国基研は2月6日(金)、定例の企画委員会で理事兼企画委員の加藤康子・内閣官房参与に日本の製造業の現状を伺い、その後櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見を交換した。

【概要】
総選挙の結果とは別に製造業にとっていくつか明るい話題がある。TSMCの熊本第2工場では3ナノ先端半導体の製造計画が発表された。加えて南鳥島沖ではレアアース泥の試掘に成功したとの報道は嬉しいものだったが、実際の産業化には時間と投資が必要なことも確かである。私の総理からいただいた任務は、日本のものづくりを応援することである。
●経済成長の要は製造業
世界では国力のために製造業強化が国家目標のための優先事項となっている。アメリカは「MAGA」を旗印に製造業復活を目指し、中国も「中国製造2040」で強い製造業の確立に奔走する。日本も成長戦略を打ち出し、戦略分野への投資を促進してきた。その分野は例えば、AI・半導体、造船、量子、バイオ、航空・宇宙、資源・エネルギー、防衛など17分野を特定している。これらはものづくりの最後の砦で、基幹産業も成熟産業ではなく成長産業である。
●自動車産業メーカーの状況
2025年、世界の新車販売台数走は約9000万台であるが、4台に1台は日本メーカーの車である。トヨタ車は6年連続世界一のシェア1053万7000台。またそのパワートレイン(動力系などの種類)はハイブリッドとガソリン車が半分ずつ、EVのシェアは1.9%に留まる。国別EV普及率では中国の6%が最高で、環境問題に厳しい欧州でさえ5%である。
2025年、EVの実需は減退し、大手主要メーカーのテスラやBYDは厳しい経営を強いられている。また、大阪万博で導入された150台の中国製EVバスは安全問題で国交省により使用停止になるなどの報道もある。
中国政府も軸足を徐々にEVからエンジン車に移し始めている。JETROによると、2025年中国の輸出自動車の750万台の63%が内燃機関で、2023年に発表した2026年に向けての「クリーンエネルギーに向けてのロードマップ」にも内燃機関やハイブリッドは市場に注力する旨が記載されている。
世界各国でEV補助金が打ち切られる中、日本では最大125万円とクリーンエネルギーEV補助金を引き上げた。これは前石破政権時に赤澤経産大臣がトランプ政権と交渉した産物である。一方、経産省製造産業局自動車課が主導し、部品メーカーのEV転換を全国で指導してきた「ミカタプロジェクト」の文言を、私は最初の仕事として書き換えた。E-fuelやエンジンの向上、成長戦略分野への新規事業開発にも関わる、内燃機関の強化を含む多角的な事業転換の指導に書き換えて本日アップした。
●日本のEV化は気候変動に貢献するか
国連環境計画(UNEP)が世界の国別二酸化炭素排出量を発表している。それによると、中国が世界の排出量の31.4%を占め、続いて米国の13.6%で、日本は2.9%という数字である。
これまでCO2削減のために経済発展を犠牲にしてまで貢献してきた日本が、排出率2.9%を更に削減する意味が本当にあるのか、真剣に議論しなければならない。
●外貨を稼ぐ自動車産業
日本の輸出品トップ10の内、自動車はトップ、自動車部品は第3位の位置を占め、鉄鋼フラットロール、半導体他、外貨獲得の3割を自動車関連産業でしめる。組立て工場は需要立地で、海外に建設されるが、部品は国内で生産され輸出は伸びている。エンジン車の基幹部分であるエンジンやトランスミッション周りの自動車部品は、9割が国内生産である。
内燃機関を強化する中国の自動車産業に、アジアなどの主要な市場で対峙するためには、わが国の内燃機関をさらなる強化が必要である。現在、行き過ぎた脱炭素政策、特にEV振興策により、内燃機関の数量減や電動化に伴う内燃機関の規模縮小が見込まれ、先行き不透明な中、事業撤退リスクが増している。鋳鍛造品、いわゆる素形材産業は、内燃機関の基幹部品であり、事業縮小や撤退によって、サプライチェーンを維持できなくなる恐れがある。
●素形材の町工場こそ日本の底力
自動車部品を作る町工場こそ日本の底力である。彼らが弱れば自動車産業が弱り、自動車産業が弱れば日本経済が弱る。何としてもそのような事態は回避するためサプライチェーンの強化が必要である。
この素形材産業は現在7割を自動車に依存しているが、防衛装備品、宇宙、航空、造船などの戦略的分野においても部品を作るのはこういった町工場である。町工場が弱れば成長戦略も足元から崩れる。
●電炉増加でスクラップの取り合い
EV振興政策に加え、自動車部品メーカーにはもう一つ悩ましい問題がある。政府の脱炭素政策に呼応し、大手鉄鋼メーカーが二酸化炭素削減のため一部高炉を電炉に切り替える。JFEは現在倉敷の高炉を一基電炉にする工事に着工中。日鉄も八幡の高炉を電炉にする計画だ。電炉は鉄鉱石をコークスで還元して鋼を作っていた高炉プロセスとは異なり、スクラップを溶かして鋼を作る。大手鉄鋼メーカーが大量にスクラップを集めるために、町工場が原材料とするスクラップの流通量が激減することが予測されている。
現在でもスクラップの流通量は逼迫している中で、レアアースと同じように、日本の良質の加工スクラップは世界各国が取り合いの状況である。中国もロシアもスクラップの囲い込みに入っており、EUがそれに続く。日本政府もものづくりを守るため、老廃スクラップの品位の向上をはかり、良質の加工スクラップをより多く確保する必要がある。将来的には備蓄や輸出規制が必要である。
●電力が国を支える
最後に、電力無くして国家の成長も産業もない。国民の豊かな暮らしもない。こうした町工場は電力多消費産業であり、高い生産コストを下げるには、産業用電気料金を安く抑える必要がある。日本の産業用電気料金は中国に比較して2倍以上、韓国の1.5倍である。
これからも、原発再稼働、リプレース、新増設はもちろん、原発や火力による安価で安定的な電力は日本国経済の成長に必要である。
【略歴】
東京都出身、慶応大学文学部卒業後、国際会議通訳や米CBSニュース調査員等を経て、米ハーバード大学ケネディスクール政治行政大学院修士課程修了(MCRP)。一般財団法人「産業遺産国民会議」専務理事、筑波大学客員教授、「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録に尽力した。平成27年から令和元年及び令和7年から現在まで内閣官房参与を務め、産業遺産情報センター長も兼ねる。 (文責国基研)





