公益財団法人 国家基本問題研究所
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第三回(平成28年度) – 日本研究賞 授賞式

寺田真理記念 日本研究賞

第三回「国基研 日本研究賞」授賞式

 国家基本問題研究所は、日本研究を奨励し、真の意味での知日家を育てるため創設した「国基研 日本研究賞」の第三回授賞式を、平成28年7月5日(火)、東京・日比谷の日本プレスセンターで行いました。

櫻井よしこ理事長 - あいさつ

櫻井よしこ  皆さま、今日は、この場にお集まりくださいまして、本当にありがとうございます。第三回の日本研究賞に、すばらしい三人の方々が選ばれました。この国基研の日本研究賞は、現在とても十分とはいえない国際社会における日本に対する理解を深めたい、そしてそれによって日本が現在行っている以上に、よりよい国際社会の樹立に貢献できる国へと成長したい、そんな思いから、三年前につくったものです。

刻々と変化する国際社会を見るとき、日本と世界、そして、世界を構成する諸国間のさまざまな問題を理解するためには、目の前の国際情勢を見るだけでは不十分だと実感しています。日本だけではなく諸国の文明、各々の国の、そして世界の価値観を踏まえた深い考察が、いかに重要であるかということも実感しています。

こうした状況のなか、中・長期の視点に基づいた研究を、これからの世界を担っていかれる外国の、もしくは外国生まれの研究者の皆さん方に思う存分していただければ、その成果は、必ず日本の私たちにとっても励みともなり、教訓ともなるはずです。

このような思いで創設したのが、日本研究賞です。当初、寺田真理さまから、一〇〇万ドルのご寄付をいただき、それを基金として、「寺田真理記念 日本研究賞」を創設しました。

やがて、この賞の趣旨に賛同された方々が、同じように多大なご貢献をしてくださいました。そうしたなかで、寺田さまからのお申し出もあり、賞の名前を今年度から「国基研 日本研究賞」に改めさせていただきました。

ここで改めまして、寺田さまに深い感謝の気持ちを捧げます。あわせて長田延滿さまと奥さま、そして、今日ここにはいらっしゃいませんが、真鍋茂さまをはじめ、日本研究賞に本当に心温まるご寄付をくださった方々に、心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

今回受賞されたのは、南モンゴルご出身で今は日本国籍となっていらっしゃる楊海英さん、そして台湾の陳柔縉さん、アメリカのロバート・エルドリッヂさんのお三方です。皆さん方の作品の紹介と講評は田久保忠衛先生にお願したいと思います。

今、世界が激動し、国際社会の秩序が一新されようとしている中で、お三方の受賞は非常に有意義なことだと思います。まさに、これ以上の方々をお選びすることはできなかっただろうと思い、今回の三人の方々には心からのお祝いを申し上げたいと思います。

そして、この日本研究賞を支えてくださっている皆さま方に、深く感謝し、これからもこの賞をより大きく育て、日本と国際社会のために私たちも貢献してまいりたいと思います。これからも、皆さま方の変わらぬご支持とご教示に期待をし、今日のご出席を心から感謝して私の言葉とさせていただきます。本当にありがとうございました。

田久保忠衛副理事長 - 選考報告

田久保忠衛副理事長  簡単に印象だけを申し上げます。

楊海英さんは幼少のころから、日本を「ナラン・ウルス」、モンゴル語で「太陽の国」と考えて、育っています。実にうれしいことです。そして、北京の大学で日本語を勉強され、日本の研究者となったわけです。『日本陸軍とモンゴル 興安軍官学校の知られざる戦い』、『チベットに舞う日本刀 モンゴル騎兵の現代史』を通して、戦前のいい意味での日本軍精神を鋭利な刀で抉るように描写されていて、感激しました。日本人の精神は日本軍が敗戦で撤退しても、五個の騎兵師団を残していってくれた、と楊海英さんの説明があります。これが万事を物語っていると思います。

次に陳柔縉さん、私が熟読して書評を書かせていただきました。後藤新平や八田與一など、台湾に尽くした日本人はいろいろいます。また、そうした人たちの自伝、評伝は台湾からも日本からも、大変多く出版されています。

しかし、陳さんのお書きになった本は、そうしたものとは視点が違っています。ご両親をはじめ、身近な人たちから、日本統治時代の話を聞いて、『聯合報』に連載したコラムをまとめたものです。

