月例研究会/令和5年2月28日/東京・内幸町イイノホール
日本人よ 雄々しく立ち上がれ
2月28日、定例の月例研究会を東京・内幸町のイイノホールで開催。「日本人よ 雄々しく立ち上がれ」をテーマに櫻井よしこ国基研理事長、ウクライナ出身の国際政治学者グレンコ・アンドリー氏、元陸上幕僚長の岩田清文氏、月刊正論発行人の有元隆志氏が登壇しました。抜粋をご紹介します。
グレンコ・アンドリー(Andrii Gurenko) 国際政治学者、日本研究者 |
櫻井 よしこ(さくらい よしこ) ハワイ大学卒業(アジア史専攻)。クリスチャン・サイエンス・モニター紙東京支局員、日本テレビのニュースキャスターなどを経て、フリージャーナリスト。平成19年(2007年)に国家基本問題研究所を設立し、理事長に就任。大宅壮一ノンフィクション賞、菊池寛賞、フジサンケイグループの正論大賞を受賞。「21世紀の日本と憲法」有識者懇談会(通称、民間憲法臨調)の代表を務めている。著書多数。最新刊はケント・ギルバート氏との共著 『わが国に迫る地政学的危機 憲法を今すぐ改正せよ』 (ビジネス社)。 |
岩田 清文(いわた きよふみ) 国基研評議員兼企画委員、元陸上幕僚長 |
有元 隆志(ありもと たかし) 国基研理事兼企画委員、月刊『正論』発行人 |
講演「予想される中国の恫喝」
戦争は習近平の意思次第
ウクライナ戦争から私たちが学ばなければいけない教訓のうち、最も大きなものは、どうやって戦争を抑止するかということです。戦争を起こさせないことが最も重要です。いま、そこにある危機、中台紛争をどう抑止するかをお話ししたいと思います。
二〇二二年十月十三日にアメリカの国家安全保障戦略が発表され、今後十年が中国とロシアを焦点として「決定的な十年」になると明言しました。しかし十年どころではない。「決定的な四年」という認識を持つべきです。二〇二七年が台湾有事の一つの焦点となっていますが、それは四年後です。まさに今そこにある危機として、台湾有事に対する緊張感が高まっています。
日本でも二二年十二月十六日に政府は国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画を閣議決定しました。我が国を守るための重要な戦略三文書です。この中で我が国は質量ともに防衛力の抜本的強化を決定したのですが、加えて重要なのは時間軸です。
十年かけてゆっくりやっていればいいというものではないのです。数年後、どうやって目の前の危機に対応していくのか。いざというときに真に我が国を守れるための準備を急ぎ、その結果として抑止する。これが求められています。
ではまず、本当に台湾有事はあるのか。いつ頃あるのかということですが、それを握っているのは中国の習近平国家主席です。彼の意思次第なのです。もともと彼の狙いは長期の独裁化です。中国の国家主席の任期は憲法上、二期十年であったのを、自ら撤廃し、終身できるようにしてしまいました。長期独裁化で毛沢東を超え、台湾を統一する。チャンスと見れば武力統一も辞さないとしています。
彼の意思について二〇二三年二月三日、米CIAのバーンズ長官は「諜報活動の結果、得られた情報として」という前振りをした上で「二〇二七年までに台湾侵攻を成功させるための準備を行うように軍に習近平主席が指示していることを把握している」と述べました。習近平主席の意思として、いつでも戦えるように準備せよとの指示を軍に既に出してしまっているということです。本来、民主主義国家であればトップが何を言おうが「ちょっと待ってくれ。殿、ご乱心を」といった諫言を、政府部内、あるいは議会が働いて止められますが、中国には彼を止める人はもういません。
二〇二二年十月の中国共産党第二十回党大会において中国共産党の最高意思決定組織、政治局常務委員七名の選出が行われましたが、全員が習近平派もしくは彼の息のかかった者となりました。習近平氏に対しては「イエス」と言う者しかいない。イエスマンの塊になった以上、本当に習近平氏がチャンスと見れば戦争に走ってしまう。こういう状況になっています。
台湾も米国も二五年
一方、台湾の国防部長(防衛大臣)は二年前から、二〇二五年までに中国軍は台湾に全面侵攻できる能力をつける可能性があるとして「二〇二五年」という数字を使っています。
