2019年7月の記事一覧
短距離ミサイルと甘く見てはならぬ 黒澤聖二(国基研事務局長)
北朝鮮は今月25日早朝、虎島(ホド)半島付近から日本海に向けてミサイル2発を発射した。朝鮮中央通信によると、金正恩委員長が「新型戦術誘導兵器」の発射を視察し、軍事演習を強行しようとする韓国軍に厳重な警告を発したという。同時に金委員長は視察で「防御が容易でない誘導弾の低高度・滑空跳躍型の飛行軌道の特性と威力を直接確認」(7月27日付産経新聞)したとされる。 岩屋毅防衛大臣は、29日の閣議後の記...
「中国は敵ではない」への反論を支持する 石川弘修(国基研理事・企画委員)
米国の民主党系元政府高官や中国専門家ら100人が、7月4日付のワシントンポスト紙に「中国は敵ではない」と題する公開書簡を発表したが、今度はトランプ政権の厳しい対中政策を支持する国防総省関係を中心とする専門家ら130人が18日、「対中方針を堅持せよ」と題する反対書簡を、保守系の政治ウエブサイト「ワシントン・フリービーコン」に発表し、これに加勢する専門家が次々に名乗りを上げている。 ●起草者...
「欧州統合終焉論」の虚妄から目覚めよ 渡邊啓貴(帝京大学教授)
欧州議会選挙から1カ月余りが経った7月初めの欧州連合(EU)首脳会議では、秋に任期満了となるEU幹部の人選で合意し、欧州議会もこれを承認した。反EUポピュリスト隆盛で波乱を予測する向きが多かったが、報道されたほどの騒ぎでは結局なかった。 EUの首相ともいうべき欧州委員長にはフォンデアライエン独国防相が、欧州中央銀行(ECB)総裁にはラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事(仏元財務相)がそれぞ...
トルコのS-400導入は他人事ではない 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
7月21日夕に放映されたNHK番組「これでわかった!世界のいま」で、トルコの問題を扱っていたが「トランプ米大統領がトルコへの地対空ミサイル、パトリオットの売却にノーを突きつけたために、トルコがロシアからS-400地対空ミサイルを購入せざるを得なくなった」と報じていた。 明らかな間違いである。パトリオットをトルコに売却しなかったのはオバマ政権である。これが今日のボタンの掛け違いの発端になってい...
互いに血や汗を流す同盟関係に 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
トランプ米大統領の「日米同盟は不公平」発言を受けて、NHKのBS1が7月10日放送した「キャッチ!世界のトップニュース」で外交・安全保障担当の増田剛解説委員が「日米安保は、アメリカにとって、不公平どころか、測り知れないメリットをもたらしていると思います。日本政府は、トランプ大統領に、こうした同盟の内実をきちんと説明し、誤解を解く必要があります」と主張していた。 増田解説委員は嘗て、日本が北大...
原子力規制委の暴走で失われた国富 奈良林直(東京工業大学特任教授)
2011年3月11日の東日本大震災の津波に伴う福島第一原子力発電所の過酷事故から8年余りが過ぎた。この間、原子力安全保安院は、民主党政権下の3大臣合意のもとで安全性総合評価(ストレステスト)を実施し、同時に水密扉や消防車、電源車の配備など厳しい安全対策を求めてきたが、6月には福井県の関西電力大飯原発3号機がやっと再稼働を果たした。 しかし、ここまで原発の再稼働が遅れているのは、菅直人政権が事...
日本を直撃する米国の利下げ 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が7月10日の米議会証言において、7月末にも利下げに転じる意向を表明したことで、市場の利下げ期待は確実に膨らんだ。それどころか、一部に、金融緩和の期待まで生んでいる。 利下げが実施されれば、2008年12月以来10年半ぶりとなり、これまでのドル高円安の基調を反転させるリスクが高まる。そのとき、出口戦略を模索すべき日本銀行にとって、進むも地獄、退くも...
「専守防衛」の虚構に決別を 荒木和博(拓殖大学海外事情研究所教授)
日本の安全保障の基本は「専守防衛」である。占領解除以来、言い方はともかく、こちらからは攻撃せず、相手からやられるときだけ、それを防ぐという国防方針は連綿と堅持されている。「米軍が矛」「自衛隊が盾」。つまり汚れ仕事はアメリカ任せで自らは「平和国家」を気取るという、文字通りの「矛盾」を政府も国会も国民も、真面目な顔をして70年近く続けてきたことは次の世代に嘲笑されるのではないか。 安倍総理の方針...
