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2026.03.10 (火) 印刷する

日本の通信が危ない - 携帯基地局における技術主権喪失の危機 -  石井義則・情報通信ネットワーク産業協会常務理事

3月6日(金)、一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)の石井義則・常務理事他が国基研に来所し、定例の企画委員会において「日本の通信が危ない 携帯基地局における技術主権喪失の危機」と題し講演し、その後櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見を交換した。

【概要】
・情報通信ネットワークは国家の神経

国家的インフラである情報通信ネットワークは、企業や政府といったサービス提供者がネットワークを通じてユーザーに提供する構図の中において、そこに関わるコンテンツ、データセンター、端末など多種多様な媒体が介在し、豊かな国民生活、あらゆる産業の基盤となる最重要インフラと言える。

情報を繋ぐためのネットワーク(固定通信網、携帯通信網、海底ケーブル、衛星通信など)に求められる技術要件は、低遅延、高速・大容量、多数同時接続はもとより、安全信頼性、低消費電力、拡張性、自律性など、年々高度になっている。

情報通信産業の国内総生産額を見ると、2023年時点で58.1兆円、雇用は462万人という巨大な産業となっている。通信機器市場はグローバルに見ると携帯基地局が牽引して伸長しているが、国内生産額は2000年をピークに減少傾向が継続している。

携帯基地局装置のグローバル市場シェアでは中国ベンダ、欧州ベンダが9割を占め、日本企業は1.7%という惨憺たる状況で、国内市場でも海外勢に押されつつある。

・携帯基地局装置における国内メーカー事業継続の危機
そこに、2024年にはドコモが基地局装置の調達方針を国産優先から転換した、とのニュースが衝撃をもって報じられた。5G通信の品質改善のためとされるが、国内ベンダにとっては厳しい状況になったことは間違いない。

この基地局装置調達方針転換は、国内サプライチェーンに大きな影響を及ぼし、人材・技術基盤の地盤沈下に繋がるだろう。これまで育成してきた人材が海外ベンダに流出し、技術力そのものが低下する。このままでは携帯基地局においてわが国の技術主権を喪失することになり、標準化・技術仕様を海外勢に主導権を奪われ、日本固有の要求は実現が困難となる。さらに、有事や自然災害の場合にも海外ベンダに依存しなければならないことは、国家の安全保障、経済安全保障にとって大きなリスク要因といえる。

・携帯ネットワークはガラパゴス化から失敗した
第3世代携帯電話の3G(2000年~)の時代には、国ごとに独自の作りこみ部分が相当あり、国内ではiモードなど先進的な技術、機能が出現した。しかし、グローバル志向が希薄であったため、海外から孤立しガラパゴス化したと言われる。次に4G(2010年~)の時代になり通信規格の標準化、グローバル化が進展し、標準化をリードして競争優位にたった海外のメーカーが寡占状態を形成していった。そして今、5G(2020年~)の時代では、オープン化、仮想化により、寡占ベンダの支配から競争市場へと移行することが期待されているが、なかなか移行が進まず国内市場も停滞してしまっている。

今後、6G・AIの時代に入ってくると、AIとネットワークの融合が進み、AI基盤上にネットワークインフラが構築され、AIに適したネットワーク、AIによる自律的なネットワーク制御が実現することになるだろう。その新たな市場で、国を挙げた覇権争いが生じることが予想される。

5Gインフラ構築においても各国・地域とも戦略的に進めてきた。米国は中国ベンダを排除し、パートナー国と連携して5Gを整備するとともに法整備(CHIPS法)によりキーデバイスを強化している。また、欧州、中国とも非友好国ベンダから脱却し、域内、国内ベンダを優遇する傾向にある。

これまでの日本と中国の通信機器事業を比較すると、日本が国内市場競争でベンダの体力を消耗して来たのに対し、中国は国内市場を保護し、それを梃子にグローバル市場へ進出し、その勢いの差は明確である。

・わが国の「通信主権」確保に向けて
情報通信は国家のインフラであり、社会生活の基盤である。これを海外勢、特に非友好国に依存することは主権を放棄するようなものである。わが国の通信主権を確保することは喫緊の課題である。

これまで述べてきたように、現状は国内勢が非常に劣勢である。そこで、わが国が目指すべき方向は、まず官民連携で人材を育成するプラットフォームを構築することである。それにより、優秀な人材が世界を変える技術に挑戦できる環境をつくる。また、国際競争力確保に向けた研究開発を強化することである。研究開発予算を拡充し、政府主導で重点技術領域の研究開発を推進することが必要である。さらに、日本発の先行市場(vRAN/AI-RANの導入加速)を創出する、つまりAI時代に向けた世界最先端の情報通信基盤を構築することが望まれる。加えて、国家安全保障・経済安全保障の観点から、戦略的な認証制度や調達スキームを制度化していくことである。これにより、サイバーセキュリティや災害対策の強靭性もサプライチェーンリスクの低減も期待できるだろう。

【略歴】
1959年東京都生まれ、1981年早稲田大学卒業後、同年、富士通入社。同社フォトニクス事業本部VP、富士通ネットワークサービスエンンジニアリング株式会社社長を経て2021年退社。同年、情報通信ネットワーク産業協会に入り、現在同常務理事。総務省が主催する情報通信審議会、IPネットワーク設備委員会、航空・海上無線通信委員会の専門委員、電波有効利用委員会重点技術作業班の構成員を務める。   (文責国基研)