この危機認識等に基づき、台湾は、軍事力の強化を図っています。例えば最近では、二〇二二年十二月二十七日、蔡英文総統は、外交・安全保障政策の諮問機関「国家安全会議」を開き、兵役義務の期間を四カ月から一年に延ばすとしました。さらに台湾は米軍の力を借りて、軍事対抗の準備を整えようとしています。つい先日の「ウォールストリート・ジャーナル」の報道(二三年二月二十四日)によれば、現在、台湾にいる米海兵隊の要員を増やすとされています。今の四倍以上となる百名から二百名の米海兵隊員を常駐させて台湾軍を鍛えると報道されました。台湾も今、非常に強い危機認識があるという状況です。
また、アメリカはいざというときに台湾を助ける立場ですが、今年一月二十七日に非常に衝撃的な指示が書かれた軍の内部文書が報道されました。その中には「二〇二五年に(中国と)戦う予感がする」と書かれています。これは一言で言うと空軍の兵士に対して「覚悟はいいか。いつでも戦える準備をしろ」という指示なのです。
この指示を出したのはミニハン米航空機動軍司令官です。米空軍の航空機動軍は、輸送機、それから空中給油機を約五百機持っていて、兵士が約五万人いますが、このトップです。台湾有事になると米軍の兵士や兵器・物資をグアム、ハワイ、米本土から台湾に空輸するのが彼の任務です。この大々的な輸送任務は非常に緻密、複雑なもので、輸送計画を完成するには、年単位の時間がかかります。
そのトップが「二〇二五年に(中国と)戦う予感がする」と部下たちに述べた。外向きではなく、自分の部下たちに「私の直感だけれども、二年後には戦う予感がする。私がすでに指示した内容について、お前たち、どこまでできているのか報告せよ」と述べているのです。指示書の中には、中国との戦いに備えた主要な取り組みをしっかりと計画してこい、隊員一人ひとりの緊急連絡先を更新するよう要求する、M1ライフル銃の使い方に関して地上戦に入ったときに七メートル先の頭を確実にぶち抜け、そこまで訓練しろというものがあります。まさにいざというときに戦える能力を準備して、一人ひとり覚悟を持てと言っているわけです。そして二月二十八日までに準備の進捗状況を報告せよとしています。
日本もそういった覚悟と準備をしなければいけない時代に入ってきたと思っています。
台湾の三段階防衛戦略
では、紛争が起きるとどういう状況になるか。中国がどういう侵攻をして、台湾がどう守り、アメリカがどう来るのか。そのとき日本はどうなるか。
中国が武力統一に踏み出したときの戦い方は、海を渡るという違いはありますが、ロシアがウクライナに侵攻したような形になるでしょう。当初、ミサイルを多数使って台湾にある政治・軍の中枢、すべてを潰すとともに、台湾を封鎖します。
二〇二二年八月四日、中国は台湾の周りに六カ所の訓練区域を設定し、そこにミサイルを撃ち込みました。有事には少なくともこの海域一帯が中国海軍により封鎖されるでしょう。そうなると南シナ海は一般商船が通れなくなり、台湾、日本、韓国に対する南からの航路は閉ざされます。この段階で日本の石油・LNG、食料輸入ルートは大きく東に迂回を余儀なくされ、LNGをはじめ多くの資源が枯渇していくことになります。
次に着上陸打撃です。台湾に上陸する適地は数カ所ありますが、そこにある台湾の防御組織をミサイルで攻撃します。徹底的に叩いたあと、昨年の二月二十四日、ロシアがウクライナに侵攻したように、地上軍が攻撃してきます。中国の場合は海峡を渡り着上陸攻撃してきます。
これに対して台湾はどう戦うのか。私は四年前に台湾を訪問し、当時の台湾軍のトップから台湾を守る熱い意思と作戦構想を直接、お聞きしました。
台湾の『国防白書』にも書かれていますが「三段階防衛戦略」です。
第一段階は「戦力防護」です。先に述べたように中国が当初、ミサイルの集中攻撃をしてくるときには、皆、準備をしたシェルターや地下施設に潜ってじっと耐えます。
第二段階は中国軍部隊が侵攻して上陸地域の周辺に来たときには立ち上がる。洞窟の中に隠していた戦闘機(ミラージュやF16)が飛び上がり、沿岸に配置した火力も使って、中国の着上陸船団を撃破する。これを「沿海決戦」と言います。船団を組んで上陸して来ようとしている人民解放軍の兵士たちを船の上で叩こうとするのが第二段階です。
第三段階は、それでも中国軍が上陸してきたら、持ち得るすべての戦力を使って海岸部で叩きのめすという「海岸殲滅」です。こういう戦い方を台湾軍はやろうとしています。
