公益財団法人 国家基本問題研究所
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第八回(令和3年度) – 日本研究賞 授賞式

国基研 日本研究賞

第八回 国基研 日本研究賞 授賞式

令和3年7月13日 東京・内幸町イイノホール

「国基研 日本研究賞」は、このたび第八回目の授賞式を迎えることができました。「日本研究賞」にトシ・ヨシハラ氏、「日本研究特別賞」には李宇衍氏、メディアウォッチ(代表理事、黄意元氏)が選ばれました。しかし、新型コロナの四回目の緊急事態宣言下にあるため、授賞式並びに記念講演会は、残念ながらオンライン開催となり、やむなく関係者のみの出席となりました。日頃変わらぬご支援、ご後援をいただいている会員のみなさまに心より御礼申し上げます。

国基研 日本研究賞を受賞した『中国海軍vs.海上自衛隊』(右)
同 特別賞の対象となった『でっちあげの徴用工問題』韓国語翻訳本(左)

第八回「国基研 日本研究賞」授賞式は、第一部を東京とアメリカ東海岸のヴァージニア、第二部では東京と韓国のソウルをそれぞれオンラインで結び、黒澤聖二国基研事務局長の総合司会で行われた。

トシ・ヨシハラ氏への「日本研究賞」表彰にあたって、選考委員長でもある櫻井よしこ国基研理事長がお祝いの言葉を述べた。

「日本研究賞は今年で八回目です。我が国の事情を良きにつけ、悪しきにつけしっかり見ていただいて、日本に関係する優れた著作に賞を与えるというものであります。この賞によって少しでも海外における日本理解が進むことを私たちは切望してまいりました。

そして今日の主役はドクター・トシ・ヨシハラでいらっしゃいます。トシと呼ばせていただきたいと思いますけれども、トシさんのこれまでの研究、そして著作に私はこの賞の決まる前から大変な関心を持ち、多くの尊敬の念を抱いてまいりました。

ご著作である『太平洋の赤い星』以来、トシは本当に中国軍の動向に類例のない非常に詳しい分析をなさってきました。それは私たち日本人にとって本当によい勉強材料となりました。受賞作の『中国海軍 vs. 海上自衛隊』を『太平洋の赤い星』の延長線上でとらえてみますと、事態がさらに厳しくなっているということを具体例を通して見せてくれました。

日本だけでなく世界情勢はいま劇的に変わっております。その中で私たちは、第二次世界大戦に敗れて以降のこの七十六年間の日本国の在り方を根本から変えていかなければならない時期にきています。日本国内の議論はなかなかそこまで進まないのが残念です。けれども、トシの作品によって、より多くの人々が目覚め、我が国の再生につなげることができると信じています。そのことは日本国の為のみならず、アメリカの国益にも適います。そしてアジア全体の幸せを呼んでくるものと思います。本当に素晴らしい作品を書いてくださいました。

国基研の日本研究賞を授与することをとても誇りに思っています。ありがとうございます。

そして最後にもう一つだけ加えます。この本の日本語への素晴らしい翻訳、そして監修をなさって下さった武居智久さん(元海上幕僚長)にも心から感謝したいと思います。」

米戦略予算評価センター(CSBA)上席研究員であるトシ・ヨシハラ氏は、櫻井理事長の讃辞に対して、

トシ・ヨシハラ CSBA上席研究員

「国基研日本研究賞を受賞することができまして光栄に思うとともに、謙虚な気持ちになります。

まずはこの研究に至ったその背景について簡単に触れさせていただきます。いみじくも櫻井理事長からご紹介がありましたとおり、私が『太平洋の赤い星』以来ずっと一途に続けてまいりました研究の線上に乗るものとなっております。

私はもう十年以上前に、日中の軍事バランスについての研究を始めました。私は警戒の念をもって、この軍事バランスがいかに中国に有利な方向に移行しつつあるのかを見守ってきました。とりわけ、近年においてはそのペースが加速してきています。

私が一番懸念を持ちましたのは、中国海軍のいくつかの主要な要素、重要な部門において、また一部では、日本の海自の持つ力に追いついてきている、あるいはそれを凌駕しつつあるという事実でありました。私はこの地域の、ローカルの軍事バランスのシフトに注目を集めたいということで、この研究を本に表そうと考えたわけであります。この軍事バランスについて十分な精査がされていない、とりわけアメリカではまったく注目を浴びてないところが心配でした。」

と述べた。オンラインの画面を通してではあったが、櫻井理事長からトシ・ヨシハラ氏に、正賞として賞金一万ドル、副賞として東京・神田「金ペン堂」の金箔蒔絵特注万年筆が、「今後もますますの傑作をものしてください」との言葉とともに贈られた。(こののち、ヨシハラ氏の記念講演が行われたが、『国基研だより』次号で詳細をお伝えする予定です。)

