公益財団法人 国家基本問題研究所
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第四回(平成29年度) – 日本研究賞 受賞者

寺田真理記念 日本研究賞
産経新聞PDF

2017年6月14日付産経新聞に、
第4回「国基研 日本研究賞」の
記事が掲載されました。
内容はPDFにてご覧いただけます。

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日本研究賞
ジューン・トーフル・ドレイヤー(マイアミ大学教授)

「Middle Kingdom and Empire of the Rising Sun: Sino-Japanese Relations, Past and Present」(Oxford University Press, 2016)
(中華帝国と旭日帝国:日中関係の過去と現在、邦訳なし)

受賞のことば

ジューン・トーフル・ドレイヤー

 日本研究賞を受賞したことが、どんなに名誉なことか、言葉では言い表せません。受賞の連絡を受けた時、手違いで、事務局から「大変申し訳ありません。別人と間違ってしまいました」との取消が来るのではとの不安がよぎりました。が、数日後、改めて確認の通知を受けて、本当であるとの確信を持てました。

 この著書を書くきっかけですが、人生よくあるように、全くの偶然なのです。ご存知かと思いますが、私のそれまでの研究対象は中国でした。1969年、京都で一年間の研究生活を送れるという機会を得たのです。京大の図書館を使って私の論文テーマの中国の少数民族問題を研究することを考えていました。当時、私の夫は、明王朝の建国というテーマに取り組んでいました。

 ただ、不幸にも学術研究はあまりはかどりませんでした。というのは、京大も、他の多くの大学と同様、全学連によって封鎖されていました。これが最初の偶然の出来事です。帝人という会社の仕事が見つかり、一週間の内三日間は、午後から京阪電車で大阪の南本町に通勤しました。朝は京大に築かれたバリケードを乗り越え、学生たちに声をかけたりしていました。彼らは怖そうに見えましたが、実際は友達のように優しい若者でした。この時期です、私が日本に関心を持ち、日本史の本を読み始めたのです。多くは日本国内の歴史が主要なテーマでしたが、対外関係について、今日、中国と言われる国と日本の間に緊張関係があるのを知って驚きました。その緊張の主な理由は、中国は天下のすべてを采配する役割を負っており、そのほかは文明化されておらず、隷属的地位にあるとする世界観を日本が受け入れなかったためです。

 十数年後、私は教授になりましたが、この二国間の緊張関係が繰り返されていることに気づきました。そして、中国側から見た歴史は国際的によく知られ、そのうえ時には歪曲された形で広がっているのに比べ、日本の声が聞こえることはほとんどありませんでした。中国は核実験を行い、防衛予算を毎年二桁台で伸ばしているのに、防衛目的のためと主張してはばかりません。にもかかわらず、日本側のちっぽけな出来事、たとえば閣僚の靖国神社参拝や学校での君が代斉唱については、世界平和を脅かす、危険な軍国主義の復活だと騒ぎ立て抗議している。中国が一度も占有したことのない島々を日本が”盗んだ“――日本が占有していたことがあるにもかかわらず――と述べ、日本は歴史を”忘却する“と宣伝する。さらに、自らはほとんど戦ってもいない戦争に勝ったのは中国共産党のおかげだと主張する。外国メディアは日本側には触れず、これら中国の側面だけを報じてきた。

 或る日、私の部屋をノックするものがいた。オックスフォード大学出版の編集者だという。彼が言うには、「中国の政治システム」という私の作品を呼んだが、気に入ったので、次の本を書いてほしいという。

 当時、その著作に改定を加える以外に、新たな本を書くなど全く考えていなかった。中国情勢がどんどん変わるので、アップデートするだけでもフルタイムの仕事だったからだ。しかし、オックスフォード大学出版は非常に権威があり、そのオファーにノーというのは愚かに思えた。そこで、中国にも日本にも公平な本を書くことを決めた。私は「中華帝国と旭日帝国」は良いタイトルと考え、本の要約と各章ごとの概略を送った。その編集者は戸惑ってしまった。私は知らなかったのだが、彼は教科書の編集担当で、新たな教科書を考えていたのである。ただ、幸いにも彼はノーという代わりに――これがもう一つの偶然であるが――私の提案を学術書担当の別の編集者に回してくれた。その編集者は私の提案を気に入ってくれて、書き進めるように激励してくれた。

 もしそれがどれだけ長期にわたる仕事であるか分かっていたら、私は決して始めなかったであろう。私は多数の書籍やさらに多くの外交文書を読破し、数十年にわたる新聞資料を調べることになった。加えて、状況は時を追って変わり、決して終わることがないのでは、と絶望的になる時さえあった。結局、13年もかかった。しかし、実のところ、私は、調査研究を楽しみながら、日本について多くのことを学んだのである。私としては、公平に書くことに成功したと思いたい。作品を読み、この大きな栄誉を授与してくれたことをどれほど感謝しているか、言い尽くせません。

