公益財団法人 国家基本問題研究所
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第八回(令和3年度) – 日本研究賞 受賞者

国基研 日本研究賞
産経新聞PDF2021年7月2日付産経新聞に、 第8回「国基研 日本研究賞」の 記事が掲載されました。 内容はPDFにてご覧いただけます。【 PDFを見る 】

日本研究賞
トシ・ヨシハラ(米戦略予算評価センター(CSBA)上席研究員)

「中国海軍 vs. 海上自衛隊」(ビジネス社、2020)

受賞のことば

トシ・ヨシハラ

日本研究賞を受賞して恐縮しております。この名誉ある賞授与を決めていただいた櫻井よしこ国家基本問題研究所理事長や選考委員の先生方には心から感謝します。私の研究を何年にもわたって支えてくれた同僚や日本の友人たちに感謝する次第です。日本での翻訳で『中国海軍 vs. 海上自衛隊』と題された私の著書が太平洋の東西両側でこれまで欠けていた政策議論を刺激したことは喜びに堪えません。

私が『中国海軍 vs. 海上自衛隊』を書いたのは、日中間の海軍力バランスに起きている劇的な変化に注意を喚起するためです。十年余にわたり私が観察してきたのは、中国海軍の近代化が日本の安全保障を侵食する姿でした。私が最も懸念したのは中国海軍がすでに枢要な点で日本に追いつき、場合によっては日本を追い越していることです。地域の海軍力バランスの厳しい不均衡が大国間の熾烈な競争や戦争に先行して起きている歴史があるにもかかわらず、この東アジアにおける力の移行について政策や研究者の解説がほとんどみられていません。とりわけ困惑するのは、ワシントンの関心が米中対立に焦点を合わせており、日本のこの困難な状況が相応の関心を受けていないことです。これらの懸念が中国海洋パワーの向上で広がる衝撃について書く動機となったのです。

この海軍力のシフトは日本や最友好国、アメリカに対する大きな挑戦の兆しです。アジアで優位を獲得する中国の野望が妨害を受けないとなると、日米が仕切っていた長期にわたるアジアの平和が壊されることになるでしょう。日米は中国の侵食に対し地域の秩序を守ることに全面的にコミットしてきたのですが、隆盛する中国の計画を挫くには、同盟国側に一層の資源と協力が求められるでしょう。西太平洋で最も有能な最前線国、日本が中国に対応できないとなれば、同盟国側の成功の見通しは暗いものになります。それ故に、日本の相対的な低下が心配のタネであり、『中国海軍 vs. 海上自衛隊』では、日米同盟が軍事バランスを回復し、長期的な対中競争の条件を設定するための迅速な行動を求めています。

中国に対する私の学問的な関心は日本で始まりました。一九九一年、国際基督教大学(ICU)の一年生の時、私はバックパックを背負って一か月にわたる中国の一人旅に出かけたのですが、この型破りの旅は自らへの挑戦のためでした。往路は横浜から上海、帰路は天津から神戸へ戻る船旅で、天安門事件後の孤立した中国の姿を垣間見ることができました。その時期は最高指導者、鄧小平が経済改革へ向けて大きく乗り出した時でもありました。北京の通りは自転車であふれ、私のような外国人訪問客には外貨交換証明書が必要な時代でした。日本でスタートした、この興味の尽きない旅こそ、中国に対する好奇心を燃やし続け、今日も駆り立てる知の旅のエネルギー源となっているのです。

産経新聞の古森義久氏から受けた支援と激励には恩義を感じています。『中国海軍 vs. 海上自衛隊』を初めて取り上げ、報道してくれたことがこの研究の翻訳につながったのです。元海上幕僚長の武居智久氏には素晴らしい翻訳をしていただき感謝しております。武居氏の地位と名声がこの翻訳本に信頼感を与える一方、海軍問題を熟知する氏の翻訳が日本国内の広範な読者に対し分かりやすく、人を引き付けるものとなったのだと思います。

最後に千葉県佐倉市在住の私の両親、吉原恒夫、淑子について触れたい。両親は米国在住の息子のために絶えず日本について最新の情報を送り続け、母国と離れて住む距離感を縮めてくれました。私は定期的に母国を訪れ文化や国内のムードに浸り、日本の安全保障というのが抽象的な概念ではないことを実感したのです。日本の防衛というのは日本の人々であり、幸福であり、繁栄と自由、そして生き方そのものなのである。この素朴な真実こそ、長期にわたる中国との競争についての私の研究の糧となり続けるでしょう。


略歴

米戦略予算評価センター(CSBA)上席研究員。1972年、九州生まれ。台湾育ちで中国語が堪能、2009年米国籍取得。中国の海洋戦略研究で米国有数の権威といわれる。
ジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院で修士、タフツ大学フレッチャー法律外交大学院で博士号を取得。同大学院、カリフォルニア大学サンディエゴ校国際政策戦略大学院、米空軍大学戦略学部の客員教授を歴任。また、米海軍大学戦略担当教授やアジア太平洋研究のジョン・A・バンビューレン・チェアを務めた。現在、ジョージタウン大学外交大学院でインド太平洋の海軍力について教鞭をとっている。

