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奈良林直

【第1299回】太陽光パネルが招くヒートアイランド現象

奈良林直 / 2025.10.15 (水)


国基研理事・東京科学大学特定教授 奈良林 直

 

 2011年3月11日の津波に起因する福島第一原子力発電所事故が発生して以降、世界各国は脱原発政策と再生可能エネルギーの主力電源化に力を入れた。我が国も再エネ賦課金制度により太陽光パネルを多数敷き詰めたメガソーラーが多く建設され、世界第3位の太陽光発電大国となった。国土面積の小さい我が国は1平方キロメートル当たり、世界第1位の太陽光パネルの設置状況となった。しかし、近年、世界は原発を主力電源化し、普及し過ぎた太陽光パネルによる環境破壊を問題視するようになった。

 ●気温上昇目立った日本の夏
 今年夏の記録的な高温に関する9月5日付の気象庁の要因分析によると、亜熱帯ジェット気流が日本周辺で北に蛇行し、太平洋高気圧の張り出しが強く、特に6月中旬から8月上旬にかけて顕著な高温となった。8月5日に群馬県伊勢崎市で 41.8度を記録したのを筆頭に、日本各地で国内最高気温を更新し、40度以上の延べ地点数(30地点)と、猛暑日(最高気温35度以上の日)の延べ地点数(9385 地点)は共に観測史上最多となった。
 世界の年平均気温の長期上昇傾向は、10 年あたり0.08度となっているが、近年は0.21度で、約2.6 倍大きい。日本の夏の平均気温を見ると、1995~2024年の30年間の上昇傾向は10年あたり0.13度であったが、近年は0.50度となり、約3.8倍である。我が国が世界の中で最も上昇率が高い。

 ●国土を砂漠化する緑の伐採
 日本の気温上昇が高い理由である上空のジェット気流の蛇行は、地上からの上昇気流の影響があるはずである。そこで、簡単な手計算を行った。太陽光は1平方メートルあたり1キロワットの入熱があるとされるので、面積100メートル四方の太陽光パネルの入熱は1万倍の10メガワットで、これが高さ100メートルまでの空気を加熱し、上昇気流を生じさせると仮定した。
 20度から真夏の太陽光パネルの表面温度に等しい80度まで、60度の温度上昇に必要な加熱時間は1.8時間である。太陽光パネルの設置面積は国土の0.08%である。30度の空気を10度加熱するには1.8時間の6分の1の18分でよい。午前8時から午後2時まで6時間加熱すると、18分の20倍の加熱量であるから、0.08%の20倍に当たる国土の1.6%を40度まで加熱できる。
 太陽光パネルは、山林や草原の緑を剥ぎ取って設置される。植物は太陽のエネルギーを光合成により炭水化物や糖質、脂質といった有機物に変え、温度上昇を緩和する。また植物は地球温暖化ガスの二酸化炭素(CO2)を酸素に変える。太陽光パネルにはこのような作用はなく、ヒートアイランド現象を発生する。熱い上昇気流により上空のジェット気流が蛇行することもあり得る。緑を伐採して太陽光パネルを敷き詰めることは、国土を砂漠にしているに等しい。エアコンの室外機による加熱がさらに加わる。手計算ではなくて、スーパーコンピューターで計算してみてほしい。(了)