公益財団法人 国家基本問題研究所
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2026.03.02 (月) 印刷する

総合安全保障プロジェクト 月次報告会

今月の総合安全保障プロジェクトの月次報告会は、まず中川真紀・国基研研究員が中国軍の「2025年 中国軍の訓練総括」を、続いて、毛利亜樹・筑波大助教が「中国による海上民兵動員体制の実装」を、吉田正紀・元防衛大臣政策参与が「中国、台湾侵攻の徹底分析-習近平主席の軍事粛清の意味」について、最後に岩田清文・元陸上幕僚長が「日米、抑止戦略の連携」と題し、それぞれ報告した。

第1部は国会議員に向け、第2部は主要メディアに向け報告し、参加した議員、記者、企画委員らの質疑に応じた。以下、その概要を簡単に紹介する。

月次報告会議員向け(午前8時~9時30分)・メディア向け(午前11時30分~午後1時)
【報告概要】

●『2025年 中国軍の訓練総括』
 中川真紀・国基研研究員

 年度末に際し昨今活発化している中国人民解放軍の訓練状況を総括したい。5年に及ぶ訓練の目標は、機械化・情報化・知能化の融合的発展を加速し、訓練・戦争準備を全面的に強化することである。2025年は5か年計画総仕上げの年で、統合作戦を重視し訓練・検証を実施した。

・訓練サイクル
年間訓練は中期計画(第14次五カ年計画)に基づき企画され、1月に訓練開始式を実施し、各個訓練から小部隊、旅団級、戦区級と進み、年末検閲で締めるサイクルである。
実際に2024年は5月に統合訓練「聯合利剣A」、9月に統合着上陸演習・ミサイル総合演習、10月に「聯合利剣B」、12月に「統合演習」を実施した。2025年は4月に「海峡雷霆」、12月に「正義使命」統合訓練が実施されたが、9月の抗日80周年軍事パレードの影響で統合着上陸演習は未確認で、その代わり海軍の合同演習が活発化したという特徴がある。以下、軍種別に訓練の一端を概観する。

・海軍
昨年2月から3月にかけレンハイ級ミサイル駆逐艦の編隊が初めて豪州を一周し、豪・NZ国防相が非難した実弾射撃訓練を実施した。加えて5月から6月にかけ遼寧空母編隊及び山東空母編隊による第2列島線まで進出した対抗訓練を初めて実施した。この際、自衛隊機に対し異常接近・レーダー照射を実施するなど威嚇的活動もみられた。12月には、2個空母群を含む3個戦区海軍が展開し訓練した。有事の際に、進出の可能性がある遠海で接近阻止をする訓練を強化したものと思われる。

・空軍
空軍機の活動ソーティ数を一昨年と比較すると台湾海峡の中間線を越えた活動が増加し、H-6爆撃機がパトロール(早期警戒機と戦闘機で実施)に参加するなど、パトロールからの攻撃や第1列島線以東への攻撃などが可能な態勢にレベルを上げた。また、J-16戦闘爆撃機の空中給油後の対地爆撃訓練を実施した。これは、対台湾であれば空中給油の必要がないことから、フィリピンや日本に展開する米軍中距離ミサイルシステムへ攻撃を加え、台湾を支援する米軍ミサイルを沈黙させる意図があるものと思われる。

・陸軍
9月に北部戦区の陸軍輸送調整センターが陸海輸送訓練を実施した。使用された船舶の形状(デッキカーゴ船)などから、台湾侵攻に際し北部戦区部隊が海岸堡設定後に、後続部隊による機動訓練の可能性がある。また、桟橋船を東部戦区の玉環島海軍基地に配備し、接続訓練を継続して実施していることが確認された。桟橋船を運用することで水陸両用車両以外の軍用車両が上陸可能となり、継戦能力が強化される。

・ロケット軍
 12月の統合演習「正義使命2025」では、台湾に指向するSRBM(DF-15B、DF-16)の他、MRBM(DF-17)とIRBM(DF-26)が初確認された。第1列島線以東での対艦攻撃能力を有するMRBMやIRBMが接近阻止を演練した可能性がある。

・まとめ
 2025年の特徴として、海軍は第2列島線まで進出(接近阻止)、空軍は前方展開(接近阻止)、陸軍は補給や後続部隊の渡海(継戦能力)、ロケット軍は第1列島線以東への投射(接近阻止)などがあげられる。訓練の地理的(第2列島線)・時間的(継戦)範囲を拡大し、様々な作戦様相に対応しつつある。今後は、南部(台湾侵攻時のサポート)・中部(予備部隊)・北部(接近阻止)の各戦区参加の統合演習が実施されるかに注目したい。
 
資料PDF 2025年 中国軍の訓練総括
 

 

