公益財団法人 国家基本問題研究所
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2026.04.01 (水) 印刷する

総合安全保障プロジェクト 月次報告会

今月の総合安全保障プロジェクトの月次報告会は、まず中川真紀・国基研研究員が中国軍の「全人代から見る今後の中国軍」を、続いて吉田正紀・元防衛大臣政策参与が「米国の安全保障戦略における中東戦略の変遷」を、岩田清文・元陸上幕僚長が「イラン戦争が与える日本への示唆」について、それぞれ報告した。

第1部は国会議員に向け、第2部は主要メディアに向け報告し、参加した議員、記者、企画委員らの質疑に応じた。以下、その概要を簡単に紹介する。

月次報告会議員向け(午前8時~9時30分)・メディア向け(午前11時30分~午後1時)
【報告概要】

●『全人代から見る今後の中国軍』
 中川真紀・国基研研究員

全国人民代表大会(全人代)は立法権を有する国家権力の最高機関で、行政権、司法権、検察権に優越するとされる。省、自治区、直轄市、特別行政区及び軍が代表を選出し、任期は5年、代表の定数は3000人を超えてはならないと規定されている。今回の第14期全人代第4回会議(毎年3月開催が通例)は、3月5日~12日の8日間という日程で、予算・法律等の他、第15次五カ年計画綱要を批准した。全人代は党の決定の追認機関に過ぎないが、批准された予算や五カ年計画等は国家運営の方向性を示すことから、その動向は注目に値する。

・五カ年計画と国防建設の成果
これまでの第14次五カ年計画(2021年~2025年)では、その目標が「訓練・戦争準備を全面的に強化」することにあり、軍改革の深化、ハイレベルな戦略的抑止、統合作戦システムの構築、新領域分野の軍民共同の発展などを推進してきた。例えば、軍改革では訓練から戦争に移行する態勢を整え、聯合利剣や海峡雷霆など統合演習を重ね、ICBMサイロ群増強(1個軍から3個軍へ)や戦略爆撃機の米ADIZ飛行など、戦略的抑止のレベルを向上させた。

これからの第15次五カ年計画(2026年~2030年)の国防関連目標は、「健軍百年奮闘目標の達成と質の高い国防・軍の近代化推進」を掲げ、中央軍委主席責任制のもと、先進戦闘力(新領域・新質戦力や無人知能化戦力など)建設の加速、統合作戦システムの深化、軍民・平戦時一体の国防動員体制を強化するとされる。

目標の中にある「健軍百年奮闘目標」は2020年の5中全会で「2027年に健軍百年奮闘目標の実現を確実にする」と提唱された。戦争準備(侵攻・封鎖・ハイブリッド戦等含む)を整えた「戦える軍」構築の一つの結節として、検証・総括の時期を2027年に設定している可能性がある。しかし、相対的戦闘力は流動的なもので、戦争準備に終わりはなく2027年以降も継続される。一方で戦争の発動時期は習主席の決心次第であり、情勢により2027年の前も後もありうる。

・2026年の重視事項
全人代と同時に開催される全人代軍・武警代表全体会議は、全軍の主要幹部などが一堂に会し、最高指揮官の習近平中央軍委主席が重要講話を行い年度指針が示される重要な会議との位置づけである。近年は重要講話の他、部隊等の代表6名が発表を行い、会議終了後に全軍で重要講話学習会を展開し、末端まで主席の意図が徹底される。

今回の重要講話で示された「政治主導による軍建設の優位性発揮」と「国防・軍近代化の推進」のもと、代表発表も「党の支配」と「近代化」をテーマとし、党の支配(習主席への忠誠)がすべてに優先することが徹底された。
国防予算は前年比7.0%(政府予算5.5%)増で軍重視の予算、そのうち重点支出項目は統合作戦システム(最適化)、新領域戦力(実戦化)、従来装備(アップデート)、兵站(近代化)あるいは人事(能力主義で専門技術者の獲得・育成など)面などである。

次世代装備は例えば、衛星写真の画像を分析すると、渤海湾に面する遼寧省の葫蘆島造船所に新型SSGNの可能性のある潜水艦の進水(1月)・艤装(2月)が確認された。巡航ミサイル発射可能なShang3級SSGN後継型の可能性がある。また、2025年に大連造船所で建造が開始された新型空母には原子炉格納容器を設置可能な形状が確認され、7年後にはカタパルト式原子力空母が就役する可能性がある。さらに、陝西飛機工業公司では新型AWACSの可能性がある飛行機を確認した。現在主力のKJ-500より大型の早期警戒管制機であり、長時間・長距離の作戦運用が可能となる。

