米民主党の大統領候補選びが佳境に入ってきた。その内、急進左派の候補は、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン両上院議員に絞られた。勢いがあるのは78才ながら、前回2016年の大統領選でも予備選でヒラリー・クリントン元国務長官の心胆寒からしめたサンダース候補である。
●早々に独走態勢入りも
ウォーレン候補はエリート臭が強く、弁護士時代に大企業を顧客に財を成したうえ、白人でありながらインディアンを自称して少数派優遇策に便乗し、ハーバード大学教授の地位を得た疑惑というより事実があり、熱心な支持者はさほど多くない。
例えば民主党の最年少女性下院議員で左派に圧倒的人気を誇るアレクサンドリア・オカシオコルテス氏はサンダース支持を明確にし、陣営の選挙運動に大きく貢献している。
サンダース候補は議会で上院民主党会派に属しているが、民主党員ではない。バーモント州の小さな市の市長から、同州選出の下院議員、上院議員へと政治経歴を重ねる間、一貫して独立派(インディペンダント)の立場で活動してきた。共和党はもちろん、民主党のリベラル・エスタブリッシュメント(進歩派既得権益層)に対しても、エリート優先の金権政治だとして、しばしば厳しい批判の言葉を投げかけてきた。
父はポーランド移民のユダヤ人で、サンダース候補自身もユダヤ教徒。18才までニューヨーク市ブルックリンのユダヤ人集住地区で過ごした。生粋の庶民の出である。
政策はともかく、人柄は非常に開放的かつ誠実で、ウォーレン候補のようなうさん臭さはない。今後、ウォーレン氏が選挙戦から撤退した場合、支持者はほぼ一致してサンダース支持に回るだろう(逆のケースで、サンダース支持者がどれだけウォーレン支持に回るかは分からない)。
民主党の中間派候補は、目下バイデン前副大統領、ブティジェッジ前サウスベンド市長、クロブシャー上院議員、ブルームバーグ前ニューヨーク市長の間で票が割れている。今後、早い段階でサンダース氏が独走態勢に入る可能性もある。
●米軍出動には慎重姿勢
11月の本選挙でトランプ対サンダースの争いとなった場合、トランプ氏が圧勝すると断言する人も少なからずいるが、2016年の前回選挙で当初可能性ゼロと言われたトランプ氏が勝った例に照らしても、現時点で予測は困難である。
日本との関係でいえば、もしサンダース大統領が誕生すれば、尖閣諸島をめぐる情勢は一気に不安定化しよう。サンダースは2003年のイラク戦争はもちろん、1991年の湾岸戦争開戦にも強く反対している。
湾岸戦争に反対した理由は➀戦争になれば兵士、民間人を含め多くの人が死ぬ➁サダム・フセインのクウェート侵攻は許しがたい暴挙であり、米国内はもちろん世界のほとんどの国が非難している。まさにそうであるがゆえに、武力でなく国際世論の力でクウェートから撤退させることが可能である➂膨大な軍事費を米国内の低所得層ケアやインフラ整備に回すべきである―等々だった。
サンダース候補は手続き論においても、戦争は大統領の独断ではなく、必ず議会の承認を得た上で始めねばならないと主張してきた。
仮に中国軍が尖閣に侵攻した場合、サンダース大統領なら直ちに米軍に出動を命じるとは考えにくい。これは中国側のリスク計算を大きく左右する要素となろう。そうした危険な状況が、今から1年を経ず現れるかも知れないのである。日本の防衛体制は待ったなしで強化せねばならない。