公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.12.10 (月) 印刷する

ファーウェイ問題で切実感乏しい日本 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 中国の通信機器大手ファーウェイの孟晩舟CFO(最高財務責任者)が、メキシコに向かう経由地のカナダ・バンクーバーの空港で米政府の要請により逮捕された。ある情報筋によれば、ことし既に対イラン・北朝鮮との取引で制裁措置を受けた同じ中国通信大手のZTEが罰金を課せられた際、司法取引で「ファーウェイも同じことを行なっている」と情報提供したことによるらしい。ファーウェイとZTEはライバル企業ではあるが、元は人民解放軍や中国共産党と癒着している同じ穴の貉である。日本人が海外に出向く際、空港で貸し出しを行なっている携帯電話は全てが両社製である。

 ●政府もやっと方針固める
 私は12月3日付の『今週の直言』で、米国が同盟国にファーウェイ製のIT機器を使用しないよう説得し、豪州、ニュージーランド等は然るべき措置を採っている現状を指摘しつつ、「ところが、日本ではそのような措置が全く取られていない」と書いた。
 いまごろになってやっと政府は、安全保障上の観点を考慮し、事実上ファーウェイとZTEの製品を政府調達から排除する方針を固めた模様である。
 米国では今年8月に成立した国防権限法で、両社を含む中国IT企業5社の製品使用を禁じたことから、今回の措置は米中貿易戦争の一環とする見方がある。
 しかし、実態はオバマ政権時代の2010年から米下院・情報常設特別委員会のロジャーズ委員長(共和党)が、両社により米国の情報保全と通信インフラが脅威に晒されているとして調査を開始している。
 約1年後の2012年10月に公表された調査報告書は、両社の機器は「悪意のあるハード・ソフトウエアを埋め込むことにより危機・戦時に重要な国家安全保障上のシステム停止・機能低下をさせることができる」とか「強力なスパイ活動具」と指摘し、米政府のシステムで両社の使用を禁じるよう求めた。
 『孫子の兵法』でスパイを説いた用間篇第十三にある「生間(生きながらにして敵の情報を齎す)」の現代版であろう。

 ●着々と進む中国包囲網
 本年10月に、これまでのNAFTA(北米自由貿易協定)はUSMCA(米・メキシコ・カナダ自由貿易協定)として再出発したが、新協定には「非市場経済国」との貿易を締め出す条項が入った。中国を念頭に置いていることは明らかだ。
 米国は、このモデルを来年1月から交渉が開始される日本や欧州連合(EU)との貿易協定でも盛り込みを目指すと思われる。早晩、日本も旗幟を鮮明にしなければならなくなる。米国としては中国包囲網の構築により対中貿易戦を有利に進めたい考えだろう。
 1952年から1957年までの間、CHINCOMと称する対中国輸出統制委員会があったが、COCOM(対共産圏輸出統制委員会)に吸収された。そのCHINCOMが事実上再現されようとしているのに、経済界も政界も切実感が乏しいのはどうしたことだろうか。