略歴

 フロリダ州コーラルゲイブルにあるマイアミ大学の政治学教授で、中国、米防衛政策、国際関係などについて講義を行っている。アメリカ国家安全保障局(NSA)の分析官への講義も担当している。ウェルズリー大学で学士、ハーバード大学で修士、博士号を取得した。独、仏語が堪能のほか、中国語、日本語は中級以上のレベルで、中国語で新聞を読み、研究目的のための日本語読解力に優れている。
 米議会図書館の元極東担当上席研究官で、海軍作戦部長のアジア政策顧問や、連邦議会が設立している米中経済安全保障調査委員会の委員も務めている。ドレイヤー教授はまた外交政策研究所(FPRI)の上席研究員であり、英国際戦略研究所(IISS)のメンバーでもある。
 中国や日本に住んで研究活動を行い、台湾訪問は数知れない。また、2016年の台湾総統選挙では国際監視団の一員として参加している。
 ドレイヤー女史の著作は幅広く、中国の軍事、アジア太平洋安全保障、中台関係、日中関係、中国の少数民族、中国の外交政策などに及んでいる。今回の受賞作品となった「中華帝国と旭日帝国」は最新作。「中国の政治システム―近代化と伝統」は第10版が来年発行の予定である。「中国の4000万人―少数民族と中華人民共和国への統合」(ハーバード大学出版、1976年)も力作である。
 女史は今年、マイアミ大学から顕著な研究活動を行った教授として優秀賞を授与されている。 夫の故エドワード・ドレイヤー博士も中国史の専門家で、同じマイアミ大学の教授を務めた。二人の間には、一男一女がいる。


日本研究特別賞
ヘンリー・スコット・ストークス(元米ニューヨークタイムズ紙東京支局長)

「Fallacies in the Allied Nations' Historical Perception as Observed by a British Journalist」(Hamilton Books, 2017)
(英国人ジャーナリストが見た連合国の歴史観の虚妄)


受賞のことば

ヘンリー・スコット・ストークス

 日本で私を支えて下さった全ての方に、感謝の意を表したく思います。私が日本研究賞特別賞を受賞できたのは、ひとえに、この50余年の間に私が会い、言葉を交わした全ての人々の賜物です。 私は前回東京オリンピックが開催された1964年に、日本にやってきました。2020年には、次のオリンピックが開催されます。半世紀以上を東京で過ごし、まだ活躍している唯一の外国人ジャーナリストでしょう。

 私が幸運だったのは、歴代首相から過激派の若者、極左から極右まで、あらゆる日本人に会えたことです。人々に会って取材をすることは、実に楽しかった。

 イギリスに帰ろうと思ったこともありました。10回もです!それでも、結局は日本にとどまることにしました。どうしてでしょうか。答えは単純です。日本が好きだったからです。日本の自然や文化が好きなのです。日本人も大好きです。日本人のマナーや思いやり、美の感性は素晴らしいものです。日本女性と結婚した男は誰でも、その選択は間違っていなかったと思うものです。私の家内のあき子は、日本人です。息子のハリーは日本生まれで、いま日本でテレビの人気タレントになっています。

 私がこの国にとどまった選択は、正しかった。特に、この日本研究賞特別賞を受賞したと知ったことで、絶対的な確信に至りました。半世紀の努力が、ついに実ったのです!

 私の本、『英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄』は、2013年12月に、日本の祥伝社から最初に出版されました。5か月で10万部以上も売れたのです。欧米人が東京裁判や南京事件、慰安婦問題などについて、右派の主張を支持するような本を始めて出したので、ベストセラーとなったのでしょう。

 私は、この本は日本人への重要なメッセージを、数多く含んでいると思っています。安倍首相が憲法改正の目標を2020年と定めたのですから、英語の読める全ての人が、絶好のタイミングでこの本を手にすることができるようになりました。

 三島由紀夫は、憲法改正を訴えて、市ヶ谷で自決しました。しかし、未だに憲法改正は実現していません。三島の試みは失敗した。しかし、三島が命を断ったことで、この問題は、今でも語られている。三島はその魂を生かし続けるために、死を選んだのだ。私は三島が訴えたことを、理解できる。自衛隊を否定する憲法の改正、自衛隊がアメリカの傭兵のような情けない地位にあることを、改めること、そして現人神としての天皇という存在を守ることだった。私は三島の意図を理解することができる。

 これまで日本人が日本の立場から、これらに抗議し糺していく動きはほとんど見られなかった。実に残念なことだ。いま国際社会で「南京大虐殺はなかった」と言えば、もうその人は相手にされない。ナチスのガス室を否定する人と同列に扱われることになる。残念ながら、これは厳粛な事実だ。だから慎重であれねばならない。だが、日本が日本の立場で、世界に向けて訴え続けていかなければ、歴史的事実として確定してしまう。

略歴

 1938年英国生まれ。1961年オックスフォード大学修士課程修了後、フィナンシャル・タイムズ入社。1964年来日、同年『フィナンシャル・タイムズ』東京支局長、1967年『ザ・タイムズ』東京支局長、1978年『ニューヨーク・タイムズ』東京支局長を歴任。三島由紀夫と最も親しかった外国人ジャーナリストとして知られる。

著書『三島由紀夫生と死』(清流出版)、『なぜアメリカは対日戦争を仕掛けたのか』『英国人記者が見た世界に比類なき日本文化』(加瀬英明氏との共著/祥伝社新書)、『英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄』(祥伝社新書)、『外国特派員協会重鎮が反日中韓の詐欺を暴いた』(悟空出版)、『英国人ジャーナリストが見た現代日本史の真実』(アイバス出版)、『目覚めよ! 日本』(植田剛彦氏との共著/日新報道)、『戦争犯罪国はアメリカだった! 』『大東亜戦争は日本が勝った』(ハート出版)、『日本が果たした人類史に輝く大革命』(自由社)などがある。