Bの探知が不能なことに加え、シリア攻撃では使用されなかった戦術航空機も在韓米軍や在日米軍には数多く配備されている。シリアより防空システムで劣る北朝鮮に対しては、極めて有効な攻撃手段となろう。
 シリア同様、大量破壊兵器を保有している北朝鮮は、今回のシリア攻撃に、「明日は我が身」という恐怖を大いに抱いたのではないか。

 ●2008年の教訓を忘れるな
 トランプ米大統領は、近く開催予定の米朝首脳会談を「実りがないなら開かない」とか、「北が『完全で検証可能かつ不可逆的な核・ミサイル廃棄』を実現しないようであれば即刻、席を立つ」とか表明している。そのメッセージは既にポンペオCIA長官から伝わっている。そうなれば益々北への武力行使が現実味を帯びてくるので、金正恩は何とか中国、ロシアにすがって交渉力を高めようとしている。
 中国もこの際、朝鮮半島問題の解決を自国抜きで進められたら堪らないという思惑から北との利害が一致し、3月の中朝首脳会談につながったのであろう。
 折しも北朝鮮は、核及び中・長距離弾道ミサイル発射の実験放棄を発表したが、騙されてはいけない。北が廃棄を表明した豊渓里の核実験場は、既に彼等が水爆実験と称する実験をした時点から崩壊状態となっている事が専門家の間で情報として共有されている。10年前の2008年、もうお払い箱にしても良い寧辺の5千キロワット級黒鉛減速原子炉冷却塔を爆破して見せたが、核開発はその後も継続していた。我々は、そのことを忘れるべきではない。