公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2023.01.16 (月) 印刷する

米海兵沿岸連隊の意味合いと注目点 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

11日に行われた日米外交・防衛閣僚による安全保障協議委員会(通称2+2)の共同発表で、沖縄の米第12海兵連隊が2025年までに第12海兵沿岸連隊(Marine Littoral Regiment=MLR)に改編されることが明らかにされた。筆者は、先週の「ろんだん」で統合海洋軍(Integrated Maritime Force=IMF)構想について論述し、その中にMLRが含まれることに言及したが、改めてその意味合いや注目点について紹介してみたい。

尖閣・台湾有事への備え

先週本欄で紹介した米海軍協会の月刊誌プロシーディングスにはMLRの編成図も載っており、それが下図である。これは中国のミサイル攻撃下にあっても機動的に戦力を維持するために創設された海兵隊の新戦術構想、遠征前線基地作戦(Expeditionary Advanced Based Operations=EABO)を実行する中核部隊で、司令部のほか、沿岸戦闘チーム(Littoral Combat Team=LCT)、沿岸後方大隊(Littoral Logistic Battalion=LLB)、沿岸対空大隊(Littoral Anti-Air Battalion=LAAB)、長距離無人水上艇(Long-Range Unmanned Surface Vehicle=LRUSV)、通信隊(Signals)から成る。

日本のほとんどのメディアは、この編成の中の沿岸戦闘チームに配備される対艦ミサイルについて紹介しているが、10日の米ワシントン・ポスト紙によれば、この対艦ミサイルは海軍・海兵隊遠征船舶阻止システム(Navy-Marine Expeditionary Ship Interdiction System=NMESIS)であり、無人車両に搭載して発射する世界初の兵器である。同ミサイルは、小型・軽量であることから空輸によって機動的に、しかも無人で投入できるため、尖閣諸島に上陸した中国の人民解放軍や海警、海上民兵への攻撃や、台湾に上陸した人民解放軍への後方攻撃や牽制に使用することができる。

仮に発射源が特定されて敵の反撃を受けたとしても、無人であることから人的損害を被ることがない。現在ウクライナで大活躍している米陸軍のハイマース(High Mobility Artillery Rocket System= HIMARS)が対地兵器であるのに対し、NMESISは対艦兵器である。

しかし、射程は200キロ程度であるため、米海兵隊が駐屯する沖縄本島から発射しても、尖閣諸島周辺はおろか台湾海峡を渡ってくる人民解放軍艦船も攻撃できない。このため海軍の軽両用艦(Light Amphibious Warship=LAW)の協力が必要であり、かつ有事に至らないグレーゾーン事態では沿岸警備隊の警備艇である即応カッター(Fast Response Cutter=FRC)が前面に出なければならない。そこで、先週紹介した海軍、海兵隊、沿岸警備隊の3軍を統合する統合海洋軍が必要となってくるのだ。

プロシーディングス誌には沿岸警備隊カッターに海軍ヘリコプターが着艦する写真が掲載されているが、非軍メンタリティーに固まっている海上保安庁にこんな芸当はできない。

中国の認知戦阻止も任務に

筆者が注目しているのは、司令部に付属している「情報環境下の作戦隊」(Operations in the Information Environment=OIE)である。これは、敵の攻撃下で情報収集をするとともに、中国が偽情報やプロパガンダを流布して認知戦を効果的に遂行することを阻止するための作戦をも含んでいると捉えることができる。

第12海兵連隊の海兵沿岸連隊への改編は、昨年3月のハワイの第3海兵連隊の改編に続くもので、沖縄からグアム島に移転する予定の第4海兵連隊も2027年までに改編されることになっている。(了)