公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.09.03 (月) 印刷する

中国の対日工作は横断的に把握を 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 8月24日に米議会の「米中経済・安全保障見直し委員会(U.S.-China Economic and Security Review Commission)」は、『中国の海外における統一戦線工作(China’s Overseas Unified Front Work)』という約40ページの報告書を公表した。中国共産党隷下の中央統一戦線工作部が海外で親中派を育成のため行っている工作実態を明らかにしたものだ。

 ●米報告書は金の流れも詳述
 報告書では、統一戦線工作部と密接な関係を持つ孔子学院のような組織を経由して、中国大使館から、米国内のシンクタンクへの資金提供が詳述されている。大使館員やシンクタンクの名前も具体的に指摘されている。
 報告書はまた、米国内だけでなく、オーストラリアやニュージーランド、そしてカナダといった国々での工作実態も明らかにしているが、なぜか日本に関する記述はない。
 2008年4月に米サンフランシスコで北京五輪の聖火リレーが行われた際、欧米の学生に混じってチベット独立を支持した中国人女子留学生が、ネット上で「売国奴」と呼ばれ、他の中国人留学生によるデモにさらされた。報告書はこのデモにも統一戦線部が関与していたと伝えている。日本でもこのとき長野で同じ事態が起こっている。
 筆者は8月2日の「ろんだん」でも、Might、Money、Mindの3つのMによる中国の工作活動について書いたが、軍事力だけでなく金を使って心に浸透する動向を的確に把握していく必要がある。

 ●縦割り情報では実態伝わらず
 日本では警察白書のほか、公安調査庁の「内外情勢の回顧と展望」といった出版物があるが、前者は主として犯罪を対象にし、後者はオウム真理教や共産党の活動に焦点を当てており、外国の工作活動に関しては極めて概括的な記述しか見られない。米報告書のように具体的にチャイナマネーの流れが公表されれば、国民の対中認識も違ってくるのではないか。
 また報告書では、中国国際友好連絡会(CAIFC)や中国学生・学者協会(CSSAs)は統一戦線部隷下の組織であると明記されている。日本には人民対外友好協会傘下の中日友好協会といった団体も存在するが、統一戦線部との関係はどうなのかは知りたいところだ。
 「米中経済・安全保障見直し委員会」は、米議会の超党派議員で構成されている。しかし日本の場合、中国資本による土地買収に関しては国土交通省、産業スパイについては経済産業省、孔子学院は文科省の管轄と、縦割り行政になっている。横断的に中国の工作活動を解析し、白日の元に晒す努力がなされていないのが残念だ。