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2026.02.03 (火) 印刷する

総合安全保障プロジェクト 月次メディア向け報告会

今月の総合安全保障プロジェクトの月次報告会は、来る衆議院選挙を考慮し第1部の議員向け報告会は取りやめ、第2部のメディア向け報告会に絞り実施した。

まず、吉田正紀・元防衛大臣政策参与が「ベネズエラ対応に見る米国の新戦略」について、続いて中川真紀・国基研研究員が中国軍の「統合演習・正義使命2025」を、さらに荒木淳一・元空将が「対領空侵犯措置の現状と課題等」と題してそれぞれ報告し、参加した記者や企画委員からの質疑に応じた。

以下、その概要を簡単に紹介する。

総合安全保障プロジェクト・月次報告会記者ブリーフィング(午前11時30分~午後1時)
【概要】

●『ベネズエラ対応に見る米国の新戦略』
 吉田正紀・元防衛大臣政策参与・米国双日副社長

 1月3日、米軍特殊部隊がベネズエラ大統領拘束作戦(Operation Absolute Resolve)を実行した。昨年11月に発表した米国の国家安全保障戦略の中で強調された西半球の優位性を回復するという政策が立証されたとの評価がある。

今回は、現地米国から観察した本作戦のあらましを解説する。

・作戦実施までの流れ
第2次トランプ政権発足後、米国の中南米政策は敵対的国家(キューバ、ベネズエラ、コロンビア)への関税措置などの経済的強圧外交を展開。2025年8月以降、ベネズエラに焦点を絞り、軍事的威嚇を併用した砲艦外交に移行した。同年9月2日以降、麻薬密輸業者への法執行を根拠とした攻撃作戦を展開した。

カリブ海および東太平洋における麻薬密輸船に対する攻撃作戦は開始以来35回を数え、死者数は少なくとも115人との報道もある。(Jan.3.2026 WP)

・トランプ大統領の心境変化とマドゥロ大統領の認識
拘束作戦の6か月前は、トランプ大統領はマドゥロ大統領と交渉する意向を示していたが、12月下旬になりマドゥロ氏の翻意が叶わないため軍事行動を決断したとされる。(Jan.4 WSJ)

他方、マドゥロ大統領は、トランプ氏の圧力をブラフ(コケ脅し)と見ていた可能性がある。それが正しければ、両者の認識における温度差が、米軍の軍事作戦決行を招いたと言えるだろう。

・際どかった作戦
作戦は事前に周到な演習をした後、天候が回復した1月3日の午後9時(米東部時間)に開始された。米軍は当初、F-18、F-22、F-35戦闘機、EA-18グラウラー電子戦機、E-2ホークアイ指揮統制機、B-1爆撃機及び遠隔操縦ドローンなど約150機の航空兵力を投入した。マドゥロ氏夫妻を捕獲する米陸軍デルタフォースのヘリ部隊を支援するため、ベネズエラの空軍基地、主要港湾、通信インフラを攻撃し防空システムを無力化するためである。

その結果、捕獲任務のヘリ部隊は途中まで発見されず飛行したが、目標に近接した時点で反撃を受け被弾した結果、操縦士が負傷し墜落戦前の事態に陥った。しかし何とかヘリを着陸させて部隊を投入、大統領夫妻を発見・拘束した後、洋上のUSS IOJIMAへ移送し任務を達成した。

・作戦成功が及ぼす影響
本作戦の決行により、仮にトランプ大統領が平和志向を強調しても「低リスク・低コスト」の条件下では躊躇なく軍事行動を決断することを証明した。
 わが国は今後、米軍の中南米関与の長期化を警戒する必要がある。米国の戦力が中南米で浪費されると、対中抑止への集中が損なわれる恐れがあるからだ。米軍の対中関与を維持するため、紛争初期段階の米軍の損耗率を下げるべく、いまは日本の意思と能力を具体的に示す局面と考える。 

 

●『統合演習「正義使命-2025」』
 中川真紀・国基研研究員

中国軍東部戦区は昨年末12月29日から31日にかけて、陸・海・空・ロケット軍などによる「正義使命-2025」統合演習を実施した。その目的は台湾独立勢力と外部の干渉勢力への警告である。各部隊は台湾周辺5か所の海空域などに展開し、海空戦備警戒パトロール、統合制権奪取、主要港・要域封鎖並びに外線立体阻止(外部との連接を遮断・新規)などを演練項目とした。

台湾側の発表によれば、台湾東部海域に予告なしに演習区域が設定され、艦艇や海警船による接続水域への進入、実弾射撃の一部が接続水域内に着弾したとされる。

今次演習の内訳を以下に軍種ごと紹介する。
・陸軍:多連装ロケット砲の実弾射撃
長距離実弾射撃がPHL191多連装ロケット砲により実施された。福建省平潭から台湾北部海域に向け17発、同じく石獅から台湾南西部海域に向け10発の計27発で、実射は2022年の弾道ミサイル以来であるが、陸軍の着上陸担当部隊が独自で台湾本島まで届く火力を保持し、その能力が向上したことを意味する。さらに石獅では、73集団軍砲兵旅団に加え模擬も含め、海・空・ロケット軍との統合射撃、UAVによる情報収集など、より実戦的な火力分配・調整を演練した模様である。

