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2019.07.30 (火) 印刷する

「中国は敵ではない」への反論を支持する 石川弘修(国基研理事・企画委員)

 米国の民主党系元政府高官や中国専門家ら100人が、7月4日付のワシントンポスト紙に「中国は敵ではない」と題する公開書簡を発表したが、今度はトランプ政権の厳しい対中政策を支持する国防総省関係を中心とする専門家ら130人が18日、「対中方針を堅持せよ」と題する反対書簡を、保守系の政治ウエブサイト「ワシントン・フリービーコン」に発表し、これに加勢する専門家が次々に名乗りを上げている。

 ●起草者には対中ビジネス関係者も
 トランプ政権の対中政策を批判する「中国は敵ではない」を起草したのは、ステープルトン・ロイ元駐中国米大使、スーザン・ソーントン元国務次官補代行、エズラ・ボーゲル・ハーバード大名誉教授ら5人。
 ロイ氏はヘンリー・キッシンジャー元国務長官が設立したコンサルト会社の役員を務めている。
 これに共同署名した元政府高官には、カーラ・ヒルズ元米通商代表、ミッキー・カンター元商務長官、ストロブ・タルボット元国務副長官らがいる。ほかに日本でも名前を知られるジェラルド・カーティス・コロンビア大名誉教授、イアン・ブレマー・ユーラシアグループ社長、ジョセフ・ナイ・ハーバード大名誉教授、マイク・モチヅキ・ジョージ・ワシントン大教授らが名を連ねている。フレッド・バーグステン米国際経済研究所長、ジェフリー・ベーダ・ブルッキングス研究所上級研究員ら中道・リベラル系の研究所からの参加者も多い。
 公開書簡は、中国の経済統制や攻撃的な対外政策には問題があるとしつつも、アメリカ側が中国の脅威を誇張することに、より大きな責任があると主張する。
 具体的には、①中国は西側が構築した経済ルールの恩恵を受けてきたのであり、それを破壊するのは利益にならないことを、中国上層部の多くの現実主義者は知っている②中国が今世紀半ばまでに世界を支配するような軍事力を持つにはまだまだ高いハードルがある―などと指摘した。
 アメリカの国益にとっては、西側への中国の関与を阻害するのではなく、中国の関与を持続させ、西側諸国や国際機関との連携を促進することがベストだとする。

 ●過去の対中開放政策への疑問
 一方、これに対抗する「対中方針を堅持せよ」は、元米太平洋艦隊情報担当部長のジェームス・ファネル大佐(退役)が起草し、トシ・ヨシハラ米海軍大学教授や海軍退役将校らが多数賛同者に名を連ねている。また、国家基本問題研究所の第四回「国基研日本研究賞」受賞者のジューン・ドレイヤー米マイアミ大学教授や、国基研日米中印4か国シンポジウムの招待参加者、アーサー・ウォルドロン米ペンシルベニア大学教授を含む学界、シンクタンクの中国や安全保障専門家も多く加わっている。
 反対書簡で一番の問題だと見られているのは、過去40年間にわたり対中関与という開放政策を続けて来た結果、アメリカの国家安全保障が損なわれてしまったということだ。
 書簡は、外交専門家の多くが中国政府の真の狙いを正確に把握することなく、共産党政権の非難すべき行動は13億の民を統治する難しさに起因すると理解ある態度を示してきた誤りを指摘。彼らは経済の近代化が一定のレベルに達すれば、いずれ“責任あるステーク・ホールダー(利害関係者)”になると説きつづけてきたが、「共産党支配下ではそんなことは起きなかったし、今後も起きることはないだろう」と楽観視を戒めている。
 さらに書簡は、中国は東、南シナ海で領海拡張や自由航行など既存の国際ルールを無視、ウイグルの人権抑圧、香港の自治侵害、台湾への脅迫など多くの問題を指摘している。

 ●対中「宥和政策」では解決せず
 このほか、在米中国人の人権運動家、陳建利氏は、そもそも「共産党政権下の国と、自由主義国の間に自由貿易がありうるはずがない」と断言する。また、ニッキー・ヘイリー前米国連大使はフォ-リン・アフェアーズ誌ウエブサイトで、中国の脅威からアメリカの死活的な利益を守るためには「全面的な政府の力だけでは不十分、国を挙げての対応が必要だ」と明言している。
 昨年のペンス副大統領演説や、議会超党派の対中報告で、中国がアメリカ国内で浸透工作さえ展開していることが明らかになり、アメリカの国論は対中硬化へとシフトしている。その中で現政権の軟化を求める公開書簡「中国は敵ではない」は、対中「宥和政策」の主張であり、それに対する反論が強いのも当然である。