北海道地震に伴う道内全域停電(ブラックアウト)について、国の認可法人である電力広域的運営推進機関(広域機関)の検証委員会が中間報告をまとめた。その内容から、9月12日付の「ろんだん」で筆者が指摘していたことが改めて明確になったと思う。
マスコミ各社は、中間報告に対する社説でも、「苫東厚真火力発電所への電源一極集中がブラックアウトの背景にある」(北海道新聞)などと北海道電力を非難する論調が目についたが、検証委員会は、「苫東厚真火力発電所の運用が不適切とは言えない」との見解を示した。主な根拠は「全域停電は苫東厚真の停止だけでなく、送電線事故との複合要因で起きた」という分析結果だ。狩勝幹線他2つの送電線が地震による揺動地絡事故で道東の水力発電所停止が重複していたのだ。
今回の大停電で最も注目すべきは、国が「主力電源化」を進める太陽光や風力発電の寄与が全く無かったことだ。2016年10月28日付の「ろんだん」で紹介した北米大停電も、根本原因は電源供給を市場競争にゆだねる「電力自由化」にあった。
太陽光や風力発電に需給バランスに対する耐力を持たせるには、大容量バッテリーを設置して、安定電源化を図る必要があるが、わが国全体で数百兆円かかると言われている高価なバッテリーに投資する財政の余裕は無い。
●自然災害に弱い太陽光、風力
太陽光や風力発電は自然災害にも極めて弱い。台風により全国各地で太陽光パネルが飛びまくっている。風力発電所も台風で宮古島や淡路島での倒壊や翼損傷事故が相次いだ。特に太陽光発電の設置に関し国の規制が甘い。
1兆kW時当たりの死者では、原発がチェルノブイリを含めて90名、太陽光に起因する死者は440名に上るという米ニューメキシコ州立大学環境調査センターの統計もある。
2017年、事務用品通販大手アスクルの物流倉庫(埼玉・三郷市)で火災が起き、鎮火に12日間もかかった。鎮火が長引いた一因が屋上に設置された太陽光パネルで、放水すると消防士が感電する恐れがあったことだ。
今年7月の西日本豪雨で広範囲で浸水被害を受けた岡山県倉敷市真備町地区では、太陽光パネルからの出火が5件も確認されている。
平時にも事故が起きたケースは多い。消費者庁によると、住宅用太陽光発電による発火・発熱・発煙といった事故が、2008年3月から2016年までの間に102件確認されている。太陽光モジュールから出た火が民家を半焼させ、隣家に広がったこともあった。
海外での最近の例を挙げれば、この6月にドバイで空調修理をしていた作業員が太陽光パネルに触れ、電気ショックで死亡している。
経済産業省も公式ツイッターで「破損箇所等に触れた場合、感電するおそれがあります。十分ご注意下さい」と注意を促しているが、すでに3.11前の原発の設備容量50GW(1GW=100万kW)を上回る大規模電源となった太陽光パネルの設置基準と保全活動への規制強化が自明である。
●強靭化増した原子力発電
今回の全道ブラックアウトは、泊原発1,2,3号の全基(207万kW)が稼働していれば、苫東厚真をはじめ全道の電力供給に十分な余裕があり、回避できた。最新鋭の泊3号機(91.2万kW)1基だけでも、道内全系統での変動を吸収していた可能性が極めて高い。
今や原発は外部電源喪失に対しても強靭化している。仮に外部電源を喪失しても、自動で所内単独運転モードに入り、所内電源を自前で供給できるのだ。
原子力基本法の第2条2項は原発について、「安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする」と定めている。安全性を確保した原発を無闇に止めさせないのは欧米の原子力規制当局の鉄則である。
3.11前の原発は、わが国電源供給(kW時ベース)の34%を担っていた。その原発を止めさせた田中俊一前原子力規制委員長の「田中私案」には、法的な根拠も国会の審議もなかった。田中前委員長は大停電の甚大な損害の責任を取れるのか。
北海道大停電は、首都圏大停電への警告でもある。3.11のときに大停電から首都圏を救ったのは、柏崎刈羽原発からの電源供給である。わが国の太陽光パネルの設備容量は50GWを超えたが、年間の電源供給はわずか3%に過ぎない。原発の10分の1の稼働率である。
再エネ賦課金の国民負担は20年間で60兆円を超える見通しだ。太陽光を礼賛して光り輝く未来社会を描いた「再エネ偏重政策」の見直しは急務である。
北海道大停電を教訓として、徹底的に安全性を高めた全国の原発の適合審査の加速と再稼働を進める必要がある。