・海軍:強襲揚陸艦の初参加
3個編隊が任務海域に展開し、制海権・制空権奪取・要域封鎖・統合打撃力の検証を行った。特に、ユーシェン級強襲揚陸艦(排水量3万トン、装甲車50~70両、ヘリ30機を搭載)の統合作戦参加が初めて確認された。今回演習に参加した揚陸艦は南部戦区所属であり、同戦区の強襲揚陸艦は台湾着上陸侵攻に機動的に運用される可能性が高い。

・空軍:台湾周辺での活動
台湾周辺では無人機を含む大規模編隊が陸海部隊と共に空域封鎖・立体阻止などを演練した。特に、CH-4偵察攻撃無人機などのUAV運用機数の増大、運用空域の拡大が認められる。

日本周辺では、H-6爆撃機を中心とするストライクパッケージが宮古海峡上空を飛行し太平洋に進出、艦艇・弾道ミサイルとの統合遠距離火力打撃を演練した。米に対する接近阻止を重視した可能性が高い。

・ロケット軍:中距離弾道ミサイルの参加
各種ミサイル部隊が展開し、敵艦艇・重要軍事目標に対し、模擬波状攻撃を実施した。特に注目は、統合演習でのDF-17(MRBM)・DF-26(IRBM)が初めて確認されたことである。つまり、第1列島線以東に対する対艦能力を有する弾道ミサイルも連携して接近阻止を演練し、アピールしたことになる。

・海警:法執行パトロール地域で印象操作
福建海警が台湾島及び離島の馬祖・烏丘の周辺海域で、識別、拿捕、拘留、駆逐等の総合法執行パトロール演練を実施した。海警船による包囲網は大陸方向のみを逃げ道として解放し、台湾民衆に対し大陸との連携以外に道はないとの印象操作を行った可能性がある。

・サイバー・認知戦など
台湾側によると演習間のサイバー攻撃件数は、28日に154万回、29日に208万回、30日に209万回を数え、SNSへの偽情報等の投稿も19000件以上あり、多ルートにより大量に流布する物量作戦が展開された模様。

また、対米メッセージとして、台湾独立勢力に武器供与しないよう演習ポスターで表現した。米は12月18日に、台湾へ111億ドルという過去最高額の武器(大陸を射程内に収める装備を含め)の売却承認を発表している。トランプ大統領の訪中を見据えたメッセージとも受け取れる。

・本演習の狙い
「正義使命2025」演習は、台湾侵攻を主に担当する東部戦区による統合演習であり、台湾民衆に対し海上封鎖・米来援阻止を誇示し統一へ誘導することに加え、米国に対して長距離打撃力を示して接近阻止を図ることを企図したと思われる。

ただし日本を主対象とした報道は確認されなかった。日本の弱点は防衛力よりも運用できない法・政治体制にあり、体制整備を推進する高市政権に対する認知戦が効果的と認識している可能性が高い。特に昨年末から年初にかけ東シナ海で展開された海上民兵と思しき約2000隻の漁船が集結したことは、現政権に対する圧力の一環と考える。

今後は、台湾副担当の南部戦区、予備の中部戦区、第1列島線以東等を担当する北部戦区が参加する全国規模の演習に拡大し、戦区を越えた統合の検証を企図する可能性がある。特に北部戦区の対日指向ミサイル配備状況や、軍を補完する民兵の演習参加状況にも注目していきたい。
 
資料PDF 統合演習 「正義使命-2025」

 

●『対領空侵犯措置の現状と課題等』
 荒木淳一・元空自航空教育集団司令官

・対領空侵犯措置とは
航空自衛隊の任務の一つに対領空侵犯措置がある。これは自衛隊法第84条に基づき、排他的主権を有する領空を保全するため、侵犯の恐れのある彼我不明機への対応を実施するものである。具体的には、①警戒管制レーダーによる探知・識別及び防空指令所からの発進指令、②戦闘機が緊急発進(スクランブル)、③状況の確認、④行動の監視、⑤通告、⑥領空侵犯の場合に⑦警告、誘導、⑧強制着陸又は領空外退去、がオペレーションの流れである。
以下、近年増加する中国軍の活発な活動状況と、対応する航空自衛隊の緊急発進の実態から、個人的見解ではあるがいくつかの課題を提示する。

・中国軍事情勢(わが国周辺の航空活動状況)
東シナ海では尖閣諸島に対する領空侵犯、領海侵犯が生起している。かつて尖閣諸島に近接してきたのは海警船だったが、近年は海軍艦艇がより近い海域で恒常的に活動し、中国軍機も尖閣諸島や沖縄本島をはじめとする南西諸島に、より近接した空域で活発に活動している。

日本海では海軍艦艇とともに戦闘機や爆撃機などの航空戦力の活動も活発化している。2016年に初めて対馬海峡を通過して以降、日本海への進出を繰り返し、2019年以降、ロシアとの爆撃機による共同飛行を9回も実施している。

