公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2017.11.09 (木) 印刷する

髙池氏の「加憲は誤り」には誤解がある 西修(駒澤大学名誉教授)

 10月26日付の『ろんだん』に掲載された髙池勝彦氏の「『加憲』は改憲方法として、やはり誤りだ」について、改めて意見を述べます。
 髙池氏とは、これまでも本欄で2度にわたり議論を重ねましたが(拙稿5月22日付、6月12日付、髙池稿6月7日付、6月15日付)、氏の誤りと誤解を指摘しておきたいと思います。
 第1に、氏は第9条に関する政府解釈について、「軍隊とは近代戦争を有効に遂行する能力のある組織であり、自衛隊の有する『軍備』はそのようなものではないから合憲だというものです」と説明しています。しかし、政府は、このような解釈をこれまでとってきていません。

 ●修正された「戦力」の解釈
 氏の理解は、おそらく昭和27(1952)年11月25日の次の政府統一見解を指すものと思われます。「『戦力』とは、近代戦争遂行に役立つ程度の装備、編成を具えるものをいう。保安隊および警備隊は、客観的に見て、それらの装備編成は決して近代戦を有効に遂行し得る程度のものではないから、憲法の『戦力』には該当しない」。ここで政府は、「戦力」の定義を下しているのであって、「軍隊」なる用語を使っていません。
 これは小さい言葉の上のミスといえますが、氏の基本的な誤りは、政府が昭和29年12月22日に従来の「戦力」解釈を捨て去ったにもかかわらず、そのことにまったく言及していないことです。政府は同日、「自衛目的のため必要相当な範囲の実力部隊を設けることは、なんら憲法に違反するものではない」(当時の大村清一防衛庁長官)と述べ、今日では、以下が政府の統一的な解釈になっています。
 「憲法9条2項は、『戦力の保持』を禁止しているが、自衛権の行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することまでも禁止する趣旨のものではなく、この限度を超える実力を保持することを禁止するものである。
 我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織としての自衛隊は、憲法に違反するものではない。」<内閣法制局『憲法関係答弁例集(第9条・憲法解釈関係)』(内外出版、平成29年2月発行)1頁>
 キーワードは、「必要最小限度の実力」です。「必要最小限度の実力」を超えるかどうかが、憲法で禁止する「戦力」の基準であって、「近代戦争の遂行能力」を「戦力」の基準にしたのは、保安隊および警備隊のときまでで、65年も前のことです。

 ●ファクトに基づいて議論を
 第2に、私は自衛戦力の保持を合憲と解釈し、「国の交戦権」と「自衛権の行使」は別次元であって、「自衛戦力による自衛権の行使」は合憲という立場をとっています。しかし、だからといって、「憲法改正は不要だ」(髙池論稿の指摘)とはまったく考えていません。
 なぜならば、平和条項と安全保障条項は不可分の関係にあり、安全保障条項は憲法上、必須だからです。私が自衛戦力合憲説を唱えつつ、その改正を主張してきたことは、多くの人がご存じのはずです。自衛戦力合憲=改憲不要という図式は必ずしも成り立ちません。図式は4つになります。自衛隊合憲→改憲不要、自衛隊合憲→改憲必要、自衛隊違憲→改憲不要、自衛隊違憲→改憲必要。
 私たちが憲法を論ずる場合は、まずファクトに基づかなければなりません。ファクトに基づかない憲法解釈(政府解釈にしろ、学説にしろ)が展開されてきたことに最大の問題点があるのです。そのことについては、本サイトの『最新情報』コーナーに資料提供を含め、別稿で「今後の9条改正論議で確認しておきたいこと」として掲載しているので、参考にしていただければと思います。