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2019.04.22 (月) 印刷する

シーレーン確保に欠かせぬ海保と海自の相互運用性 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 4月11日付の「ろんだん」で「米巡視船の佐世保配置、もう一つの狙い」として、米国の巡視船配置の狙いは、北朝鮮の瀬取り監視だけでなく中国との非対称性是正にもある、と書いた。20日の米誌ワシントンポストは「中国に対抗するため、沿岸警備隊に目を向ける米国(To help counter China, U.S. turns to the Coast Guard)」とする記事を掲げているが、その中で米沿岸警備隊長官カール・シュルツ大将は「沿岸警備隊は戦争の臨界点を緩和している」と述べている。

 ●太平洋地域に米巡視船さらに投入へ
 同記事で、米沿岸警備隊の太平洋地区司令官リンダ・フェーガン中将は、今年後半には佐世保に配置した巡視船バーソルフと同クラスの巡視船ストラットンをアジア太平洋地域に展開させて、パートナー国の訓練を支援すると述べた上で、今後さらに多くの巡視船を同地域に配備する方針を明らかにしている。
 米太平洋軍(現インド太平洋軍)は2004年、当時の司令官であったトーマス・ファーゴ海軍大将が「地域海洋安全保障構想(Regional Maritime Security Initiative-RMSI-)を提唱し、主としてマラッカ海峡におけるシーレーン(海上交通路)の安全保障を沿岸諸国と共に図ろうとしたものの、地域国からなかなか賛同が得られなかったという。これは筆者がファーゴ氏本人から直接聞いた話だ。海上の安全確保で軍が前面に出る構想には地域諸国の反発が強いことをうかがわせる。

 ●日本の海保外交もこれまでに成果
 日本も、これまで海上保安庁による海上安全外交を展開してきた。戦後間もない頃は、東南アジア諸国に日本の軍に対する警戒心が強かったことが背景にある。我が国としては、海上交通路の安全確保については、南シナ海に面しているフィリピン、マレーシア、インドネシア、ベトナムにおける能力向上を図る必要があると判断し、そのツールとして海保を前面に立てる外交を展開してきた。
 2017年には安倍首相のイニシアチブで世界35カ国の沿岸警備隊トップを日本に招き、世界初の沿岸警備サミットを赤坂迎賓館で行っている。こうした海保外交は、これまで一定の成功を収めてきたと言える。だが、それで十分と言えるかどうか。
 ワシントンポスト紙の記事でフェーガン中将は、国家安全保障の観点から巡視船が、海軍艦艇との相互運用性(interoperability)を持っていることをしっかり示したいとも述べている。日本に欠落しているのは、海上保安庁の巡視船と海上自衛隊艦艇との相互運用性であることをあらためて指摘しておきたい。