公益財団法人 国家基本問題研究所
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2026.03.10 (火) 印刷する

月例研究会「日本再生への道」

令和8年3月3日(火)、国家基本問題研究所は、定例の月例研究会を東京・内幸町のイイノホールで開催した。今回は先の衆院選で自民党の勝利に貢献し、安全保障の重責を担う小泉進次郎防衛大臣を基調講演者にお願いすると快諾を得ることができた。中東イラン情勢が厳しい状況の多忙な中にもかかわらず、その後のパネルディスカッションにも参加し、有意義な研究会となった。

小泉大臣を囲む国基研側の登壇者は、安全保障の第一人者である岩田清文・元陸上幕僚長、日米を軸に国際関係を読み解く湯浅博・産経新聞特別記者、そして司会の櫻井よしこ理事長というメンバーで、様々な議論が展開された。

【概要】
●基調講演:小泉進次郎・防衛大臣

 現下の中東情勢をはじめとした安全保障環境は厳しさを増している。日本国がこの荒波をどのように乗り越えていくか。これからの議論に話題を提供するため、キーワードをいくつか用意した。

・「三つの海」に拡大するFOIP
最初に紹介するのは、安倍総理がインド議会でスピーチし提唱(2007年)した「二つの海の交わり」という言葉で、太平洋とインド洋をつなぎ「インド太平洋」という概念を定着させた。これが後の「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」に発展した。それから10年、FOIP構想が進化し三つ目の海、すなわち欧州の大西洋が加わった。

分かりやすい事例は、たとえ選挙期間中であっても日英首脳会談が行われ、欧州との一体性が確認された。日英伊の次世代戦闘機の開発も鍵になる。欧州の友人たちと深まる絆は、ウクライナの問題にもつながる。ウクライナ戦争は遠い欧州だけの問題ではなく、我々の問題でもある。北朝鮮の1万人以上の兵士がロシアに向かい、戦場でウクライナ軍と近代戦を経験し、その教訓を自国に持ち帰っている。血をもって深めるロシアと北朝鮮の連携に加え、中国とロシアの共同訓練なども増え、中国海軍の3隻目の空母が就役するなど、インド太平洋地域の軍事バランスが傾きつつある。

上記の地域情勢認識に加え懸念されることは、あらゆるものが武器化(Weaponization)されるということである。経済、資金決済、技術、資源、情報通信、そしてサイバー空間が武器化されつつある。このような懸念に対するわが国の取り組みの一つが安保三文書の改定である。

・安保三文書改定「三つのポイント」と「三つの基盤」
安保三文書改定のポイントは三つある。一つ目は「新しい戦い方」への対応である。ウクライナ戦争で見られた大量のドローンの運用は過去に例がなく、加えてサイバー攻撃や、宇宙空間の利用、それらが通常兵器と連動して戦闘が行われる。

わが国は四方を海に囲まれた島国で海洋国家の戦い方を求められる。二つ目のポイントが「継戦能力」と言える。ウクライナ戦争を例にすると、4年経過しても終わりが見えない。あらゆるものが武器化される現代戦において、継戦能力を如何に強化するかが、政府全体としての課題と言える。三つ目のポイントは「太平洋防衛」で、自国の力はもとより同盟国の米国をはじめ同志国とともに、この地域の安全保障環境を安定化させることである。

これら三つのポイントについて現時点で省内様々な議論を行っているが、これを支える基盤を充実しなければならないと考える。その基盤には三つある。

第一は「人的基盤」で、最後には人が物事を動かすのである。隊員と家族を守るための制度設計をすること。第二は「防衛技術生産基盤」の強化で、装備移転5類型の撤廃を含めた施策も重要な課題である。自前の防衛力・装備を共有する仲間を増やすことで、望ましい安全保障環境を作る。もちろん、政策を具体化するには国民の理解が必要で、三つ目の基盤は国民の「支持基盤」であり、同盟国の「支持基盤」を強くすることも重要である。
以後に行われる議論の糧にしていただければ幸いである。

 
●パネルディスカッション:
小泉防衛大臣による基調講演の後、登壇者の湯浅氏、岩田氏がそれぞれの視点から発言し、この日の討論の口火を切った。
 
1 岩田清文・元陸上幕僚長
・法に基づく国際秩序は崩壊した

米国とイスラエルが2月28日イランを空爆し、最高指導者ハメネイ氏を始め政治及び軍中枢の指導者を殺害した。これに対しイランは即時に湾岸諸国に対し報復攻撃を実施するなど、一気に中東情勢が緊迫化した。またイランによるホルムズ海峡封鎖の声明により、すでに原油価格が上昇傾向に転じている。米国・イスラエルの攻撃目的は、イランのミサイル及び海軍の壊滅および核保有阻止であり、この目的を達成するまで攻撃は継続するだろう。