●『中国による海上民兵動員体制の実装 東シナ海への展開』
 毛利亜樹・筑波大学助教

昨年12月24日から26日にかけ、東シナ海上で主に浙江省から出港した約2000隻の漁船が集結し、東シナ海上に数百kmに及ぶ巨大な二つの逆L字形を描いた。これを地理空間情報分析会社のingeniSPACEが世界で初めて指摘した。本年1月11日にも、約1400隻の漁船が南北にI字型に整列した。さらに1月末から2月にかけても長崎、済州島沖で中国漁船が逆L字型を形成した。
日中間には日中漁業協定暫定水域があるため、漁船群の活動に何ら違法性はない。しかし、過去の海上民兵活動と比べ桁違いの隻数である。また漁船が線状に整列する理由は荒天回避では説明できない。そこで地域研究の観点からこの現象を検証してみたい。

昨年12月に漁船群が整列した前後の時期に、地方での党政軍の国防動員協調体制のために地方党委員会書記が主催する「議軍会議」が、12月21日に福建省厦門市で、12月26日に浙江省舟山市で行われていた。そこでは、「国防動員建設と軍民融合を高いレベルで進める」「重大な局面で即座に展開し、勝利できる体制を構築する」という習近平総書記の意思を確認している。これらの議軍会議の様子から、東シナ海の漁船群による巨大な線は、習近平氏が漁民を海上民兵として動員できるようになった証左と考えられる。

習近平は国家主席への就任翌月に海南島の漁村を視察し、海上民兵動員体制の構築に乗り出した。1980年代に党は漁民への統制をほぼ失っていたが、習政権は2017年から漁船の掌握(所属漁港の登録)と軍改革(省軍区で地方政府が民兵を組織)を行ってきた。海上民兵は漁民、漁業会社員、船舶交通乗員などで構成され、軍の指揮(正規軍人に指揮され退役軍人の基幹民兵が漁民を普通民兵として指揮)を受ける。日本は海上民兵を南シナ海の問題と捉えがちだが、そうではない。さらに、南シナ海の海上民兵は数百隻であるのに対し、東シナ海では普通の漁民が民兵として動員された結果、数千隻規模と拡大している。
また、軍民融合を進める習政権は漁船の動員を支援する技術開発・インフラ整備に熱心である。北斗衛星を利用した漁船監視システム(VMS)は中国独自のインフラであり、西側から自律して個々の漁船を統制できる。中国はこれまでの五カ年計画で準備してきたことを、2026年4月からの第15次五カ年計画で実施していくだろう。中国は太平洋への本格進出を企図しており、その前提として東シナ海の勢力圏化を狙っている。

2026年2月12日、長崎県女島沖のわが国EEZ内で違法操業する中国虎網漁船に対し、水産庁漁業取締船が警察権を行使した。しかし、この虎網漁船は海南省東方市から出港した。取締現場となった東シナ海北部まで直線距離で2300kmという長距離の出漁は商業的には成立しないだろう。昨年12月30日にも海南省東方市で議軍会議が行われて国防動員が議論されていた。このため、虎網漁船は海上民兵として動員された可能性がある。

わが国は海上民兵の東シナ海実戦投入の前夜にいると考えるべきだ。習近平氏の進める海上「人民戦争」への備えは日本にあるのか、早急かつ真剣に検討しなければならない。 

 

●『中国、台湾侵攻の徹底分析-習近平主席の軍事粛清の意味』
 吉田正紀・元防衛大臣政策参与・米国双日副社長

中国人民解放軍に異変が起きている。2023年から2025年にかけ中央軍事委員会の上将が次々と粛清され、委員7人のうち、解任が3人、拘留中が2人で、留任は2人だけという状況になった。

この事案が発覚すると、世界の識者は「習氏に軍事的冒険をしないよう助言する勇気のある将軍がいなくなる」(ロンドン東洋アフリカ研究学院中国研究所所長)など、習氏に対する抵抗勢力が排除されたと危惧する分析が相次いだ。その後任に新たな将軍が配置されない現状から、中国の政軍関係には深刻な亀裂が入っているとも言える。問題の所在は、意思決定権者(文民指導者)に対する軍事専門家からの適切な助言の存否である。

他方、米国においても第2次トランプ政権では6人の大将が解任されているが、健全な政軍関係が維持されていれば、リーダーシップの変更は軍事作戦に大きな影響を与えない。例えば、1月のベネズエラ大統領拘束作戦は完全な成功だったといえるし、イランに対する最高軍事顧問(統合参謀本部議長)の助言も功を奏していることが証左であろう。

