日本研究賞
ジョン・マーク・ラムザイヤー(米ハーバード大学教授)
『慰安婦性奴隷説をハーバード大学ラムザイヤー教授が完全論破』
(ハート出版、2023)
受賞のことば
この度は、国家基本問題研究所の日本研究賞をいただき、誠に光栄に存じます。助教授として就職してから40年近く、色々な大学を経験し、現在はハーバードにて教授のポストに従事していますが、数多くの優秀な学者と一緒に研究できたことがかけがえのない思い出です。
学問のために尽くしてきたつもりでしたが、慰安婦の研究の関係で辛い苦労が3年間も続きました。それにも関わらず研究をすることができたのは、いつも力強く支持してくださった友人の皆様と暖かく支えてくれた家族のおかげです。慰め、励まし、支持してくれた皆様、そして「あんたは、言われたほどのひどい人間じゃないよ」、「単に本当のことを言っただけだから、謝っちゃだめだよ」、「正しいことは、正しいことだと言えばいいんだ」と見守って下さった方々に心から感謝を申し上げます。
真実とは学者の仕事です。そして、太平洋戦争の慰安婦に関する真実は簡単であり、彼女らは、単なる売春婦でした。これは、何も複雑な問題ではなく、彼女らは、強制的に連行された者ではなかったし、性奴隷でもなかったのです。
にも関わらず、この歴史を短い論文に書いてみたら、ご存知の通り欧米の日本史専門学者にとっては、聞きたくない歴史であることが明らかになりました。彼らは、ジャーナルに論文を撤回するよう請求し、ハーバードに僕を罰するための運動をも続けました。結局、論文は撤回されませんでしたが、より詳しく説明するべきだと思い、著名な有馬哲夫教授と英語の共同論文を書き、優秀なジェイソン・モーガン准教授と英語の本をも書き、今日のとんでもない素晴らしい賞を受けることに至りました。有馬、モーガン両先生、僕には絶対書けなかった綺麗な日本語に論文を訳して下さった藤岡信勝、山本由美子、藤木俊一、矢野義明、と茂木弘道の各先生、そして貴重なアドバイスを下さったその他数多くの先生方に繰り返し感謝の言葉を申し上げたいと思います。
太平洋戦争の慰安婦が単なる売春婦だったことは、簡単な、そして当たり前の歴史的事実です。そして、「真実しか話さず、書かず」とは学者にとって当たり前のはずだと主張すれば、「バカ真面目な奴だなあ」と思われ、相手にされないかもしれませんが、とにかく反対する者は少ないでしょう。学者としては、他の道がないはずです。また、真実は重要であると強調し、学者に限らず、どの国の人であっても、人間としての生き方でもあるはずだと主張すれば、「牧師の息子は相変わらず面倒な説教をするなあ」と言われるかもしれません。が、しようがありません。バカ真面目な奴、説教をする奴と欧米の日本史専門家に言われても、慰安婦が売春婦だったことは、歴史的事実です。
慰安婦関係の攻撃には切れ目がなく、毎日続きました。にも関わらず、毎日、毎晩、二十四時間続いたせいで眠れなかった晩は、残った数少ない日々に人間として生きたい方向について考える機会になりました。行いたい政治的活動の原理ではなく、学者の研究方法の原理でもなく、単に人間として生きたい方向の原理と思っています。
*友達は、絶対、慰め、励まし、支持し、忠実に支える。
*真実を述べている人を支える。真実を述べて攻撃されている人は、友達であってもなくても支える。真実のことを述べているからこそ支える。
*どんなことに関しても、真実を要求する。攻撃されても、追放されても、真実に反することは絶対書かないし、真実のことを書いたからといって謝ることは絶対しない。
父は、宮崎県で宣教師を務めていましたが、一年だけ高千穂町に住みました。それ以降、高千穂の皆さんから頂いた詩を書き込んだ版画を研究室の机の上に飾っていました。ずっとこの版画を気に入っていた僕は、父が亡くなった後に自分の研究室の壁に付けました。あまりにも広く知られている詩なので今日集まってくださった皆様には、使われ過ぎた決まり文句と思われるかも知りませんが、60年代に家族と一緒に高千穂に住んだ僕にとっては、今も奥深く感じます。
「東に病気の子供あれば 行って看病してやり
西に疲れた母あれば 行ってその稲の束を背負い
南に死にそうな人あれば 行って怖がらなくても良いと言い
北に喧嘩や訴訟があれば つまらないからやめろと言い ...
