2022年3月の記事一覧
ウクライナ戦で証明された孫子 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
何故、ウクライナでロシアは苦戦しているのか?これを『孫子の兵法』から立証してみたい。 「五事」で戦う前に勝敗判る 「兵は国の大事、死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり」の有名な言葉から始まる『孫子の兵法』の、次に書かれている「これを経はかるに五事を以ってし」の「五事」によって、戦う前からロシアが苦戦することが窺える。 「五事」とは「道」「天」「地」「将」「法」だ、と孫子は説...
核共有の議論を封じるな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
安倍晋三元総理が「核共有についての議論を喚起すべき」と先月末のテレビ番組で述べたところ、世論調査では約8割の人達が議論すべきとの意見であった。 しかるに自民党の安全保障調査会が今月15日に第1回目の会合を行ったものの、会合を取り仕切る幹事長代理は、会合はこれで打ち切る旨の発言をしたと報じられている。 非核三原則の見直し不可欠 会合では有識者が「陸上に核を配備すれば敵の格好のターゲ...
モーガン氏提言の「国民即応隊」に賛同する 岩田清文(元陸上幕僚長)
3月22日の「ろんだん」において、ウクライナの惨状に鑑み、ジェイソン・モーガン氏から、『日本に「国民即応隊」を創設せよ』との熱いメッセージを頂戴した。氏のイメージは、志のある一般国民が、有事はもちろん大規模災害時、緊急的に集まり、技術的な側面などにおいて自衛隊の足らざるところを補うということのようである。負傷者の手当て、仮設避難所の設置、自衛隊到着までの秩序維持によって、直ちに近隣住民を助けること...
岸田外交に足りないインド理解 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)
3月19日、岸田文雄首相はインドを訪問し、モディ首相と首脳会談を行った。隔年に行われることになっている日本の首相の訪印は、2019年12月に予定されていた安倍晋三首相(当時)の訪印が直前で中止(正式には「延期」)となり、その後の新型コロナウイルスの感染拡大のため延び延びとなっていた。 周知のように、ロシアのウクライナ侵攻に対する国連安全保障理事会におけるロシア批判とロシア軍の即時撤退を求める...
日本に「国民即応隊」を創設せよ ジェイソン・モーガン(麗澤大学准教授)
ここ数週間、世界はウクライナで驚くべき出来事を目撃してきた。資金、装備、兵員数のどれをとっても優勢なロシア正規軍の侵攻に対し、ウクライナ国民が武器を取って立ち向かったのだ。ウクライナ政府軍の足りないところを一般国民が補っている、女性も祖国防衛のために多数が志願した。 日本がここからくみ取るべき教訓は明白である。日本政府は、外国軍の本格的侵攻その他の緊急事態に際して祖国を守るため、志のある国民...
「核」の問題意識欠如した自民党 有元隆志(国基研企画委員兼産経新聞月刊「正論」発行人)
自民党は核兵器についての問題意識が欠如している。16日の安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相)で、「核共有(ニュークリア・シェアリング)」をはじめ核抑止に関して勉強会を開いたが、一回だけで終了し継続する考えもないという。 見て見ぬ振りできぬ時代 勉強会は高市早苗政調会長が核問題に関する党内議論を実施するよう求めたことを受けて開かれた。高市氏は18日夜、国家基本問題研究所の櫻井よしこ...
ウクライナ支える米インテリジェンス 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
北大西洋条約機構(NATO)の加盟国ではないウクライナに物理的な戦力は提供できないが、支援はしたい米国は、インテリジェンスの提供を始め、ウクライナはそれに基づいて善戦していると考えられる。そう判断する理由の一つは、20名しかいないロシア軍の将官中、既に5名がウクライナ軍の狙撃兵によって射殺されていることである。これは、おそらく米国が収集したロシア軍の通信傍受と暗号解読による分析情報(Signal ...
「核共有」を導く佐藤栄作流の外交術 湯浅博(国基研企画委員兼主任研究員)
安倍晋三元首相が米国の核兵器を自国内に配備して共同運用する「核の共有」論の必要性を提起して以来、核抑止力の議論が活発になってきた。もっとも、同盟国に依存する核論議には、肝心の米国がそれを同意するだけの戦略的意義と相互利益がなければ話にならない。かつて、佐藤栄作政権が日本に対する米国の「核の傘」を獲得した外交術に、重要なヒントが隠されている。 日本の政治家は、国民の中に核アレルギーがあると信じ...
急がれる原発再稼働と規制委の改革 奈良林直(東京工業大学特任教授)
天然ガスや石油の価格はロシアのウクライナ侵攻でさらに高騰を続けている。欧米諸国や我が国もロシアに対する経済制裁を強化しているが、プーチン大統領は、欧州への天然ガス供給バルブを開閉する権利は、ロシアにあると明言している。欧州は天然ガスの約4割をロシアに依存しており、ロシアにより天然ガスの供給が絶たれると国の経済や産業活動が破綻する。我が国も天然ガスの約10%がロシア産で、日本の経済制裁に対してロシア...
邦銀は対露制裁破りに手を貸すな 田村秀男(国基研企画委員 産経新聞特別記者)
ウクライナ侵略のロシアに対する米欧日の大規模な金融制裁がロシア経済に衝撃を与えている中で、ロシア企業による中国の大手国有商業銀行のモスクワ支店への口座開設申し込みが殺到している。中国の銀行は中国人民銀行が仕切る国際銀行間決済ネット「CIPS」を抜け穴として提供できる。CIPSには日本のメガバンクも主要メンバーとして加盟している。対露制裁破りに加担する恐れはないのか。 人民元決済に期待するロシ...
降伏は奴隷化を意味する 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
ロシアのウクライナ侵略に関するテレビ番組で気になるのが、コメンテーターの言動やゲストへの「死者をこれ以上増やさないためにゼレンスキー大統領は降伏すべきではないか」とする質問である。かつて福田赳夫元総理は「人命は地球よりも重い」と言ってテロリストを世に放った。いわゆる「平和教育の賜物」であろうが、戦争における降伏は、特に相手が全体主義国家の場合、奴隷化あるいは敵の尖兵として使われることを意味する。そ...
ウクライナ侵攻で見直し迫られる脱炭素政策 奈良林直(東京工業大学特任教授)
ロシアのウクライナ侵攻に伴い、脱炭素を主眼とする欧州のエネルギー政策が大幅な見直しを迫られている。欧州連合(EU)の脱炭素政策を主導してきたドイツは、メルケル前首相により脱原発政策と太陽光や風力発電による再生可能エネルギー優先の政策を十年以上にわたり強力に推進してきた。その一方、発電出力が低下した際にその谷を埋めるための火力発電の燃料を自前の石炭からロシアから供給される天然ガスに挿げ替えることで、...
中露枢軸の「力は正義」を阻止せよ 湯浅博(国基研企画委員兼主任研究員)
ウクライナを侵略するロシアの指導者が、「核の恫喝」を口にしたことにより、世界は「手負いの熊」がいかに危険であるかを理解した。キエフ陥落という悪夢の中で、先進7カ国(G7)はロシアとの対決で結束し、北大西洋条約機構(NATO)は本来のロシア封じ込め戦略へ引き戻された。だが、中国だけは戦略的利益のために、米国に対する中露連携の「新たな枢軸」を手放さない。 侵攻を事前に知っていた中国 中国政...