【韓国情勢】韓国良識派、もう一つの声 西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)
文在寅政権は日本がとった対韓輸出優遇措置の廃止を「経済報復」だと無理やり規定し、国民の反日感情をあおって支持を得ようとしている。それに対して、韓国の良識的保守派は戦時労働者の最高裁不当判決や慰安婦合意破棄により、文在寅政権が国家間の約束を破ったことから今の関係悪化が生まれていると指摘。まず、日本を批判する前に文政権が反日親北政策を止めることが先決だと主張している。 野党保守勢力も、文政権と与...
ボルトン解任論の皮相な人事観測 島田洋一(福井県立大学教授)
ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)がトランプ大統領に解任されるのではないかという観測が盛んである。人事の機微は外からは窺い知れない。ここで予想めいたことを書いても意味はないだろう。 ボルトン解任論は二つの点を強調している。一つは、イランへの軍事攻撃を主張するボルトンは、中東を大混乱に陥れると同時に中国を間接的に利しかねない「目の見えないタカ派」であり、大統領も遂に見限らざるを...
【韓国情報】朝鮮日報の偽善批判する韓国良識派 西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)
7月4日、日本が韓国に対して半導体素材の輸出への優遇を廃止した措置に対して、韓国では文在寅政権と左派与党、左派マスコミだけでなく、文政権を批判してきた保守野党や保守マスコミも批判の声を上げている。しかし、一部の良識ある知識人らは昨年10月の戦時労働者に対する最高裁判決を無効にすることなしに日韓関係の改善はないと冷静な判断を求めている。 保守派のリーダーである趙甲済氏が主催するニュースサイト「...
南シナ海に「空母キラー」放った中国の狙い 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
複数の米メディアによると、米国防総省当局者は4日までに、中国が南シナ海で6月末に対艦弾道ミサイルの発射実験を行ったことを明らかにした。同海域で中国のミサイル実験が確認されるのは初めてとみられる。報道によると、ミサイルは南沙(英語名スプラトリー)諸島近くの「人工構造物」から発射された。「空母キラー」と呼ばれるDF-21Dか、グアムキラーと呼ばれるDF−26かのどちらかと思われる。DF-21Dの場合...
中国の欧州進出は「避実撃虚」と「伐交」 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
6月下旬にエストニアでの米国防大学(NDU)卒業生セミナーに参加し、欧州各国のNDU卒業生との会談で中国の欧州進出について詳細を聞くことができた。それらを総括すると、中国のやり方は、まさに『孫子の兵法』にある「避実撃虚(強い敵をさけて相手の虚をつく)」と「伐交(敵と同盟国の外交を分断)」の実践といえる。 ●中東欧に的を絞る狙い 中国は国力や国内基盤が確固としている西欧を避け、旧ソ連の...
スーダンは「対岸の火事」ではない 安倍翼(「ソフトジャタス」ジェネラルマネージャー)
4月のクーデターで軍が暫定政権を樹立したスーダンでは今、民主化を求める市民らの大規模な抗議デモが続き、政権側の容赦のない鎮圧行動で多くの死傷者が出ている。国営スーダン通信によると、6月30日もデモに際し、少なくとも7人が死亡、181人が負傷したという。 私は、このスーダンで100%日本法人出資の資源開発会社の現地駐在責任者として働いていた。スーダン国内で金及びコバルト、ニッケルなどの稀少鉱物...
「共産党のカベ」は無くなったのか 梅澤昇平(尚美学園大学名誉教授)
「令和」の時代に不安が少なくとも3つある。一つは、戦争だ。この予測は難しいが日本の生存にかかわる。二つは、大震災だ。今後30年以内に震度7以上の大地震が起きる確率は南海トラフで80%、死者最大32万人と東日本大震災の17倍といわれる。三つは、日本共産党の政権入りだ。これは架空の話だろうか。 ●過去にも政権入り要求 第一に、過去に例がある。敗戦の翌年にそんな話が実際あった。1946年の...