一方で、これだけでは守り切れないため、中国大陸の軍事基地に反撃しようとしています。この敵地まで届くミサイルを、アメリカが供与してくれないため、台湾はいま自国で射程千二百キロメートル以上の長射程ミサイルを開発しています。先ほどもお話があったように、ウクライナがアメリカに対して長射程ミサイルを供与してくれと要請しても応えてくれません。アメリカは中国に対する政治的な配慮もあり、「反撃力」を台湾に渡さないのです。日本はこれから反撃力を持ちますが、台湾も同じように、反撃力が必要と認識し、独自に開発しているところです。
第一列島線の防御網
ではアメリカはどう戦うのか。情勢が緊迫した段階(中国の攻撃が開始される前の段階)で、米海兵隊と米陸軍の部隊が日本の南西諸島から台湾、フィリピンに対して展開をしていくでしょう。少人数の部隊がそれぞれの島、いわゆる第一列島線に展開をして防御網をつくります。彼らはレーダー、ドローン、地対艦・空ミサイルなどを持っています。中国の、特に海軍、空軍がどういう形で侵攻してこようとしているのかを第一列島線上から情報収集して米軍司令部に報告をする。そして中国艦隊が近づいてきたときには持ち得る地対艦ミサイル等をもって第一列島線を防護する。そのときは、日本、台湾、フィリピンと連携するというのが当初の彼らの考えです。
米空軍は、第一列島線の複数の空港に戦闘機部隊を分散させて展開します。中国のミサイル攻撃で、一挙に撃滅されないように分散するわけです。おそらく日本の民間空港にも空軍機を置かせてくれというアメリカからの調整が今後あると思いますが、なるべく多くの空港に分散させて、反撃の準備をする。これが空軍としての最初の段階です。
この段階で大事なのは、日本がこれを受け入れなければならないということです。二三年一月十二日にワシントンで日米「2+2」(日米安全保障協議委員会)があり、防衛・外務の四閣僚によってこのことが話されました。日本政府はこれを受け入れて調整をするとしているため、今後は地元との調整が大事になってきます。
一方で、米空軍の長距離飛行できる戦略爆撃機はいったんハワイや米本土まで下がっています。米海軍も最新鋭のF35戦闘機が約五十搭載できる空母を中心とする機動打撃群を、中国のミサイルから遠ざけるためにいったん後方のハワイ近くまで下がります。
この状態で戦争が始まったとすると、先ほど述べたように米海兵隊・陸軍は、自衛隊、台湾軍、あるいはフィリピン軍と連携して中国の侵攻を阻止する。その間に米空軍や海軍の空母機動打撃群が台湾近くまで近づいてきて、台湾海峡を渡ってくる中国海軍の艦隊を撃破します。
「中国と手を組め」
では、日本はそのとき、どのような状況になるのか。
習近平主席もウクライナから学んでいます。彼はどうやったら勝てるかを考えているでしょう。米中が戦ったときに中国が勝つためには、アメリカの戦力を台湾に近づけなければいい。アメリカの戦力はグアムから三千キロ、ハワイから六千キロ、本土から一万キロ以上を越えてやって来ます。この距離の制約のためにアメリカは在日米軍基地を経由拠点として使うので、これを使わせなければよいと習氏は考えるでしょう。日本の世論をたきつけて、アメリカを支援するよりも中国と手を組め、アメリカを支援すれば大変なことになるぞと様々なフェイクニュース、サイバー攻撃や破壊工作を仕掛けてきます。
ウクライナでいまロシアが様々なことをやっているように、非軍事的な手段でありとあらゆる日本に対する嫌がらせをするでしょう。人質外交や経済恫喝、資産凍結、そして先ほど申し上げた日本の輸入ルートの妨害による経済的混乱を仕掛けてくると思います。また、サイバー攻撃により、JALやANAの予約システム、銀行のATMを止める。山手線やアマゾンの宅配、病院の電子カルテや市役所などのシステムも止めてくるでしょう。そこまで彼らはやると認識したうえで私たちは対応を考えるべきです。
加えて与那国島、宮古島、石垣島といった先島諸島は中国からすると地理的に非常に重要な島です。彼らにとっては先島諸島が存在することが軍事的に非常に怖い。ですからこの島々の無力化を図るでしょう。火力発電所や通信施設、そして海底ケーブルを破壊・切断してくるでしょう。
このようなあらゆる非軍事的攻撃によっても、日本がアメリカ支援を継続するのであれば、最後は、軍事攻撃となるでしょう。政治中枢や日米の軍事基地、そして発電所など様々な社会インフラに対して長射程ミサイルで攻撃をしてきます。日本全体を戦えない状態にしようとするでしょう。
