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本田悦朗

【第1298回】継承されるべきは進化したアベノミクス

本田悦朗 / 2025.10.15 (水)


国基研企画委員・元内閣官房参与 本田悦朗

 

 高市早苗自民党新総裁は、経済政策の基本理念としてアベノミクスを継承すると述べている。これに対し、現時点でアベノミクスのような大胆な財政金融政策を実施した場合には、金融市場が不安定になり、実体経済が混乱するとの懸念が内外から寄せられている。しかし、これは誤解であり、アベノミクス自体、経済環境によって変化するものである。高市氏も現時点において、開始当初のようなアベノミクスを再現することは全く考えておらず、「国民の不安を希望に変える適切な政策」を模索していくこととなる。

 ●今も必要な消費と投資の喚起
 アベノミクスとは、継続的に物価が下落するデフレ不況から脱却し、持続的な経済成長に繋げるため、①大胆な金融緩和②機動的な財政政策③民間投資を誘引するための成長戦略―を実施することである。
 その中心となる考え方は、国民の経済行動はマインドによって大きく変容するというものである。物価下落が続く社会では将来に対して悲観的なマインドが定着し、消費も投資も低調となり、経済の成長力が失われる。その場合、経済を持続的に刺激することによって、消費や投資を喚起し、緩やかなインフレマインドを形成することが経済成長の前提となる。そのようなマインドの変化を政府・日銀が引き起こすための政策が、2%の物価安定目標であり、積極的な財政政策と緩和的な金融政策である。
 現在は、持続的に物価が下落し続けるという意味でのデフレの状態ではない。逆に、直近の物価(8月の生鮮食料品を除く消費者物価指数)は、前年同期比2.7%上昇と物価安定目標を超えており、アベノミクス開始時(2012年12月で、マイナス0.2%)と比べると様変わりである。従って、アベノミクスのような強力な財政金融政策は必要ない。
 しかし、2.7%の物価上昇率のかなりの部分は、海外の高物価に由来する輸入原材料価格の高騰が流通過程で価格転嫁されてもたらされたところが大きい。国内の賃金上昇が消費意欲を喚起し、物価を押し上げるというデマンドプル(需要けん引)型のインフレ要因はまだ1%台後半で、目標に達していないとみられている。2%の物価安定目標を重視し、それを安定的に達成するために消費と投資を喚起し続けるというアベノミクスの考え方は生きている。

 ●期待できる生産性向上効果
 進化したアベノミクスは、喚起された需要が設備投資等、潜在的な供給力を刺激し、生産性を向上させる効果を持っている、という考え方(これを「高圧経済論」という)を重視する。この考え方は以前から存在したが、最近、米国のイエレン元連邦準備制度理事会(FRB)議長が主張して以来、注目を集めるようになったものである。
 需要の拡大につれ、人手不足による賃金上昇や、より生産性の高い企業に転職しやすくする労働市場改革、危機管理を含めた先端的な分野への積極的な投資を政府が牽引することができるようになり、生産性向上に寄与するだろう。
 アベノミクスは進化するのである。(了)