他方、ロシアによるウクライナ侵略戦争は2022年2月24日の攻撃開始以来、一向に収束する気配を見せない。トランプ大統領の1年に及ぶ和平調停も成果はなく、プーチン大統領が拘るドネツク州の領土および戦後の安全保証体制に関しても一切の譲歩を示していない。ウクライナ国民の意識は、世論調査からは領土を明け渡すことを拒絶するとともに、必要な限り戦争に絶える意志も示している。この戦争は、プーチン大統領が戦えないと認識するまでは継続されることを念頭に置く必要がある。

また中国の昨年一年の訓練・演習状況からは、台湾の封鎖はもちろん、米国の接近・阻止訓練に比重が置かれており、訓練の地理的(第2列島線)・時間的(継戦)範囲が拡大され、台湾侵攻能力の向上が図られている。まさに演習から実戦への移行は現実味を帯びてきた。加えて漁船約2000隻の集中的な展開は軍のみならず海上民兵の組織的行動能力をも見せつけている。また政治動向において注視すべきは、中央軍事委員会のほとんどのメンバーを粛清するなど、政治的な習近平主席個人への権力集中が図られた。このことにより、台湾侵攻に関する政治判断の際、誰も習氏を止められない状況にあることは注視すべきである。

これらからも、現下の国際情勢は、法の支配に基づく秩序が崩壊し、力の強いものが支配する世界、すなわち戦後80年世界秩序崩壊が始まったと見るべきである。

・米国の戦略転換:同盟国への負担増大
トランプ政権が公表した国家安全保障戦略(NSS)および国家防衛戦略(NDS)は、米国一強時代の終焉を示した。新たな指針として、西半球(南北アメリカ大陸)を重視する「モンロー・ドクトリン」を再定義した「ドンロー主義」を掲げた。米国は依然としてインド太平洋での中国抑止を優先事項に掲げるが、同盟国の役割をこれまで以上に重視している。具体的には、NATOや韓国などに対し、GDP比で3.5%から5%という高い軍事費負担を要求している。ヘグセス国防長官は、明示は避けているものの、日本(現状2.0%)に対しても、さらなる負担増を要求している。

・安保3文書改訂に向けて
安保3文書を策定した3年前とは環境が大きく変わった中、日本は「自ら守る力」の強化が急務である。

小泉防衛大臣が基調講演で言及した「太平洋防衛」と同盟国の「支持基盤」という観点とも関係するが、西太平洋の第一列島線と第二列島線の防衛態勢を強化(日米の戦略的連携)することが喫緊の課題と考える。

特に米国が西半球重視を示す中、アジア関与には限界があることを見据え、まずは日本単独の防衛力で第一列島線に対する侵略抑止能力を強化すること。同時に米国の西太平洋展開を容易にするため、第二列島線までの防衛態勢を強化する。

具体的には米国の西太平洋展開に際し、港湾その他の施設へのアクセス拡大(北海道を通る北太平洋ルート)、或いは西太平洋上に所在する硫黄島などの作戦基盤(米軍アクセスの太平洋中央ルート)を強化する必要がある。さらにフィリピンや豪州と連携し、わが国の装備移転などを通じて第一列島線防衛を強化することも重要である。
加えて、装備移転に関する5類型撤廃がなされれば、第一列島線に位置するフィリピンに対し、日本の防空、対艦ミサイルなどの装備移転により、フィリピンの防衛力向上に貢献することは、日米にとっても有益となる。

高市総理の発言にある「強く豊かに」は、「富国強国」である。我が国防衛力をさらに強化するとともに、米国をして日米同盟が「得」と認識させ、日米同盟をさらに強化することは、中国に日本の意思と能力を認識させ、台湾有事を抑止することに繋がるのである。

2 湯浅博・産経新聞特別記者
これまで、小泉大臣と岩田様の説明で概略の論点整理が尽くされたと思うので、以下補足的に見解を述べたい。

・高市首相は国民の不安感で勝利
2月8日の総選挙において自民党が圧勝し高市早苗第2次政権が誕生した。この際、高市首相はおそらく二つの敵と戦った。一つは野党勢力だが、もう一つは中国という目の前にある危険な存在。緊迫する国際情勢に対する国民の漠とした不安が日本人の自立性を覚醒させたことなどを背景に高市首相の人気を押し上げたのだと思う。

その不安が具体化するのが、2月28日にイランに対しアメリカとイスラエルが攻撃したことだ。この作戦がいつまで続くのかということは一つの懸念材料である。ダン・ケイン統合参謀本部議長が米軍の弾薬備蓄を心配する報道があったように、長く続くようであれば米国は疲弊するだろう。その結果、一体誰が得をするのか、誰が漁夫の利を得るのかということを同時に考える必要がある。