中国人民解放軍は、高級軍人粛清により、指揮系統の空白と士気低下が影響し、短期的には弱体化するかもしれないが、中長期的には台湾侵攻準備を加速したい習氏に対する抵抗勢力が排除されことにより、侵攻準備が促進すると思われる。2026年の米中関係は「嵐の前の静けさ」だが、2027年は習氏の政治的節目が重なり、台湾統一を強く意識するようになること、その時に習氏に対し軍トップから適切な助言ができるか、など要注目だ。 

 

●『日米、抑止戦略の連携』
 岩田清文・元陸上幕僚長

米トランプ政権は国家安全保障戦略(NSS)に続き国家防衛戦略(NDS)を公表した。その内容は衝撃をもって米国一強時代の終焉を世界に示したが、わが国はどのような対策を講じるべきか。

・NSS:ドンロー主義で西半球重視
NSSはNDSの上位概念だが、戦略というよりマニフェスト(政権公約)に近い。バイデン政権時に強調された「ルールに基づく国際秩序」という表現は姿を消し、「アトラス(地球を支える神)のように米国が世界を支える時代は終わった」とした。また「モンロー・ドクトリンを改めて主張し実施する」とも記し、「ドンロー主義」と称して西半球(南北アメリカ大陸)を重視する姿勢を公式に示した。

・NDS:米本土に次ぐ優先はインド太平洋
このNSSを受けてNDSではより具体的な戦略を提示している。NDSの優先事項は、①米国本土防衛、②力によるインド太平洋における中国抑止、③同盟国・パートナー国との負担分担強化、④米国産業基盤強化の4点である。

NDSではインド太平洋の中国抑止に米本土に次ぐ優先順位を与え、台湾海峡における従来の政策も維持するとしたが、各同盟国がそれぞれの地域で第一義的な責任を担うことも同時に主張した。
ヘグセス国防長官は、昨年末に同盟国への期待としてNATOに対し、GDPの5%(中核軍事3.5%)を要求し、韓国は3.5%の中核軍事費を約束した。現状、台湾は3.3%、韓国は3.2%で実現可能性が高いのに対し、日本は2.0%であり、さらなる努力を要求されるだろう。

・安保3文書見直しで米国を巻き込め
わが国の安保関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)は本年末に改訂が期待されるが、まず第一列島線から第二列島線の防衛態勢強化を主軸に置く必要がある。
米国が西半球重視を示す中、アジア関与には限界があることを見据え、日本単独の防衛力で第一列島線に対する侵略抑止能力を強化すること、及び米国の西太平洋展開を容易にするため第二列島線までの防衛態勢を強化することが重要である。

例えば、米国の西太平洋展開に際しては、港湾その他の施設へのアクセス拡大(北海道を通る北太平洋ルート)、或いは西太平洋上に所在する硫黄島などの作戦基盤(米軍アクセスの太平洋中央ルート)を強化する投資が必要である。さらにフィリピンや豪州と連携し、わが国の装備移転などを通じて第一列島線の防衛を強化することも重要だ。

このように日米がともに戦う体制を能動的に構築することが日米双方の利益になるものと考える。 

 
 
上記報告の後、出席記者からの質問に答える形で補足説明も行われ、活気ある議論が展開された。質疑応答の一部を以下に紹介する。

【質疑応答】
Q: 中国が海上民兵を動員する目的について伺いたい。
A: 中国軍が太平洋に進出する際、海上民兵を東シナ海に展開して、日本側の出足を挫くつもりではないか。海上民兵の役割の一つは、中国の民間漁船に対して日本の公船(海自や海保)が嫌がらせをするという非対称な構図を作り、認知戦を展開することではないかと思われる。

Q: 一般の漁民が民兵となった場合に具体的には何ができるのか。
A: 国防動員というのは平時から戦時への転換で、民兵も軍事力として使われる。海上民兵の場合、平時は漁業活動に従事しているが、戦時となれば、例えば大量の漁船を整列させたり、養殖網を設置したりして、阻止戦を張ることも考えられる。

Q: 中国軍は今後どのような動きを見せるか教えて欲しい。
A: 2026年は2027年の前年であり重要な節目にあたる。例えばロケット軍であれば、内陸部にあるICBMサイロを実運用状態にする、あるいは模擬発射訓練を実施できるようにする、などが考えられる。また海軍であれば、空母福建の戦力化を早めることも想定される。さらに台湾侵攻時には必ず武装警察が治安維持のため必要になるので、今後の武装警察の訓練状況が注目される。

Q: 米国が日本に要求すると思われるGDP比5%を達成する方策を伺いたい。
A: まず、日本の貢献は5%以上の価値があると米国が納得する説明が求められる。また数値的には米国のアクセス経路にあたる軍民両用施設の整備・拡大など、カウントする方法を工夫すれば5%は達成できるのではないか。

この総合安全保障プロジェクトの月次報告会・記者向け報告会は、今後とも継続実施していく予定である。 (文責 国基研)