第二部は、ソウルの李宇衍氏とメディアウォッチ代表理事の黄意元氏をオンラインで結んで「日本研究特別賞」の表彰が行われた。

櫻井国基研理事長が画面の向こうのお二人に呼びかけた。

「李宇衍先生そして黄意元さんこの度は日本研究特別賞の受賞おめでとうございます。日本と韓国は本当に長い歴史を共有し、近い国であるにもかかわらず、韓国の現政権の政治的左傾化の結果として大変険悪な状況にあります。

韓国の人々の歴史に関する知識は、私たち日本から見て非常に偏ったものがあります。どこの国も自国の歴史については独特の思いがありますけれども、韓国の場合は、政治的に歴史観が歪められてきた歴史があります。不条理な反日論調が跋扈しています。

そのような中でこの度、李宇衍先生が西岡力さんの『でっちあげの徴用工問題』を韓国語に翻訳されました。そしてそれをメディアウォッチの黄意元さんが出版なさいました。これはどれほどの勇気のいることだったかと感動いたしました。この翻訳本が韓国であまり売れていないとのことですが、やがてこの真実の声は静かに韓国の中で広がっていって、日本に対する正しい、事実に基づいた正しい理解が進んでくるものと私は信じています。

どんなに取り繕っても、事実というものはもっとも力強い発信力を持っています。事実こそいちばんものをいう能弁なものだと思います。その勇気ある翻訳と出版に心からの敬意を表して、皆様方に日本研究特別賞を差し上げることは私たちの喜びであり、名誉とするところです。今日は本当におめでとうございます。」

左:黄意元 メディアウォッチ代表理事 右:李宇衍 博士

まず、李宇衍氏が受賞の言葉を述べた。

「貴研究所のみなさんと、こういう形ではありますけれども、お会いできて大変嬉しい。また、櫻井よしこ理事長と再びお会いできて嬉しく思います。お変わりなくお美しいですね。今、通訳をしてくださっている西岡力先生と会ったのはたしか三年前です。このように関係が発展するとは、その時は予想もできませんでした。同じように私たちの運動も今後発展するでしょう。韓国でも日本でも、自由右派の運動はありました。今や我々がお互いにお互いを理解して、そして進むべき時です。自由の価値観のために、また反中のための宣戦布告になると思います。再び櫻井理事長と筆者である西岡先生と、それから売れないであることを分かっていながら出版してくれた黄意元代表に感謝します。このような賞を頂いて再び心の底から感謝申し上げます。」

続いて、翻訳本の版元であるメディアウォッチの黄意元氏が刊行にいたった決意について説明した。

「中国の民主化運動家の劉暁波先生がいつかこのように語っていました。『西欧化を選択するということは人間になるということを選択するということだ』。私は今、韓国社会で親日を選択するということも劉暁波先生がおっしゃったことと似てる面があると思います。

ただし、西岡力教授がよくお話ししているように、私は厳格に言えば親日派ではない、アンチ反日派です。

私が心配しなければならないのは日本ではなくて、最近特にすべての事を民族的、種族的感情で外交安保問題を扱おうとしている私の祖国大韓民国です。反日をしてもいいです。反中をしてもいいです。反米をしてもいいです。しかし、人類普遍の価値である自由、人権、法治の価値を絶対に無視してはならず、特に嘘をついてはいけません。

問題は韓国の言論界と出版界で、日本と関連して数十年間このような原則がなかったことです。私は一つの国の知識人たちが、こうして隣の国に対して犯罪的な議論を作ってる国に未来はないという考えを持って、このような風土に抵抗をしてきました。正直、私はそんな抵抗活動をしながら、特に日本のためだ、日本人のためだという考えを頭の中で持ったことがありません。

それにもかかわらず、このように日本の名誉と関連した権威ある賞を頂いていいものか、少し恥ずかしい気持ちです。

ただ、人類の普遍の価値を志向し、真実を尊重するならば、自国を愛し、自国の国民を愛することは、すべての国と全人類を愛することと同じになるのではないかと考えています。」

櫻井理事長から李氏と黄氏に「日本研究特別賞」の賞金あわせて一万ドルと、それぞれに「金ペン堂」の金箔蒔絵特注万年筆が贈られた。

第八回「国基研 日本研究賞」 祝辞

第八回「国基研 日本研究賞」授賞式が開催されますことを、心からお慶び申し上げます。

成功も失敗も含め、日本のありのままを研究してもらい、「日本の真の友人」を国際社会に増やしていきたい。こうした思いによって創設された「日本研究賞」が、八年の間、一歩一歩着実に実績を積み重ねてこられたことに敬意を表します。

