自民党の高市早苗総裁が混迷の末に新政権を発足させると、いきなりトランプ米大統領来日の試練が待ち受けている。高市政権の誕生は、外交に尻込みした石破茂政権の宿痾を断ち切り、日本の国際的影響力を復活させる戦略的好機を迎える。筆者が期待するのは、米ソ冷戦時代にサッチャー英首相が反共政策でレーガン米大統領の尻を叩き続けたひそみに倣い、トランプ大統領を賢く、かつ狡猾に対中、対露抑止へと誘導するリアリズム外交である。
首脳外交回避した石破氏
石破首相は6月に北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を欠席したのに続き、退任直前の10月13日には、中東原油に依存する日本に必須のガザ和平に関する国際会議も欠席して、国益を著しく損なった。
日本はインド太平洋のパートナー国として、NATO会議への招待を受けてきた。3年連続で参加した岸田文雄前首相は、独自の戦略観から「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と訴え、NATO諸国の東アジアへの関心を高めた。ウクライナ侵略のロシアを中国が経済面から支えている現実と、中国が台湾攻撃を決意すればロシア、北朝鮮が呼応するリスクを認識させた。
ウクライナ侵略以降、国連安保理が機能不全に陥り、NATOなどパートナー諸国との連携が重要性を増しているが、石破首相にはその認識が欠けていた。NATO首脳会議欠席により、中露枢軸を抑止するとともに、北朝鮮の核開発のリスクを欧米と共有する好機を自ら封じてしまった。
石破首相の「外交無策」はそれにとどまらなかった。トランプ大統領がエジプト東部で開いたパレスチナ自治区ガザの和平を巡る首脳級会合でも、大阪・関西万博の閉会セレモニーを優先して参加を見送った。日本を除く先進7カ国(G7)はいずれも首脳が出席しているにもかかわらず、日本は駐エジプト大使の派遣にとどめ、岩屋毅外相が首相の代わりに出席することさえしなかった。
中露朝に日米結束を見せつけよ
いうまでもなく、日本の正面には、中国、ロシア、北朝鮮という敵対的な「独裁の枢軸」がある。しかも、唯一の同盟国である米国のトランプ政権は、独裁者との会談を好み、同盟国にまで根拠不明な相互関税という名の高関税を強いる有様だ。米ソ冷戦時代のように、もはや米国が日本の後ろ盾になっている時代ではなくなりつつある。米中対立の中とはいえ、トランプ大統領が中国と無原則に手打ちしてしまえば、日本は裸で放り出される。
従って日欧は、同盟国には恫喝、独裁国には譲歩を繰り返すトランプ大統領の自尊心をくすぐり、機嫌を損ねないように慎重にせざるを得ない。つい最近もトランプ氏は、ウクライナが対露戦争で必要な巡航ミサイル「トマホーク」の供与を一時ほのめかしたものの、プーチン・ロシア大統領との電話会談を終えた途端に前言を翻した。たとえ、陸上型のトマホーク配備が困難でも、プーチン氏との首脳会談の前に供与を否定すれば停戦への圧力を減らしてしまう。
まして、トランプ氏は10月末にアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開催される韓国で、中国の習近平国家主席との米中首脳会談を調整中という微妙な段階にある。従って、高市新首相はずる賢く、かつ計算高い現実主義をもって、来日するトランプ大統領を称揚しながらでも、中露朝に日米の結束を見せつけなければならない。新政権は今後、共通の価値観を持つ欧州などと対中、対露だけでなく、対米でも協調することが欠かせない。(了)