最近の著作には“Seizing on Weakness:Allied Strategy for Competing with China’s Globalizing Military”、 CSBA 2021(弱点を衝く:グローバル化する中国軍事力と競合する 同盟国戦略)、また“Dragon Against the Sun: Chinese Views of Japanese Seapower”、CSBA 2020『中国海軍 vs. 海上自衛隊』は、武居智久元海幕長の手で翻訳、2020年日本で出版された。これが日本研究賞受賞作となった。さらにジェイムズ・R・ホームズ氏との共著では、“Red Star over the Pacific:China’s Rise and the Challenge to US Maritime Strategy”、海軍研究所出版 2010、『太平洋の赤い星』として出版された。海軍作戦部、インド太平洋軍司令部、海兵隊司令部の読書リストに加えられている。初版(2010年出版)は日本語のほか中国、韓国、台湾、ドイツの各国語に翻訳された。2016年、米海軍勲功文民賞を授与された。


日本研究特別賞
李 宇衍(元落星台経済研究所研究委員)

西岡力著『でっちあげの徴用工問題』を韓国語に翻訳した功績

 

受賞のことば

李宇衍

今韓国の状況は暗澹としています。現政権の政治・経済的失敗とともに、対外的な国防・外交政策は亡国の影を落とし深い懸念をかき立てます。

このような憂鬱の中でもこの賞を受賞することは、やはり嬉しいことです。なぜなら日本側の国家基本問題研究所が賞を与え、そして韓国側の黃意元氏と私、本人が賞を受けることは、日本と韓国の自由右派による日本と韓国の自虐史観に対する共同闘争の出発、歴史戦争の宣戦布告となるからです。

黄意元氏と私が『でっち上げの徴用工問題』の韓国語版の出版を計画する際、私たちはまず韓国と日本の自由右派が意見を交換し討論する必要があることを痛感しました。それが共同闘争の思想的基礎であるにもかかわらず、日本側の研究成果が韓国側には全く知られていなかったからです。

文在寅政府の下で2015年の慰安婦問題に対する韓日合意が事実上無効化されて、韓日関係の基礎である1965年の韓日協定が2018年の韓国大法院の戦時労働者(徴用工)判決により否定されたことに伴い、両国の関係は前例のないほど危うくなっています。このような状況で、日本の自由右派の研究が、韓国で翻訳すらされていないという事実は、実に嘆かわしいことでした。

私は1990年代末に大学院に進学して以来、韓国の民族主義、特に反日種族主義に対して深い違和感を持っていました。当時はまだ深い研究を行ってはいませんでした。2005年に提出した博士学位論文を作成しながら、韓国の国史学界の「植民地期日本による朝鮮林野と山林収奪」という主張の虚構性を知ることになり、韓国の反日種族主義的オピニオンリーダーに対する反感は一層大きくなりました。

最近の私の「反感」は、日本各界の「自虐史観」の主唱者たちに向かっていることを告白します。2016年に「戦時期(1937~1945)日本に労務動員された朝鮮人炭鉱夫の賃金と民族間の格差」という論文を発表し、現在は慰安婦問題を研究していて、韓日間の歴史問題をめぐる葛藤を代表するこの二つの問題が、韓国ではなく、日本から始まって韓国に伝播し、韓国の左派たちを鼓舞して、韓国人たちの反日感情に火をつけたという事実を詳しく知るにいたったからです。これについては、『でっち上げの徴用工問題』の著者である西岡力先生の教えが大きかったです。

韓国の研究者として、私は韓国の自虐史観だけでなく、日本のそれとも戦わなければならないのです。日本の自由右派の研究者たちも同じだと思います。

戦線が広くなりました。一ヶ所だけで戦っては勝利できなくなりました。韓日の自由右派の連帯を広げ、強化しなければなりません。黄意元氏と私の受賞がそのための良い出発点であると思っております このように素晴らしいきっかけを作ってくださった国家基本問題研究所の櫻井よしこ理事長、著者の西岡力教授、共同受賞者の黄意元代表、メディアウォッチの邊煕宰顧問に深く感謝申し上げます。


略歴

1966年、全羅南道光州生まれ。1998年3月から翌年8月まで韓國放送通信大學経済学科助敎。2001年10月から2002年9月まで米国ハーバード大学訪問研究員。2000年8月、成均館大学経済学科、「朝鮮時代-植民地期山林所有制度と林相変化に関する研究」で博士学位を取得した。
2005年8月から2021年2月まで落星台経済硏究所硏究委員。2017年4月から2017年7月まで九州大学韓国研究センター客員教授を務めた。

