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太田文雄

【第559回】日本は米同盟国としての役割を果たしているか

太田文雄 / 2018.12.03 (月)


国基研企画委員兼研究員 太田文雄

 

 ペンス米副大統領が演説で中国との対決姿勢を鮮明にした10月に、安倍晋三首相は訪中して日中関係を「競争から協調へ」押し上げたいと真逆の発言をし、李克強中国首相は「日本の(中国の勢力圏拡大構想)『一帯一路』への参加」を歓迎した。この直後、元米国務省職員で『スマート・パワー』の著者であるクリスチャン・ホイトン氏は「日本の対中支援が失敗に終わる理由」と題する論考を米誌ナショナル・インタレストに発表した。日本の対中政策に対する米国の苛立ちの一端がここに表れていると捉えるべきであろう。

 ●対中情報戦に非協力
 11月23日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに、中国人民解放軍との関係が疑われるIT(情報技術)企業ファーウェイ(華為技術)の製品は情報保全上問題があるため、米政府は同盟諸国に使用を控えるよう要請したとの記事が出た。既に米国は政府内での使用を禁止し、豪州では民間企業ですら使用しないことにしている。その5日後、ニュージーランドが次世代通信規格「5G」を使う無線ネットワークにファーウェイの機器を導入しないことを決めた。ところが、日本ではそのような措置が全く取られていない。
 ペンス副大統領が演説したハドソン研究所では、米英豪加とニュージーランドの盗聴情報共有協定ファイブ・アイズに日本を加えるべきであるとする報告書が本年発表された。10月に公表されたアーミテージ元国務副長官ら米国の知日派の提言でも同様の主張がなされていたが、それには日本が情報保全対策を十分にして、という条件が付いている。
 外国のスパイ活動を取り締まるスパイ防止法を本年6月に制定した豪州では、有力シンクタンクのオーストラリア戦略政策研究所が、中国人の留学生や研究者が西側から軍事技術を盗もうとしている実態について報告書を出した。日本ではスパイ防止法すら制定されていない。

 ●技術流出への警戒心希薄
 6月に米国務省はロボット工学など最先端技術を学ぶ中国人大学院生のビザの有効期間を5年から1年に短縮したが、日本では逆に中国人へのビザ発給要件は緩和されてきた。高度技術情報を盗まれるとの懸念から米国の大学は中国の大学との連携事業を見直しているが、日本の代表的な理工系大学である東京工業大学が清華大学との連携を見直す動きはない。
 中国政府が海外で運営する教育機関「孔子学院」の実態はスパイ兼プロパガンダ機関とされ、米国で相次いで閉鎖に追い込まれているのに、日本で孔子学院を閉鎖する動きはない。
 アルゼンチンでの20カ国・地域(G20)首脳会議を機会に、日米首脳間で対中政策を緊密に調整するとの報道があった。しかし、ファーウェイと同じく人民解放軍と密接なつながりを持つとされる中国のIT企業、ZTE(中興通訊)の違法行為に対して米政府が罰金で済ませようとした時、議会は黙っていなかった。米中間の摩擦は、首脳間の問題と言うより国民レベルに及んでいることを見過ごして然るべき措置を取らなければ、やがて米国の虎の尾を踏むことになりかねない。(了)