太平洋への進出も目覚ましい。特に沖縄と宮古島間を抜けて太平洋に進出する飛行が無人機を含めて増えている。また、南西諸島周辺海域を航行して太平洋に進出する中国空母編隊の活動域が拡大していることに加え、台湾と与那国島の間を飛行する無人機の活動も活発化している。

・緊急発進(スクランブル)の実態
緊急発進の回数は2012年の尖閣諸島国有化以降増加傾向にあり、中でも中国軍機に対しては年間回数の約69%を占める。

これまで実際に領空侵犯された事例は約50件あるが、最近の特異な事例としては、2024年8月の中国軍機による領空侵犯事案である。これは、中国軍のY-9情報収集機が男女群島の南東のわが国領空を侵犯したもので、中国軍機の侵犯事案としては初である。以前には2012年に中国海警局のY-12による尖閣諸島の領空侵犯事案及び2017年には無人機による同領空侵犯事案がある。昨年の5月には尖閣諸島の領海に侵入した海警局の公船からヘリが発進し、領空侵犯した。

加えて昨年12月には、中国空母遼寧から発艦した艦載機J-15が警戒中の空自F-15に対し、レーダーを照射した事案も発生した。2回の照射のうち、2度目は計30分間に渡る断続的なものであった。この行動は冷戦期のソ連と異なり、相手に脅威を与える危険な行為として避けてきた行為であり、「アン・プロフェッショナル」なものと言わざるを得ない。

・今後の課題
課題の第1は、尖閣諸島の領有権を主張するための既成事実化を目的とした航空活動への対応である。尖閣諸島領空に接近する戦闘機や相手艦船から離発着するヘリなど、意図的に領空侵犯を繰り返す航空機に対する対処要領を検討する必要がある。

第2は、無人機を含め急増する接近飛行へ適切に対応することである。空自の航空戦力には限りがある上、前述のような意図を持った航空活動に厳格に対応していくためにも、相手の意図や飛行目的更には過去の飛行パターンなどに応じて、柔軟かつ合理的に手段を選択し、戦力を投入することが求められる。例えば、レーダー等による監視に留めることや海自や海保と連携した統合的運用によって、より効率的かつ効果的な対応ができるだろう。

第3は、防空体制が脆弱な太平洋における航空活動への対応である。例えば我が国の太平洋側にはADIZ(防空識別圏)が設定されず、レーダーによる警戒監視網が脆弱なエリアが存在する。中国空母の活動域が太平洋域に広がっている現状から、再設定を検討する必要があるが、「絵に描いた餅」にならないよう実効的な対応要領を確立する必要がある。

第4は、脅威の変化に応じた防空体制の強化が必要である。経空脅威はより長射程化し、ステルス化が進んでいる。これに対応するには、OTH(超水平線)レーダーや、衛星コンステレーション(多数の人工衛星による探知システム)による航空情報収集体制の構築と共にそれが実現するまでの間、既存の能力(AWACS、E-2C/D)等の増強も検討する必要がある。
最後に、台湾との航空情報共有枠組みが未整備である。わが国の先島諸島は台湾本島に近接しており、近年の台湾周辺の中国軍の活動の活発化などを踏まえると情報共有の効果は計り知れない。

 
 
上記報告の後、出席記者からの質問に答える形で補足説明も行われ、活気ある議論が展開された。質疑応答の一部を以下に紹介する。

【質疑応答】
Q: 中国の対日認知戦の具体例、及び中央軍事委員会の状況について教えて欲しい。
A: 中国軍機関紙の解放軍報の対日批判記事を見ると、11月と12月が急増しているなど、数値的な現象は観測できる。中国国内向けの報道ではあるが、西側諸国も含めて外国識者の高市政権批判や日本人の反戦デモ等があたかも高まっているような報道を連日繰り返しており、世界にも同様に発信しているのであろう。
他方、中央軍事委員会については、先ごろ粛清された委員に対する批判記事が解放軍報の社説に掲載された。しかしご紹介したように軍事演習は淡々と実施されており、現場への影響は今のところ確認されてない。

Q: 米国がベネズエラに対して行った事例が今後イラン情勢にも影響を及ぼすか。
A: イランについてだが、米国内でも議論がある中、リンカーン空母打撃群が現地に到着した。いつでも軍事的介入の準備はできているが、政治的環境はまだ整っていない。いまは外交のフェーズで、空母部隊の派遣は抑止のためと考える。

Q: ベネズエラの警戒探知システム(中国製)は役に立たなかったのではないかという指摘もあるが。
A: 中国製の装備に対する評価という観点だが、同じ中国製でも輸出相手により性能を変えることには注意を要する。またシステムを操作する側の練度も考慮しなければならない。さらに電源がサイバー攻撃でダウンしていた可能性もあり、装備を総合評価するには情報不足である。

Q: 中国機の日本領空侵犯の際、米軍は連動した動きをするのか否か。
A: 基本的には日本のスクランブルに米軍は関与しない。ただし、個別に何らかの対応をとる可能性はある。

この総合安全保障プロジェクトの月次報告会・記者向け報告会は、今後とも継続実施していく予定である。 (文責 国基研)