第二回「寺田真理記念日本研究賞」講演会
平成27年7月8日
寺田真理記念 日本研究賞
大手町 日経ホール
櫻井よしこ理事長 - あいさつ
「寺田真理記念 日本研究賞」は今年が二回目です。生まれたばかりの研究賞ですが、私たちはこの賞に、日本の未来の可能性を託すつもりでつくりました。国際社会の中で日本は今、情報戦に直面させられています。その戦いは容易なものではありません。私たちは、日本人が本来もっている「他国を信じる、他の人を信じる」という考え方に立ち、「説明しなくてもわかってもらえるはずだ」、「沈黙は金である」という文化の中で過ごしてきました。しかし、国際社会ではそうした日本的な美徳はとうてい通じないということを痛感させられる年月が続いてきました。
そうした状況の中で、私たちは言論人として、また、知的集団として、この事態にどう対峙すればよいのかを考えました。一つ一つの事柄に対し、それぞれ抗弁していくのも一つの手でしょう。しかし、日本という国をありのまま見ていただくという方法もあるのではないか。良いことも、悪いことも、すべて含めて、そのまま見ていただくことによって日本への理解を深めていただく。その理解に基づく批判であるなら、たとえ厳しいものであっても、建設的に違いないと思いました。
また、「知るは愛なり」というキリストの言葉があります。日本を知ることによって日本を好きになってくださる方々が増えれば、望外の喜びです。そのような一つのチャンスになってほしいということで、日本研究賞を設けました。
日本研究賞を可能にしてくださった方が寺田真理さんです。私財を私どもにお寄せくださってこの賞をつくりました。そのほかに、長田延満さん、真鍋茂さん、中村さち江さん、清澤謙修さんといった方々が多額のご寄付をくださり、日本研究賞を毎年開催することが可能になっています。ここで、心からお礼を申し上げたいと思います。
今年の賞は二人の方に与えられることになりました。お一人は日本研究奨励賞のデイヴィッド・ハンロンさん、ハワイ大学マノア校教授です。ミクロネシアの初代大統領トシヲ・ナカヤマさんの一生を書いた方です。
そして、今年の日本研究賞がエドワード・マークス愛媛大学准教授です。
イサム・ノグチは日本で有名です。優れた彫刻家です。このイサム・ノグチと優れたバレリーナ、芸術家である妹のアイレスという二人のお子さんを育てた母親がレオニーです。マークスさんはその一生を書きました。ノグチという名字からわかりますように、彼女が結婚した相手は日本人です。
レオニーさんは、日本という異文化の国に来て、野口米次郎さんと結婚して、別れています。別れたあと、一人で子どもを育て、二人の子どもを世界で最高レベルの芸術家に育てあげたのです。そして、彼女自身が本当に強い思いで自分の人生を全うしています。まさに、日本とアメリカという二つの文化の中で、すばらしいアメリカンレイディとしての生き方を貫いた女性です。
私たちは、イサム・ノグチのことはよく知っていますが、お母さまのレオニー・ギルモアさんのことはそれほど知りませんでした。そのことについて、本当にすばらしい大部の本を書かれたエドワード・マークスさんが今年の日本研究賞の受賞者です。
そのマークスさんに記念講演をお願いします。
日本研究賞
エドワード・マークス
愛媛大学・法文学部人文学科英米言語文化論准教授
「レオニー・ギルモア:イサム・ノグチの母の生涯」(彩流社)
世間ではあまり知られてなかった私の作品を選んでくださった国家基本問題研究所、及び寺田真理氏にまず、お礼を申し上げます。
私が、彫刻家イサム・ノグチの母、レオニー・ギルモアの伝記を書いたことを知っている人はいるかもしれません。また、レオニー・ギルモアの伴侶として数年間を過ごしたイサム・ノグチの父親、詩人の野口米次郎の伝記を執筆中だということもご存じかもしれません。
ドウス昌代が書いた『イサム・ノグチ 宿命の越境者』のほか、二〇一〇年に映画化された『レオニー』をご存じの方がいるかと思います。
日本では、野口米次郎として知られているヨネ・ノグチですが、私は、ヨネとレオニーに関する二冊の本にとりかかって、およそ二十年経っています。そして、レオニー・ギルモアについて、ようやく一冊を書き上げることができて、とてもうれしく思っているところです。ヨネ・ノグチの本もそろそろ完成したいと思っていますが、まだまだ、道半ばです。
実は、先週、ヨネ・ノグチ学会の二回目の会合を開きました。そこに九名も参加があったと喜んでいるほどで、彼を研究している人の数も足りません。
今日は、この二冊の本について話したいと思っています。というのは、二冊で一つのプロジェクトを構成しているからです。
これまで、人は、私のことをちょっと変わった「ヨネ・ノグチ」オタクだと見ていましたが、数週間前、受賞の知らせが入ったあとは、名を成した伝記作家らしいということに変わってしまいました。(笑)
これからする話は、私がなぜヨネ・ノグチに魅了され、のめり込んでいったかという内容ではありません。伝記作家として成功するにはどうしたらいいのか。その秘訣をまずお話したいと思います。... < 続きを読む >