・今後の見通し
2026年以降の5年間では、2027年8月1日には健軍百年を、秋の党大会には習近平氏4期目の開始を迎える。人事面では中央軍委を改編あるいは解体し、習主席独裁体制を築く可能性がある。訓練面では多戦区参加の統合演習、兵站統合演習、予備役等動員演習などを実施し、統合作戦システムを深化するだろう。装備面ではICBMサイロの運用開始、カタパルト空母・UAV空母の戦力化などを進め、次世代装備・低出力核兵器等の開発・配備が見積もられる。

2028年には台湾・米国で総統・大統領選挙が実施されることから、2027年末までには党・軍の新体制を確立し、中国軍は様々な作戦を遂行可能な戦備態勢を維持しつつ、米軍に比する先進戦力を強化していくであろう。

資料PDF 全人代から見る今後の中国人民解放軍

 

●『米国の安全保障戦略における中東戦略の変遷』
 吉田正紀・元防衛大臣政策参与・米国双日副社長

・米国の中東戦略は変遷する
中川研究員の発表にもあったように、アジア太平洋地域で中国の脅威が年々拡大しつつある中、米国の中東戦略は変遷を繰り返してきた。

第二次オバマ政権では、イラン核合意(JCPOA)を達成(2008年)したことで脅威認識を下げ、第一次トランプ政権では脅威の主軸をアジアに置いた。2018年にJCPOAから離脱すると、アラブ世界でのイスラエル認知・統合を最優先し、湾岸諸国とアブラハム合意を締結した。バイデン政権では「中東は過去20年で最も平穏」との認識のもとアフガニスタンから撤退し、米国の中東関与が減少すると、ハマスがイスラエルに対しテロ攻撃を行い、米政権の判断の誤りが指摘された。

・イラン戦争の前提にある成功体験
上記の流れの中、第二次トランプ政権となり、2025年6月にイランの核兵器関連インフラに対する軍事作戦「Operation Midnight Hammer」を発動し成功する。イランに対し核を放棄して交渉する機会を与えた上で、最後通牒的な行動であった。戦力の主体はB-2戦略爆撃機の編隊で、戦闘機による事前の地対空ミサイル排除も含まれ、その結果、イラン側の対空ミサイルや戦闘機の反撃も受けなかった。

続いて、1月になりベネズエラに対する特殊作戦「Operation Absolute Resolve」を電撃的に実行した。本作戦は一人のパイロットの献身的な努力なしでは成しえず、「成功と失敗は紙一重」の作戦でもあったが、結果的には成功裏に終わり、トランプ大統領の自信を深めた。

・NSSと乖離する米政権の判断
アメリカとイスラエルが2月28日に開始したイランに対する攻撃は、中東地域は優先事項ではないとする国家安全保障戦略(NSS2025)、いわゆる政権のマニフェストとの整合性に疑問符が付くとも評価される。
すなわち、公約と現実が乖離している状況において、何故トランプ政権はこのタイミングでイラン攻撃を決断したのか。その理由は大統領本人しか知りえないが、一部には国際投資の源泉と投資先にするという見方や、先の成功体験を踏まえた軍事力に対する過信があったのかもしれない。

いずれにしても、今後アメリカ軍の地上部隊展開の動きを見据え、状況の急変に備える必要があるだろう。

 

●『イラン戦争が与える日本への示唆』
 岩田清文・元陸上幕僚長

今回のイランに対する軍事攻撃は、陸上および海上から100機以上の航空機が発進し、イランの地下施設を狙い最初の2日間で数万発の爆弾を投下、同時にサイバー・宇宙戦によりイラン軍の通信妨害を実施した。3月1日時点でイラン国内の2000以上の標的(ドローン基地、戦闘機等攻撃兵器・防空施設・指揮組織など)、5日時点で4000以上の標的を攻撃した。対するイランは反撃として、イスラエル及び湾岸諸国に展開する米軍基地を中心に、ミサイル・ドローン攻撃を実施した。

・アメリカの攻撃目的と成果
米国の攻撃目的は、①ミサイル破壊、②海軍の壊滅、③核保有阻止、④体制転換とされるが、大統領、国防長官、国務長官の発言を比較すると、微妙に異なることも見て取れる。例えば、ルビオ国務長官は②海軍の壊滅にまで言及せず、④体制転換に積極的なトランプ大統領に対し、ルビオ氏は「可能なら望ましい」程度で、ヘグセス国防長官は反対意見を持つ。

