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2026.03.30 (月) 印刷する

『日本の核政策に関する検討』 村野将・ハドソン研究所上席研究員

米ハドソン研究所の村野将・上席研究員が臨時企画委員会のゲスト講師としてプレゼンテーションを行った。本年2月に新STARTが失効し、核をめぐる国際環境は大きく変わりつつある。そこで、村野氏はわが国をめぐる核兵器に関する諸課題を分析・検討し、その後櫻井理事長をはじめ企画委員らと意見を交換した。

簡単ではあるがその概要を以下紹介する。

【概要】
〇日本の核政策が直面している課題

日本における核の議論は、核抑止か核軍縮かという二元論に陥りがちな傾向がある。しかし、現実の核の脅威をどうするかという点が本来の議論の出発点である。現在は米国の拡大抑止に依存している日本だが、悪化する核をめぐる安全保障環境の中、その抑止の信頼性を疑問視する声もある。

抑止の信頼性を論ずる時、敵に対する抑止なのか、同盟国に対する安心なのかを分けて考える必要がある。前者であれば米国の能力やメッセージングの仕方を変える必要があるが、後者であれば同盟間の協議やコミュニケーションの方法がカギになる。

重要な点は、日本が核攻撃を受けた「後」に米国が何をするかではなく、その「前」に日米がいかなる行動をとることができるか、その上で、わが国は非核三原則という既存の枠組みを維持するのか、見直すのか、あるいは独自の核武装を追求するのか、という選択肢を議論することだろう。

ただし、独自の核武装は一朝一夕で成すことはできず、現実の脅威に対抗するには技術的なハードルや時間的制約もある。かつて英国の国防大臣であったデニス・ヒーリーは「敵を抑止するには5%の信頼性があればよいが、同盟国を安心させるには95%の信頼性がなければならない」と述べた。つまり、一見すると頼りないように見える米国の核の傘も、敵から見れば引き続き十分な抑止力を持っている可能性もある。逆に、独自核武装は我々の対米不信を払拭するかもしれないが、その発展途上で未成熟な抑止力が敵から見て、米国の核の傘よりも高い抑止力を発揮するとは限らない。

〇拡大抑止の強化策
拡大抑止の強化策を、まず米国の能力(capability)面で検討する。新START失効を見据えて米国の核戦力増産が想定される中、海洋発射型核巡航ミサイル(SLCM-N)の早期配備を促す、また米本土ミサイル防衛(ゴールデンドーム)構想を本土防衛だけでなく第一列島線地域にまで拡大(ゴールデンドーム・フォワード)することに貢献する、などが考えられる。

次に運用(operation)面においては、米戦略爆撃機・戦略原潜の展開・哨戒頻度を増加させるため、米爆撃機に対する空中給油や戦略原潜の安全確保などの支援を積極的に提案すべきだ。加えて、SLCM-N配備を見据えた非核三原則の見直しなどが考えられる。

さらに協議枠組み(consultative flamework)面においては、拡大抑止に関する日米協議の重層化、核を含む統合作戦計画の立案・共有など、核戦略・戦術面において積極的に参画することも強化策の一例である。

〇「持ち込ませず」議論の論点
上述のとおり米中露に加え北朝鮮というファクターの最前線に位置するわが国の核をめぐる戦略環境は悪化する一方である。そのような中、1967年に佐藤内閣が表明した非核三原則(持たず、作らず、持ち込ませず)のうち、「持ち込ませず」を見直して、拡大抑止を強化しようという議論がある。

そもそも、「持ち込み(introduction)」とは何か。元々、米国は「持ち込み」に相当するのは核兵器の陸揚げや恒常的配備のみと想定していたが、わが国の政治的文脈ではより広く定義されており、一次寄港・通過(port call/transit)も含まれる。一方、米国は特定のアセットに核兵器が搭載されているか明らかにしないNC/ND(Neither Confirm/Nor Deny)原則がある。

さて、「持ち込ませず」見直しで、中朝に対する核抑止力は高まるかという問いには2つの見方がある。Yesの立場は、米国の核兵器が目に見える形で日本に存在するという明確なメッセージは強力な抑止力になるというもの。他方Noの立場は、例えば核搭載潜水艦が姿を晒すことは脆弱性のリスクが上がり意味がないというものである。

それでは実際に、持ち込むことが可能な米国の核はあるか。現時点までの可能性としては韓国で実施したことのある戦略原潜の寄港である。将来的には、2032年までに限定的IOC(初期作戦能力)を獲得する予定のSLCM-N(海洋発射型核巡航ミサイル)搭載艦の寄港が考えられる。

〇見直しの方向性
現在考えられる「非核三原則見直し」の方向性としては、概ね以下の4通りの方法に収斂するのではないか。

まず積極的な見直しとしては、①核政策に関する新たな原則を打ち出す、②「持ち込ませず」を削除する、もしくは「撃ち込ませず」といった別の表現に書き換える方法がある。他方で、消極的な見直しとしては③三文書改定で非核三原則に言及しない、あるいは④岡田答弁(2010)の踏襲=現状維持の再確認・より上位の政治宣言化といったことも考えられる。私は政府が岡田答弁を踏襲する限り、非核三原則は実質的に「2.5原則化」していると考えている。あとは、政府としてどの程度明確な核政策を打ち出したいか、そのためにどの程度政治的資本を費やす意義があるかのバランスということになるだろう。いずれの場合でも、SLCM-N配備までの数年間を使って核に関する開かれた議論を行い、一定のコンセンサスを形成することは必要だと考える。

三原則のうち「持ち込ませず」が見直されれば、寄港する艦船が核搭載艦か否かは政治争点となりえず、米国の拡大抑止を確実にするための艦船寄港・補給体制を拡充することが容易になり、結果的に西太平洋の核抑止に貢献することになる。今後の議論の深化を期待したい。

【略歴】
拓殖大学国際協力学研究科安全保障専攻博士前期課程修了。岡崎研究所や官公庁で戦略情報分析・政策立案業務に従事したのち、2019年よりハドソン研究所。マクマスター元国家安全保障担当大統領補佐官らと共に、日米防衛協力に関する政策研究プロジェクトを担当。著書に『米中戦争を阻止せよ』(PHP新書、2025年)、“Alliances, Nuclear Weapons and Escalation: Managing Deterrence in the 21st Century”(Australian National University Press, 共著、2021)など。 (文責 国基研)