公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2025.10.20 (月) 印刷する

文民統制には制服組の信頼も大切 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

10月10日に石破茂首相は「戦後80年所感」を出した。その中で首相は、先の大戦が何故避けられなかったのかに関して「文民統制」が機能しなかったことや、世論を煽ったメディアに政治の意思決定が引きずられた点等を挙げた。

筆者は平成13年から17年まで防衛庁情報本部長に任じ、平成14年から16年までの2年間、防衛庁長官だった石破氏に仕えた。その実体験に基づき、統制される側の制服組の立場として、統制する政治家に対する信頼感が「文民統制」が機能する上での基本である事を指摘したい。
 

不当な指示を覆す努力をせず

平成15年に、イラク戦争後の復興支援のため、自衛隊を派遣することになった。与えられた任務内容から、当時の先崎一陸上幕僚長は、所用隊員数を約800名と算出した。ところが、当時の福田康夫官房長官は500名にするよう命じた。所用隊員数が事前にメディアに漏れたからという、軍事的合理性に基づかない理不尽な指示であった。福田官房長官が衆院議員に当選したのは平成2年であり、石破防衛庁長官は昭和61年に議員になっていることから、先輩議員としてこの理不尽な文民統制の結果を覆してくれることを制服組は期待したが、叶わなかった。

命が惜しくて?イラク視察を拒否

自衛隊がイラクに派遣された後、制服組は石破長官に、現地を視察し、任務に当たっている隊員を激励してもらうことを計画した。しかし、その計画は3回、直前になって石破長官によってキャンセルされる。いわゆるドタキャンである。1回や2回なら、直前に、より優先順位の高い業務が入ることも考えられるが「俺が死んだら困るだろう」と言われると、制服組は「長官は死ぬのが怖くてドタキャンを繰り返す」と勘ぐる。

身をもって危険に立ち向かおうとしない文民リーダーに制服組は信頼を置かない。

メディアに引きずられて部下をかばわず

平成20年8月、海上自衛隊のイージス艦「あたご」が千葉県南房総沖で地元漁船の「清徳丸」と衝突した。メディアはあたご側にすべての過失があると断定する報道を繰り返した。この状況下で、石破防衛相は事件発生から3日後に漁業組合や遺族宅を訪れ、直接謝罪した。

しかし、裁判の結果は「回避義務は清徳丸側にあり、あたご側に回避義務はなかった」とし、あたご側の無罪が確定した。

即ち石破防衛相は、十分な調査が行われる前から世論を煽るメディアに引きずられて、一方的に漁船側に謝罪し、配下の自衛隊員をかばおうとしなかった。

こうした人物が「文民統制を機能させるべきだ」とか「世論を煽るメディアに引きずられて政治判断を誤るな」と説いても、統制される側の制服組は全く信頼しておらず、説得力に欠ける。(了)