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2019.08.20 (火) 印刷する

今日の香港、明日の台湾、明後日の沖縄 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 香港では、容疑者の身柄を中国本土に送ることができる法令の撤回を求めて住民の4人に1人が参加するデモが日に日に激化している。警察だけでなく武装警察や人民解放軍が出動する可能性も出てきた。香港には約6000人の人民解放軍が常駐しており、さらに約2万の人民解放軍が広東省の隣接省に待機、加えて60万の人民解放軍と66万の武装警察等準軍事組織が投入可能とされている。 
 北京政府としては10月1日の建国70周年記念日までは、何とか穏便に済ませたい意向であろうが、人民解放軍のデモ鎮圧訓練や香港近郊に集結する武警の動画を公表して香港への圧力を強化しつつある。混乱に歯止めがかからなくなれば第2の天安門事件が再来する恐れがある。

 ●ありうる人民解放軍の介入
 本年頭に、中国の習近平国家主席は台湾に対し「一国二制度」による統一を呼びかけたが、台湾の蔡英文総統は即座にこれを拒否した。香港の状況を見れば当然の対応といえる。
 香港に対する北京政府の対応は、来年1月に予定されている台湾総統選挙に、そしてさらには沖縄の帰趨にも影響を与える。
 北京政府は、香港や沖縄同様、様々な偽情報を影響力行使の手段として使用している。習近平政権にとっては、米国との貿易摩擦をはじめとする内外の山積する課題から国内の批判の目を逸らすことができる。
 天安門事件の再来は、北京政府としても避けたいところであろうが、天安門事件の約20年後には北京オリンピックの開催にこぎつけ、国際社会からの孤立を脱したことを振り返れば、中長期的視野で国際情勢を考える中国人にとって人民解放軍の投入も選択肢として考えているだろう。

 ●沖縄の領有も狙う中国
 2017年10月16日の「ろんだん」でも指摘したが、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報には、次のような記事が掲載されている。
 「2006年3月4日に沖縄では住民投票が行われ、その結果75%の住民が独立を求め中国との自由交流の再開を要求、残りの25%が日本への帰属だが自治を求めた」
 これは明白かつ意図的な偽情報で、沖縄でこうした住民投票が行われた事実はなく、また大多数の沖縄住民は日本への帰属を望んでいる。
 中国は、1968年に東シナ海の大陸棚に石油資源が埋蔵されている可能性が指摘された直後に、尖閣諸島の領有権を主張し始めた。「日中関係は完全に正常な軌道に戻った」と安倍総理は述べているが、尖閣周辺の中国海警船の活動は益々激しさを増している。台湾を手中にした暁には、それを足がかりに必ず沖縄に対する領土的野心を露わにするであろう。
 その布石として2013年5月8日の人民日報は、「沖縄の主権は未だ決まっていない」との社説を掲載、2016年8月12日の環球時報は「沖縄を琉球と呼称すべき」との主張を掲載している。
 沖縄を手中にすることは、アジアにおける米軍の主要基地をなくし、アジアから米国の影響力を排除することを意味する。今日の香港の混乱を他人事と考えてはいけない。