これまでの成果であるが、①ミサイル破壊と②海軍の壊滅は、概ね達成、③核保有阻止は441kgの60%高濃縮ウランなどの所在が判明せず未達成である。加えて、当初の目的になかったホルムズ海峡の安全が確保できない状況が生起し、対応を迫られている。

・地上部隊の動向
現在、核保有阻止の動きは表面化していない一方、一部地上軍の派遣が表面化してきた。陸軍の第82空挺師団の即時対応部隊3000名からなる旅団規模を展開して、石油施設のあるカルグ島の奪取に使われる可能性がある(NYT2026.3.23)が、空挺作戦が展開されるかは定かではない。ただし、仮に地上軍が展開されたなら、その狙いはイランの経済的生命線を人質に、ホルムズ海峡の強制開放を迫るのではないかと思われる。

また、第31海兵遠征部隊と強襲揚陸艦USSトリポリ並びに第11海兵遠征部隊と強襲揚陸艦USSボクサーの2個海兵隊遠征部隊が中東派遣かと報道されたが、その狙いはホルムズ海峡の安全化(通航する船舶をねらうミサイル基地の破壊など)とする見方もある。

・わが国の対応
現在戦争の焦点がホルムズ海峡の開放に変化しつつあり、長期化するとの指摘もある。日本の化石燃料輸入先のうち、原油の94%(93%がホルムズ依存)を中東に依存しており、この状況が続けば、わが国に及ぼす影響は少なくない。

わが国が政策判断する際、米国が行うイランの核保有阻止に対し、核拡散阻止の観点から一定の評価をすべきと考える。米国のイラン攻撃は、国際法上の慎重な検討を要し、軍事力による解決を安易に追認すべきではないものの、中朝の核の脅威が増大する現実とともに核不拡散体制を守る観点から冷静に評価することが求められるだろう。

他方、エネルギー安定確保の観点から、ホルムズ海峡の閉鎖に対し、可能な限りの米国支援も必要である。戦闘が早期に終結しなければ、米国の力を対中抑止に振り向けられず、台湾海峡の安全確保に危険信号が点滅し、日本の安全保障に少なくない影響を及ぼすのである。

メディア向け報告では、出席記者からの質問に答える形で補足説明が行われ、活気ある議論が展開された。質疑応答の一部を以下に紹介する。

【質疑応答】
Q: 兵器用濃縮ウランの保管場所が分かったとして、地上作戦で残存する濃縮ウランを持ち出すという選択肢はあるか。
A: 地上作戦の可能性は否定できない。ただしIAEAによると2か所に分散して保管されているとされるが、空挺作戦には高いリスク(人的被害など)を伴うというハードルがある。他方、大規模な爆撃をすると、完全に破壊したという確証を得ることは難しい。どこで線引きするか、米政権の判断が注目される。

Q: バイデン政権時に米国が中国の台頭を危惧してペーシング・スレット(pacing threat)という表現を使用したが、その意味を教えて欲しい。
A: 比ゆ的には前を歩く人の後にピッタリ付いて歩く様子を示しており、米国の軍事能力に対応して「ひたひた」と追随してくる脅威のことである。現実に核能力を増大させ、海軍力でも空母運用体制を充実させ、米国に追いついて凌駕する勢いは確かだろう。

Q: アメリカ・イスラエルのイラン攻撃を核不拡散の観点から評価する点で、日本政府はどのように発信したらいいか。
A:日本政府は一貫して「イランによる核兵器開発は決して許されない」という立場を表明しており、これを高市総理が日米首脳会談でトランプ大統領に示したわけで、これ以上の答えはないだろう。

Q: 現下のイランをめぐる戦闘を中国はどう見ているか。中国の報道を見ると日中戦争になぞらえて、イランが耐え忍ぶというイメージを植え付けているようだが如何。
A: 大戦中のことを利用するのは中国の認知戦の常套手段であるが、他方この戦争が長引いて喜ぶのは中国だということは指摘しておきたい。米国はすでに国防産業に対し増産を命じており、疲弊し始めたことは否めない。戦闘の長期化は米国を疲弊させ、中国が漁夫の利を得る機会を増大させる。

この総合安全保障プロジェクトの月次報告会・記者向け報告会は、今後とも継続実施していく予定である。 (文責 国基研)