今、我が国の空と海は世界の中でも最も緊迫しており、過去に例のない状態にあります。このような中で、トシ・ヨシハラ博士が、「東アジアの力の移行」という時宜を得た新鮮な切り口、精緻な研究に裏打ちされた深い洞察の下で大作を上梓し、この日本研究賞を受賞されたのは、偶然ではないでしょう。

これまで注目されなかった事実に新たに光を当てることで浮かび上がる東アジアの現状を丁寧に分析した本作は、我が国のみならず世界の耳目を集めると確信いたします。現下の状況が、できるだけ多くの方々に伝わることを願っています。

李宇衍博士、黄意元さんにおかれては、困難な状況の中にあっても果敢に翻訳・出版に取り組まれ、自らの信念に従い、発信し続けていくことの大切さを示されました。

トシ・ヨシハラ博士、李宇衍博士、黄意元さん。この度の栄えある受賞、本当におめでとうございます。今後も、皆さんならではの優れた視点で日本研究をリードし、世界へと発信していくことを期待します。

最後となりましたが、国家基本問題研究所の皆さんの日ごろからの活動に、改めて敬意を表します。「国基研 日本研究賞」が、世界の日本研究者たちの「希望の光」として一層発展されますことを祈念して、私のお祝いのメッセージとさせていただきます。

令和三年七月十三日
自由民主党総裁 菅 義偉

トシ・ヨシハラ様におかれましては、「日本研究賞」の受賞、李宇衍様、メディアウォッチ(黄意元様)におかれましては、「日本研究特別賞」の受賞、誠におめでとうございます。

トシ・ヨシハラ様は、これまでの中国海洋戦略研究の御経験を生かし、中国海軍と海上自衛隊の軍事力を冷静に分析した著作によって、日本の安全保障の現状を明らかにされました。

また、李宇衍様、メディアウォッチ(黄意元様)は、『でっちあげの徴用工問題』を韓国語に翻訳し、韓国国内で正しい歴史認識の普及に努められたと伺っております。

世界には日本に対して様々な認識を持つ方がいらっしゃる中で、日本を冷静に分析し、正確な情報を発信することにより、国際社会における日本理解の増進に貢献されたことに心から敬意を表します。

国家基本問題研究所のますますの御発展と、受賞された皆様の御健勝、御活躍を祈念し、お祝いの言葉といたします。

令和三年七月十三日
文部科学大臣 衆議院議員 萩生田光一

下村博文自民党政調会長はじめ、多くの方々から祝電を頂戴いたしました。

リモートによる授賞式を終えるにあたって、選考委員会副委員長の田久保忠衛国基研副理事長が今回の「国基研 日本研究賞」「日本研究特別賞」への感想を述べた。

「選考にあたりました一人として若干コメントさせていただきたいと思います。

ヨシハラ博士の著作は選考委員の全会一致で決まりました。日本の海上自衛隊と中国の海軍のバランスの比較です。急激に逆転されているこのギャップに、私は愕然といたしました。

この研究の切り口は、実にフレッシュでありまして、私は今から半世紀ぐらい前に、当研究所にも関係のあるジェームズ・アワーさんが書いた一文を思い出しています。アワーさんは、帝国海軍の関係者、それもおびただしい数の関係者にインタビューをいたしまして、『よみがえる日本海軍』という素晴らしい論文にまとめました。これは、私が昔在籍しておりました時事通信社から出版されまして、アワーさんの博士論文になりました。

中国の海軍力の強化、特に軍事力の強化、これは物凄いものです。これまた半世紀前ですけれども、毎日新聞のパリにおられたおふたり、林三郎さん、それに三好修さんという二人の新聞記者を思い出しています。おふたりはフランスの核実験の後、次は中国が核実験をやるだろうということをしきりに言っておりました。事実中国は核実験をやったのですが、この軍事力の前に、一番恐れているのは日本の国民が無力感に陥ることだと断言しておりまして、私も当時同感いたしたわけでございます。

それから李宇衍さん、黄意元さん、おめでとうございました。西岡力さんの著書『でっちあげの徴用工問題』は学問的にもジャーナリスティックにも見事な作品だと思います。

この名著が李宇衍さんと黄意元さんのお力で韓国で出版されたということになると、この意義というのはすこぶる大きいのではないか。

最近のソウルでは、いかに言論が不自由な雰囲気になっているかということを西岡さんその他の方から承っております。そのようななかで、西岡さんの著書を翻訳し、しかもこれを出版しようと、こういう決断をされる勇気を、私はどう表現していいかわかりませんが、「やってやろう」という一種の強い気概というものが、おふたりにはあるなというふうにつくづく思いました。本当におめでとうございます。」