誉められもせず苦にもされず
そういう者に
私はなりたい。」
これからもその方向を目指して頑張りたいと思います。そして、学者として研究にも尽力するつもりですので、今後も、何卒よろしくお願い申し上げます。
(日本語の受賞の言葉は、英文からの和訳ではなく、教授自らが書かれたものです)略歴
1954年米国シカゴ生まれ。宣教師の父の仕事の関係で来日、18歳まで日本在住。宮崎県で地元の小学校教育を受けた。大学入学のため米国に帰国。ミシガン大学で修士、ハーバード大で法学博士号を取得。1992年、東京大学で教壇にたったほか、一橋大学(1992年)、早稲田大学 (1999年)、テルアビブ大学(2013年)などでも教鞭をとった。UCLA(助教授、教授;1986−92), シカゴ大学(教授;1992−98)を経て、1998年以来、ハーバード大学で「三菱日本法学教授」の肩書を持っている。
主な著書に「法と経済学ー日本法の経済分析(弘文堂、1990)(サントリー文化財団学芸賞を受賞)、Japan's Political Marketplace [日本の政治的市場] (ハーバード大学出版会、1993)(Frances Rosenbluth(フランシス・ローゼンブルース)、共著)、Japanese Law: An Economic Approach [日本法の経済分析](シカゴ大学出版会、1998)(中里実、共著)(Association of American Publishers,受賞)、The Fable of the Keiretsu: Urban Legends of the Japanese Economy [系列の呪縛:日本経済の都市伝説](シカゴ大学出版会、2006)(三輪芳朗、共著)(大平正芳記念賞を受賞)等、多数。
2018年(平成30年)、旭日中綬章受章。
日本研究特別賞
鄭 大均(東京都立大学名誉教授)
『隣国の発見 日韓併合期に日本人は何を見たか』(筑摩書房、2023)
受賞のことば
近年関心を抱いているのは日韓併合期に隣国での体験を記したエッセイ(や日記)の紹介である。なぜそんなことに興味を抱くようになったのかについて記したい。
第一に、私は日韓関係がいまなお日本統治期の「歴史」に拘束されていることに強い不満を覚える。日本による朝鮮統治は一般的に「抑圧」や「収奪」の歴史として語られ、日韓はそれを前提にして「加害者」もしくは「被害者」として振舞うことが期待されている。
しかし、それは親の仮面を被って「糾弾者」や「贖罪者」を演じる息子や娘たちの偽善劇ではないのか。「慰安婦性奴隷説」がそうであるように、「加害・被害者論」には政治的恣意や歪曲や偏見が満ち溢れており、それは批判され、葬り去られるべきものであろう。と同時に、一方では「抑圧」や「収奪」の時代とされる日本統治期のイメージを修復する作業も必要であろう。私が関心を寄せているのは後者の仕事で、エッセイに注目するのはそれが人々の思考や感情にインパクトを与える力があると考えるからである。
第二に、日本や日本人には周縁的で例外的で理解されにくいところが多々ある。かつて中華文明圏の周縁に位置していた日本や韓国は東アジアの大伝統を共有しながらもそれぞれ土着の文化・伝統を有している。しかし日本や日本人の固有性は格別で、自然やモノに独特の感性を示し、技や型を重視し、厖大な詩歌人口を擁しているかと思うと、他方では普遍的な理念や観念には相対的に無関心であり、見慣れぬ人々に出逢うと尻込みしてしまう。
そんな日本人に比べると韓国人にはよりユーラシア人的行動様式があり、普遍的な理念や観念への関心も相対的に高いように思えるが、日韓併合期とはそんな変わり者の日本人が朝鮮人を支配した時代であったのだから、興味深くないはずがない。
第三に、エッセイといっても、私がとくに注目するのは日韓併合期に隣国で暮らしていた日本人や朝鮮人によって書かれた作品である。日韓に共通するのは人種的、言語的、文化的にホモジニアス(均質的)であり、また同調圧力が強い社会という特徴であるが、日韓併合期とはそのホモジニアスであった日韓がにわかに集中的で集団的な異文化体験をした時代である。そんな時代に異邦人として暮らしていた日本人や朝鮮人はなにを見、感じ、考えていたのだろうか。そんなことを記した良きエッセイを探すことが近年の私の楽しみになったのである。
本書は右のような動機で計画している四冊ほどの著書の一冊目に当たるが、もう少し話題にならないと、全部を出版することはできないのかもしれないという不安があった。その意味で今回の受賞はうれしいできごとであり、ジョン・マーク・ラムザイヤー教授の著書と同時にそれができたことはまたとない喜びであります。
略歴
1948年岩手県生まれ。立教大学とUCLAで学ぶ。1981年から一四年間、韓国の東亜大学、啓明大学等で教鞭をとり、95年から一八年間東京都立大学人文学部(現在の人文社会学部)に所属。
主要著書に『増補版韓国のイメージ』『日本(イルボン)のイメージ』『在日の耐えられない軽さ』(いずれも中公新書)、『在日韓国人の終焉』『在日・強制連行の神話』(いずれも文春新書)、『韓国のナショナリズム』(岩波現代文庫)、『韓国が「反日」をやめる日は来るのか』(新人物往来社)、『日韓併合期ベストエッセイ集』(編書、ちくま文庫)などがある。