イランの核兵器開発阻止を目的の一つとする米国とイスラエルの軍事攻撃に対し、イランがホルムズ海峡の事実上の封鎖などで反撃、石油や天然ガスの海上輸送に支障を来している。それに対してトランプ米大統領がイランを海上封鎖し、イランの石油輸出を止めたことで、事態はさらに悪化した。エネルギー源の多くを中東原油に頼る日本の脆弱性がイラン戦争で改めて露呈した。
石油・ガスの輸送回復に半年
4月17日の国家基本問題研究所の企画委員会で、海事専門家の杉本和重氏のゲスト講義があった。大型タンカー1隻が運ぶ石油は5万~8万トン、1隻のLNG(液化天然ガス)船の運べる量も6万~7万トンである。1日に1.7隻の石油タンカーが日本に石油をピストン輸送している計算になるそうだ。タンカーの運航は紛争地帯を避けるという国際的な取り決めがあり、1隻の出発に各種の契約や船会社の船員の確保など、半年かかる手続きが必要である。今、イランがトランプ氏の条件を受け入れてホルムズ海峡の通航が可能になっても、石油や天然ガスの海上輸送が正常に戻るまで半年かかる。
欧州や中国はロシア産の天然ガスや石油の輸入を黙認する方向だが、日本、韓国や東南アジアの幾つかの国は石油や天然ガスの調達が厳しくなる。日本は米国産のシェールガスやオイルを輸入することになる。我が国の石油の備蓄240日(8か月)分も、使い切ってしまう可能性がある。図1に示すとおり、我が国のエネルギー自給率は先進国の中で最も低いのだ。石油の中東依存度が極めて高いのが日本だ。ホルムズ海峡の封鎖が8か月を超えると、日本はエネルギー危機に陥る。
柏崎刈羽原発運転再開の意義
一方、新潟県の東京電力柏崎刈羽原子力発電所6号機が、再稼働時の幾つかのトラブルを乗り越えて3月22日に送電を再開。出力を100%まで段階的に高めて、4月16日に原子力規制庁の使用前検査に合格し、同日、営業運転に入った。これにより、首都圏への安定した電力供給が実現した。
6号機1基の再稼働で年間110万トンもの天然ガスが節約できる。LNGタンカー約15隻分である。また、1基の再稼働で年間約1000億円の経営改善効果があると試算されている。現在までに14基の原発が再稼働している。電気出力が異なるので、12基相当として、LNGタンカー180隻分に当たる。残りの再稼働予定の10基を再稼働させれば、20基相当として、300隻分の石油やLNGが節約できるのであるから、政府は緊急的な政策として、安全対策工事の準備ができた原発からどんどん再稼働させるべきだ。他の国々は原発を運転しながら、安全対策工事も進めている。現在まで最長で13年間も原発を止めた経済的損失は莫大な額に上る。
増大する電力需要
2022年3月22日には、福島沖地震により火力発電所が4基運転不能に陥ったなかで、寒波のため首都圏の電力需給逼迫が発生し、危うく3500万人が住む首都圏の大停電(ブラックアウト)が起きるところだった。2018年の胆振東部地震で北海道全体が停電した際、病院の停電による生命維持装置の停止、搾乳機が動かないための多数の乳牛の乳房炎の発生など酪農への痛手、鉄道や車の停止に伴う観光客の足止めなど、2000億円を超える経済損失が発生した。首都圏は約6倍の人口を抱え、大停電があれば政府や東京都などの自治体、各企業の本社のサーバーにも支障が出て、想像を絶する混乱が生じたと予想される。
原子力発電の意義は、各家庭への大切な電力供給のみならず、人工知能(AI)やデータセンターへの電力需要の増大に応えるところにもある。
再エネへの幻想を捨てよ
「再生可能エネルギー(再エネ)を増やせば原発は不要だ」などの誤った主張がまかり通っていたが、全原発を停止して経済が著しく悪化したドイツの実態を分析する必要がある。再エネ比率が増えれば増えるほど火力発電所の設備利用率が低下することに伴う維持費の高騰、大規模バッテリーの増加など、再エネ比率が40%を超えると電気代が4~5倍に高騰することは、国基研で試算した(https://jinf.jp/wp-content/uploads/2024/09/Appendix-JINF-Proposal-for-Energy-Policy.pdfの2ページの図に再エネ比率と電力コストをグラフで示している)。
図2に、2024年度の東京電力管内の首都圏の電源構成と、政府のエネルギー基本計画に基づく2040年度の目標値を示す。
2040年度の目標値のうち、水力を除く再エネの比率が37%~45%もあるのが問題である。太陽光発電の設備利用率(発電設備の能力に対して実際に発電できた電力の割合)はわずか13%である。同様に風力は約25%だ。国の電気需要の100%をそれぞれ供給できる太陽光と風力の発電設備を設置して、再エネだけで需要量の200%もの電力を供給できる膨大な設備を設置しても、実際には38%の電力しか供給できないのだ。天候の影響を受けにくい水力発電には10%程度の電力供給を期待している。
さらに厳しい条件として曇天無風で太陽光と風力発電の出力が瞬間的にゼロになっても、水力・火力・原子力で国の電力を100%供給できる設備が必要となる。つまり太陽光と風力発電の38%に水力発電の10%を加えると48%に上昇するが、それを達成するには電力需要の300%を供給できる発電設備を設置しなければならないのだ。
しかし、水力・火力・原子力で国の電力需要が100%満たせるなら、太陽光や風力発電設備は不要なのだ。従って、水力を含む再エネで需要の48%も賄うことが、経済的にいかに無駄かを、きちんと認識する必要がある。
再エネが増えれば電気代は4~5倍に高騰し、産業は競争力を失い、生活弱者の生活はますます苦しくなる。また、我が国の太陽光パネルの敷設密度は世界一である。その太陽光パネルは真夏に表面温度が砂漠の砂とほぼ同じ摂氏80度に達する。これは、二酸化炭素(CO2)を酸素に変え、太陽光のエネルギーを植物の成長で蓄積する効果を山林伐採でなくす環境破壊でもある。我が国の年間平均気温が世界一のペースで上昇していることは、以前にも詳しく説明した(今週の直言【第1299回】太陽光パネルが招くヒートアイランド現象)。こうしたことから、安全性を高めた原子力発電所の再稼働が如何に重要か分かる。政府は安全対策工事の準備のできた全原発を再稼働させよ。

図1 我が国のエネルギー自給率

図2 2024年度の東京電力管内の首都圏の電源構成と2040年度の目標値