・米国の疲弊は中国の勝機
かつて2001年9月11日の同時多発テロが生起した際、中国は米国の対アフガニスタン戦争により、どの程度米国の国力が疲弊するかを研究していた。その結果、翌年の2002年11月、中国共産党大会の席上、江沢民主席(当時)が、今後20年間は中国の戦略的好機だと表明した。

続いて米国がイラクへの攻撃(2003年)に注力して疲弊していた時期、中国は南シナ海に進出し国際法を無視した軍事拠点構築を強行した。国連海洋法に違反するという裁定が下されても、紙くず同然と無視し続け、すでに南シナ海は中国の海となっている。

・トランプ外交というリスク
いま危険だなと思うのはトランプ大統領の性格とも言われる外交姿勢で、「目に見える成果」を求め、「恫喝」や「力の誇示」により、「有利な取引」に導く。中国との経済取引の場で目の前に成果があれば、一気に対中宥和に傾くこともあり得るだろう。

これまでの米国の戦略を振り返れば、クリントン政権では二つの大規模な戦争を戦い勝利する、ブッシュ政権では一つの大規模戦争と一つの中規模戦争に勝利すると縮小し、バイデン政権では統合抑止能力で同盟国と一体化して戦うとなった。先ほど岩田様が言及したトランプ政権では、本土防衛とインド太平洋の平和維持に限定された。

今回イランを攻撃することで、核開発の阻止できることを期待するが、長期化、泥沼化すると米国が疲弊し、インド太平洋に力の空白が生じ、そこを中国が埋めてくる可能性がある。わが国はいま、非常に危険な渦中にあるということを認識し、高市政権は同志国との対中抑止戦略を迅速に構築する必要がある。

●全体討論
司会:力による現状変更の世界においてわが国は一体何ができるのか。今回のイラン攻撃で、NATOは米国支持を打ち出した。この現実を踏まえて政権与党の姿勢を確認したい。
小泉:欧州の友人と話す機会があるが、その時に話題になるのが、一体誰が得をするのか、ということ。例えばグリーンランドの件でも、最後に笑うのは誰かという点。結論は想像に任せるが、NATOは米国の力が絶対必要だということを認識している。
シンプルに言えば日本は自前の力を強化することである。これが抑止力になる。侵略者の考えは直前まで分からず、演習か実戦かも分からないとき、必要なことは、決して誤ったメッセージを相手に送らないことである。

司会:わが国は専守防衛を基本にしているが、これは攻撃を受けてから発動するもので、被害を受けないと成り立たない概念だが、サイバー戦など現代戦の時に時代遅れではないか。
岩田:専守防衛の議論も必要だとは思うが、反撃能力がオーソライズされた時点で、実質的に乗り越えていると思う。それよりも政治体力は、もっと別の面に向ける方が生産的だと考える。

司会:3月19日に高市首相が訪米するが、日米首脳会談で注意することは何か。
小泉:高市・トランプ両首脳の関係は非常に良好なので、今月の首脳会談は重要性が増している。この局面で誰が得をするかという点は指摘しておく必要があるかもしれない。
湯浅:いま注意することは、米中首脳はそれぞれの政治的「時間軸」に従って動いていること。習近平氏は2027年の4選を見据え、内外にある「不穏の芽」を絶つために強硬姿勢を崩さない。高市首相の「存立危機事態」発言への反発はその一環でしかない。対するトランプ氏は秋の中間選挙を控え、米中貿易交渉での成果を求めて「融和」と「強硬」の間で揺れ続けている。トランプ外交は「アメリカ第一主義」に基づき、従来の国際秩序よりも実利的な取引を優先する傾向が強く、台湾防衛を巡るリスク変数ともなっている。
高市首相は次の訪米で、台湾有事は日本有事だと刷り込み、対中抑止の最前線にある日本の地政学的な価値を認識させることが必要である。首相の外交手腕に期待したい。

小泉:最後に、これから安保3文書改定の議論を制約なく行える環境を作っていきたいと思っている。例えば原子力潜水艦という選択肢も含めて議論が行えることが、真に日本を守るという目的に適うのであれば、躊躇する理由はない。戦略爆撃機と聞いて、核搭載を想像できる一般の人は決して多くないだろう。某国の戦略爆撃機が領空に接近し、空自のスクランブルが発進する意味を理解する上で核の議論は欠かせない。このようなことを含め、広報戦略は重要だと考える。さらに、人的基盤の重要性は言うまでもない。金銭的なものだけでなく、社会全体のリスペクトをどのように育むかという点も大事なことである。日々の訓練に淡々と取り組む隊員の姿をもっと伝えていきたいと思う。

最後に司会の櫻井理事長は、小泉大臣の力強い言葉をもって締めたいと宣言し、この月例研究会を終了した。
(文責 国基研)