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2026.04.21 (火) 印刷する

『わが国の海運事情 - ペルシア湾で待機する日本関係船舶が示唆すること-』 杉本和重・海事代理士

4月17日(金)、世界と日本の海運事情に詳しい海事代理士の杉本和重氏が国基研に来所し、定例の企画委員会においてわが国が直面する海運事情について説明し、その後櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見を交換した。

【概要】
イランに対する米国とイスラエルの攻撃に端を発した緊張状態がいまだ終息を見ず、わが国産業に不可欠なエネルギー資源の物流が依存するホルムズ海峡は、実質的な閉鎖状態が継続中である。そこで、わが国の経済活動を支える海運事情を今一度、見直してみる必要があるだろう。

・世界の貿易を支える外航海運
外航海運の主体である船舶は、海上交通の要衝を通る必要がある。ペルシア湾とインド洋を結ぶホルムズ海峡をはじめ、地中海と大西洋を結ぶジブラルタル海峡、インド洋と南シナ海を結ぶマラッカ海峡などがあり、通航する船舶が収束するポイントとなっている。例えば、原油を運ぶタンカーならペルシア湾から日本に至るまでに、ホルムズ海峡やマラッカ海峡という要衝を通ることになるが、現在、ホルムズ海峡は実質的に閉鎖状態であり、エネルギーの供給のみならず、留め置かれた船と乗組員の安全確保などの観点より、大きな社会問題となっている。

海運を支える船舶にはいくつかの種類がある。例えば、鉄鋼原料などを運ぶバルクキャリア、原油を運ぶオイルタンカー、コンテナを運ぶコンテナ船、液化天然ガスを運ぶLNG船などがある。これらの船舶が、外国から原料や資材を国内に輸入、製品を国外に輸出するなど、わが国の貿易量の99%を海上輸送が占め、その現状を考えると、これら外航船の役割は極めて大きいと言える。

・わが国の外航船の多くは外国籍
今回の中東情勢悪化により、ホルムズ海峡が実質的に閉鎖状態に陥っているが、国民民主党から、日本関係船舶の航行の安全確保に関する提言が3月23日に内閣官房長官に対して提出された。それによると、これまでの日本政府の発表より14隻多い、日本関係船舶59隻(当時)がペルシア湾内で待機を余儀なくされているという。

それでは、世界で運航されている外航船は概算すると約44000隻にのぼるが、そのうち日本関係船舶(日本船舶と、実質的に日本法人が所有している便宜置籍船、その他関係船)はどのくらい存在するのだろうか。
国土交通省や日本船主協会によると、外航船のうち日本関係船は、昨年の集計で外国籍船1900隻と日本籍船311隻を合わせて2211隻とされる。このように、多くが外国籍船(パナマ、リベリア、マーシャル諸島など)であり、これは一般に便宜置籍船と呼ばれる。

船舶の国籍に関する国際法は国連海洋法条約で定義される。公海上における船舶に旗国主義(旗を掲げる国の排他的管轄権を認めること)を適用し、船舶の国籍について、「(旗の国と)当該船舶との間には真正な関係が存在しなければならない」と規定する。これを受けわが国の船舶法では、登記、登録、国籍証書の備え付けなどが義務付けされるが、便宜置籍船は外国籍(旗国)の場合は、各旗国の法律が適用され、船舶管理や船員管理も含め、その実態が掴みづらいという難点がある。

・外国籍船、外国人船員のかかえる問題
一般に多くの外航船(便宜置籍船)の船主は海外子会社を作り、登記・登録したその船舶を定期用船者に貸出すが、船員の配乗も含めた船舶の管理実務は船主の代理である船舶管理会社が行う。この場合には、日本の海員組合にも登録され、船員の配乗実態などを掌握することが可能である。しかし、登録船主が日本法人の海外子会社であっても、裸用船(船員が乗り込まない船だけの状態)で海外の会社に貸し出すような場合は、実質船主が日本にあっても、その管理実態を把握することが難しくなる。

これらの形態の船も日本法人の実質所有船と考えると、海運大国(中国、ギリシア、ドイツ、シンガポールなど)と比較し、日本の場合は、船舶管理が日本国内で行われている割合が低く、全体の半分程度であると考えられる。船舶管理業務は、安全・運航・航海・積荷・メンテナンス・船員の管理や保険業務など、船舶の堪航性(安全な航海に堪えうる能力)を維持するための管理業務をいい、その管理実務は、船長や機関長など海技のバックグラウンドを持つ「監督」が担当するが、わが国の場合、海上経験を持つ日本人海技者数が限定的であり、日本関係船に多く乗船しているフィリピン人の船員経験者が監督として、日本の船舶管理業を支えているのが実態である。この点、ギリシアでは船舶管理業に対する税制優遇があり、国内において船舶管理業を保護し、持続可能性を維持できる制度が存在する。

現在は、日本船舶も含め、日本関係船のほとんどが外国人船員により運航されており、さらにその規模、管理実態が正確に把握できない状況を考えると、緊急事態などに適切に対応できるのだろうか。たとえば、東日本大震災の際に、一部の外国人船員が福島原発の放射能漏れを恐れて寄港や荷揚げを拒否するというケースがあったことを思い出すと、将来的な不安はぬぐえない。
現在ペルシア湾で待機を余儀なくされている多くの船舶が話題になっているいまだからこそ、日本関係船のすべてが日本向けの貨物輸送に従事しているわけではないことも考慮したうえで、改めて俄かに話題となっている「日本関係船」についての共通理解とわが国産業の将来を担う海運事情について、真剣に議論すべきと考える。

【略歴】
1965年生まれ、1988年日系船舶管理会社入社、外航船航海士・船長を経て海務監督として船舶管理業に従事。船舶管理グループ長、取締役専務執行役員を歴任し、2024年同社退任。海事代理士。(文責 国基研)