論文、著書には、「農業賃金の推移:1853―1910」、『經濟史學』第29号(2000年12月)、「解題:未公開資料 朝鮮總督府關係者 錄音記錄(10)朝鮮の山林政策」、『東洋文化硏究』一一(学習院大学東洋文化硏究所、2009年3月)、『韓国の山林所有制度と政策の歴史1600~1987』(一潮閣、2010年6月)、“Community, Commons and Natural Resource Management in Asia,” 共著(Singapore National University Press、2010年)。
『反日種族主義』共著(未来社、2019年)、『ソウルの中心で眞實を叫ぶ』(扶桑社、2020年)などがある。


日本研究特別賞
メディアウォッチ(代表理事 黄意元)

西岡力著『でっちあげの徴用工問題』韓国語版を出版した功績

 

受賞のことば

黄意元

まず、平素より崇拝と尊敬の心で眺めていた日本の自由保守派シンクタンク「国家基本問題研究所」より、このような権威ある賞を受ける事となり甚だ感無量、そして心より感謝申し上げます。

西岡力教授、李宇衍博士にも心より感謝申し上げます。「研究者」ではなく「研究助力者」、「研究支援者」と言える私が受賞する事になったのは、全面的に両名の業績と配慮あっての事です。素晴らしい本に仕上げて下さった朴智英(Park Ji-young)編集者、そして後援者であり会社社主である邊熙宰(Byun Hee-jae)代表顧問にも心より感謝申し上げます。

私が代表理事を務めるメディアウォッチ出版社は昨年12月『でっちあげの徴用工問題』に続き、今年4月には『よくわかる慰安婦問題』(『韓国政府とマスコミが語らない慰安婦問題の真実』)も追って翻訳出版致しました。徴用工問題に続き慰安婦問題の真実と関連する書籍を出版準備中に飛び込んで来た、予想だにしなかった今回の受賞ニュースが、私にとって大きな励みになったことを、この場を借りて申し上げたいと思います。

韓国社会は、1990年代までは主に「右派政治権力」による検閲が問題視されてきました。しかし、1990年代から今日までは特に「左派言論権力」による検閲が、国家公論の発展と国益に対する国民の正しい判断を妨げる最大の癌的要因として指摘されています。 この新しい検閲権力により、韓国社会で最も強く印象操作がなされて来た犠牲者が、海外では恐らく国家基本問題研究所や安倍晋三(前)総理等に代表される「日本の自由保守派」ではないでしょうか。 その悪影響は非常に深刻で、僅か三年前の2018年でさえも韓国人は日本の「安倍晋三」より北朝鮮の「金正恩」に倍以上の好感を抱くという世論調査結果が発表された程です。

韓国の自由保守派の代弁紙であるメディアウォッチの考えは、以前からこのような韓国世論の大多数と大きく異なっていました。全世界で日本の自由保守派ほど「自由統一大韓民国の未来を考える韓国人たち」と思想理念はもちろん、利害関係を共有する勢力、同志は見出せないというのがメディアウォッチの確固たる考えでした。そして、これは検閲権力の横暴さえなければ韓国人の誰の目にも明らかであり、従ってメディアウォッチは様々な「アンチ反日」のコンテンツを介してこのような検閲権力と闘って来たのであり、また徴用工問題と慰安婦問題の真実と関連したメディア出版作業も展開して参りました。

メディアウォッチは今後も「世界の自由・保守の声叢書」というシリーズ物で、日本の自由保守派の声を韓国にそのまま紹介する作業を続ける予定です。韓国の自由保守派は、偽りの扇動と力ずくではない、明澄な論理と事実で政敵を制圧する文明的な闘争技術、議論文化について、日本の自由保守派から少しでも学びたいと思います。一方、韓国の自由保守派も朝鮮戦争時から冷戦時期最前線で反共自由のために闘ってきた名分と経験を、やはり日本の自由保守派に正しく伝えたいと思います。

終戦から七十年経ち、事実上初めてと言える両国の自由保守派同士の真摯な疎通はかなりの意味を持ちます。東アジア地域は現在、世界のどこよりも自由民主、市場経済、法治、人権の価値が求められています。 反韓国史観、反日本史観に挑戦する両国の自由保守派を中心とした日韓の真実同盟だけがこの価値の発展、普及の唯一の希望です。

共に歩んで参りましょう。ありがとうございました。


代表者略歴

1977年9月8日、大韓民国大邱生まれ。韓国鉄道大学(2007年〜2009年)卒業。Bombardier Transportation Korea(2009年〜2010年)、釜山交通公社(2010年〜2011年)勤務。2011年から2016年まで韓国インターネットメディア協会 医学/科学分科チーム長、その間、2012年から2015年まで、科学中心医学研究院 院長、大韓医師協会漢方対策特別委員会、同諮問委員を務める。

また、韓国放送公社(KBS)視聴者委員(2013年9月1日〜2014年8月31日)、保健福祉部水道水フッ素濃度調整事業 技術支援団委員(2015年7月1日〜2017年6月30日)を経た後、2013年からは研究真実性検証センター長、メディアウォッチ代表理事(2016年〜)の任に就いている。