日本沖縄政策研究フォーラムの理事長を務める仲村覚氏は、12月19日、国家基本問題研究所企画委員会にて、沖縄から見た中国のナラティブ戦略について資料を用いて説明し、対中外交・主権防衛という戦略を提言し、その後櫻井理事長をはじめ企画委員らと意見交換を行った。

【概要】
11月7日の衆議院予算委員会における高市首相の台湾有事をめぐる答弁に対し、中国が過剰な反応を示し対日攻撃の材料に仕立て上げた。各種報道が伝える中国の「怒り」は偽装(フェイク)とも言え、その本質は「複合法律戦」の発動である。
〇中国が仕掛ける複合法律戦の三位一体構造
それは、軍事的威嚇を背景に法的武器(ポツダム宣言優位論:後述)と倫理的武器(琉球地位未定論:後述)を三位一体として連動させ、日本の主権の法的基盤を破壊する複合型の主権はく奪戦争のことである。
そもそもわが国としては、ポツダム宣言の効力はサンフランシスコ講和条約の締結にともない無効化したのだが、中国は同条約を「不法かつ無効」として認めず、このポツダム宣言優位論を法的武器(Legal Weapon)にする。加えて、沖縄の基地問題を先住民族への人権侵害という倫理的大義にすり替えることにより、国連人権メカニズムを悪用し国際的な同情と世論の支持を獲得し、これを倫理的武器(Ethical Weapon)とする。
これらが中国のナラティブ戦略(政策上の目標に対して心理及び認知領域における正当性を付与するように意図的に作成された物語)の一環として国際社会と日本国内に浸透しつつある。現在、周辺海空域などで展開されている海警船や空母艦隊などによる軍事的威嚇は、これら複合法律戦を円滑に遂行するための手段の一つであり、本気で干戈を交える段階ではないものの油断は禁物だ。
〇琉球主権剥奪の物語:琉球地位未定論
中国が仕掛ける影響工作は深く静かに浸透している。いま国際社会では琉球王国の主権が日本により不当に剥奪され植民地として支配されたという宣伝工作が進行している。その理由は、日米が密約(サンフランシスコ講和条約)により植民地を清算するポツダム宣言の趣旨を不当に妨げた結果、いまなお基地問題として琉球独立運動が継続しているとのナラティブ(物語)の刷り込みである。琉球王国が日本の植民地であれば、ポツダム宣言の遵守を迫ることで、琉球(先住民)の地位を国際社会(国連)で確定させるという思惑が透けて見える。
現在、中国は沖縄の基地問題を先住民族の自己決定権の侵害というナラティブにすり替え、グローバルサウスの支持を獲得しつつある。認知戦の主戦場は旧来の日中2国間外交から、国連の人権メカニズムを利用した多数派工作へと、新たな局面を迎えている。
〇2014年合意に仕組まれた巧妙な論理:ポツダム宣言優位論
2014年に日中間で合意された一つに「日中間4つの基本文書」の遵守がある。その基本文書の一つが1972年の日中共同声明で、そこには「ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」とある。同宣言第8項には、「カイロ宣言の条項は履行されるべし」とあり、清国から日本が盗取したとされる領土を返還することが謳われる。中国側の論理は、2014年の合意により、日本はポツダム宣言に基づき尖閣を返還する義務があるというもので、新しい外交合意の中に古い領有権主張を埋め込むという巧妙な手口である。
その狙いは、尖閣を係争地として既成事実化し、尖閣問題から沖縄の地位にまで拡大適用したポツダム宣言体制を復活させることにある。したがって、「異なる見解(すなわち係争)を有していると認識」した2014年合意を見直さなければ、危険なドミノ倒しの最初のピースを見逃すことに等しい。
〇「日本政府は沈黙するな」と緊急提言する
上記のような軍事力よりナラティブを駆使する中国の戦略に対抗するには、外務省に責任を負わせるのではなく、国家安全保障案件と認識して政府が責任をもって日本の主権を守るため、反撃しなければならない。
政府が直ちに取るべき具体的な行動(対中外交・主権防衛戦略)は、①2014年合意の効力停止を通告し、②サンフランシスコ講和条約の優位性(ポツダム宣言に対する)を宣言し、③2014年合意をプレーアップして世界に発信しているデジタル博物館(中国釣魚島博物館)へ公式な抗議活動を行うこと、などである。このまま放置し続けると中国の思うつぼとなり、状況は悪化の一途を辿るだろう。
【略歴】
1964年、米国統治下の沖縄那覇市生まれ。1979年、陸上自衛隊少年工科学校(現高等工科学校)入校、卒業後は航空部隊にて勤務。1991年に退官後、複数の企業勤務を経て、2009年に、沖縄が中国の植民地になるという強い危機感から民間団体「沖縄対策本部」を設立(代表)、2016年には「日本沖縄政策研究フォーラム」を設立(理事長)し、沖縄県及びその周辺地域の政策課題について調査、研究、政策提言などを行っている。主な著書は『狙われた沖縄-真実の沖縄史が日本を救う』(2021年、ハート出版)、『これだけは知ってお行きたい沖縄の真実-誰が沖縄を守るのか?』(2018年、明成社)など多数。 (文責 国基研)