いまロシアはウクライナに対して軍事基地のみならず、民間病院や火力発電所、原子力発電所までミサイル攻撃を行っています。間違いなく日本もそうなります。それでもわれわれは中国の脅しや攻撃にも屈することなく、ミサイル防衛力、反撃力を保有することにより、負けない態勢をつくらなくてはなりません。民主主義国の第一線として、専制主義国に対抗しなければならない。この戦いに負ければ、それは台湾も日本も自由と民主主義という体制を続けることが難しくなるということを認識すべきです。
台湾を救うことは国益
ここまで述べてきたように、日本は巻き込まれるのではなく、有事になるのです。そうさせないために何が必要か。重要なことは三つあります。
一つ目は、南西諸島を確実に守るとともに、日本列島全体を中国のミサイル攻撃はもちろん、サイバー攻撃や破壊活動など非軍事的な攻撃からも守る体制を構築することが不可欠です。
二つ目が国民保護、邦人保護、および避難民対応です。先島諸島に約十万人がおられます。また台湾に二万五千名、中国大陸に十一万名の邦人がいます。この方々をしっかり守らなければならない。その体制をとる。
同時に台湾から大量の避難民が流れてきます。ウクライナは四千万のうち二割の八百万人、婦女子を主体として国外に避難しています。台湾の人口は二千三百万人です。二割として四百六十万人が避難する計算です。その多くが船に乗って先島諸島に来るでしょう。先島諸島の島民が避難したあと、一部の人しかいない島に台湾の避難民が来る。これも大変な状況です。今後、考えていかなければいけません。
三つ目は米軍の支援を徹底することです。アメリカを支援することが台湾を救い、台湾を救うことが結果的には日本の安全を確実にします。台湾を救うことは日本の国益になるのです。この三つを徹底的に行うことが大事です。
日本がこれらを徹底して自ら守る体制をとり、国民も闘う意識を持っていることを、習近平主席の意思に対して明確に訴え、認識させることが重要です。
「来るなら来い。われわれは闘う。反撃能力も持っているし、アメリカとしっかり連携するぞ」という意思を示す。これによって習近平主席の「台湾をとれるかもしれない」という過信と誤算を持たせない。自分の国は自分で守る姿勢を示すことによって戦争を抑止する。ウクライナ戦争から学び、国全体の防衛力を強化することが大事です。
(令和五年二月二十八日の講演を整理、抜粋しました)
あなたは立ち上がれるか
昨日(二月二十七日)、産経新聞「正論大賞」の授賞式があり、特別賞を受賞されたのが暗殺された安倍晋三総理でした。正論大賞は織田邦男さん、新風賞は松原実穂子さん。いずれも自衛隊の関係者の方で、お三方ともに国家基本問題研究所の仲間です。
私たちが、このシンクタンクを立ち上げたとき、多くの人が「右寄りじゃないか」「右翼じゃないか」と言いました。いまだにそういうことを言う人がいますけれども、国を守るのに右も左もあるものでしょうか。真っ当な国民であるならば、国家の危機に際して国を守ることに全力を注ぐのは当然です。
学問に国境はありませんが学者には祖国があります。国民にとっても祖国はたった一つです。この祖国を守る戦いを私たちはしなければならないかもしれない。その局面に立っています。国と国との戦争が机上の理念としてではなく目の前の現実としてある。私たちがそれに関わっていかなければならない状況が今なんです。
国基研は自分自身に、皆様に問います。「あなたは立ち上がれるか」。
世界は天地がでんぐり返っているような状況の中にあります。国連の常任理事国である核大国、ロシアが核を使って脅してくるわけです。また、例えば中国はオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の判決を紙くずだと言って切り捨てるわけです。その二つの国がしらじらしくも国連のルールを守ろうと言っています。
この国際社会はいま噓にまみれた、剥き出しの力による問題解決の方向へ向かっている。彼らに通じる言葉は武力しかないとウクライナの方たちが言っています。その通りだと思います。そうした中で、私たちはでき得る限りの軍事力構築に急がなければならない。
同時に、根本的に世の中が変わっているわけですから、私たちも戦後体制を根本から変えなければならない。その根本は憲法改正にあると思います。
国基研設立の大目標は憲法改正です。この国の未来を担保するには憲法改正をしなければならない。同時に、切迫した眼前の事態に対処するために自衛隊を本当の意味での正規の軍隊にしなければなりません。教育についても日本人であることの意味、その歴史、先人たちが紡いできた多くの尊い無形の価値観をつないでいけるように憲法改正を含めて社会の改革に取り組んでいきたいと思います。(了)