私は、司馬遼太郎が「台湾は東側を列車で旅行したほうがいい」と言っているのを聞いて、十年ほど前に東側の旅行を試みました。そのとき、途中の駅で「イタバシ、イタバシ」と言うので、これは日本統治時代の影響かなと思いましたが、その通り、陳さんの本に書いてありました。それから、十二時過ぎでしたが「ベントー、ベントー」という声がしたので、買ったところ、本当に日本風のお弁当で、大変おいしかった。これも陳さんの著書で確認しました。

エルドリッヂさんは『尖閣問題の起源 沖縄返還とアメリカの中立政策』で、受賞されました。エルドリッヂさんはすでに日本の論壇でも、おびただしい数の学問的著作や論文を発表していて、とくに沖縄問題ではすばらしい論文を発表している方です。

私は一九六九年から七〇年まで時事通信の特派員として、沖縄に滞在しましたが、そこで、普通の人とは違った経験をしました。みんなが取材に行く祖国復帰庁あるいは沖縄教職員組合にあまり顔を出しませんでした。というより、出入りを拒否されました。そこで私は、古い尚王家に関係ある独立論者の方々と大変深いおつきあいをしました。沖縄の底辺に流れているものは何かということを私はずっと見てきましたが、エルドリッヂさんの著作はそのへんを見事につかみとっています。

数年前、オバマ大統領が来日したとき、日本側の要請に従って「尖閣諸島は日米安保条約の守備範囲に含まれる」と言いましたが、領土問題に関しては「当事国間で平和的に話し合いを」と逃げました。これは大変な矛盾です。この点もエルドリッヂさんは鋭く突かれています。この本は、国務省その他の膨大な資料を読み込んで書かれた精密なもので、大変すばらしいと思いました。

三人の方に心からのご祝辞を申し上げ、一層の日本研究にお励み頂きたいという要望を申し上げて、私のご挨拶といたします。

熊坂隆光・産経新聞社代表取締役社長 - 祝辞

熊坂隆光・産経新聞社代表取締役社長  第三回「国基研 日本研究賞」授賞式おめでとうございます。まず、なによりも日本研究賞並びに研究奨励賞を受賞されました三人の気鋭の研究者の皆さん、本当におめでとうございます。さらにこの賞を運営しておられる国基研の日頃の活動に改めて敬意を表したいと思います。

先ほど、櫻井理事長のお話しにもありましたが、日本からの発信が少なくなり、海外での日本研究もかつてのような勢いがなくなってまいりました。歴史事実に基づいた、日本のごく当たり前な主張を誤解され、言われなき中傷にさらされることもございます。

私はその責任の多くは、いや、かなりの部分、大半は、マスコミ・メディアの責任であろうと考えております。産経新聞だけがまともであると言うような思い上がったことは申しませんが、歴史認識、安全保障問題、憲法などの問題で、どれだけ多くのメディアが反日的な姿勢をとっているのか。どこの国の新聞かテレビかわからない報道機関が数多くございます。有名な科学者の言葉を引用して申し上げますと、「ジャーナリズムに国境はないが、ジャーナリストにも祖国はある」と言うことでございます。それを忘れている報道機関がどれだけ多いことかと常に考えている次第でございます。

そうした中で、国の在り方を真摯に考え、日本の歴史文明に誇りを持とうという国基研と、日本を愛し、日本の歴史に誇りをもって紙面を作る、これを社是としております産経新聞の目指すところ、また志は、まったく同じであると考えております。産経新聞も今回受賞された三人の方に負けないよう、事実を正しく見極め、正しいものは正しい、どんな圧力にもめげず、主張していきたいと考えております。あらためて三人の受賞者の方に、心からお祝いを申し上げるとともに、国基研の益々の発展を祈念いたしまして、私のご挨拶とさせていただきます。本日は本当におめでとうございます。

安倍晋三総理 - 祝辞

 本日は、第三回「国基研 日本研究賞」授賞式が、盛大に開催されますことを、心よりお慶び申し上げます。

楊海英先生おめでとうございます。「日本人のように正直に、公平に、規律正しく生きなければならない」。楊海英教授が、子供の頃に教えられた、その言葉からは、遠くモンゴルの大地にあって、モンゴルの人々の近代化を支援した日本人たちの姿が、いきいきと浮かび上がります。

歴史を紡いできたのは「人」であります。歴史の裏には、常に、人々の営みがあった。言葉や文化の違いを超えて、現地の人々と共に笑い、共に泣き、共に暮らした、日本人たちがいました。

「二つの国の人々は、あの時代、辛くとも楽しい日々をともに歩んでいたのだ」。陳柔縉さんの労作は、日本人と台湾人、市井の人々の交流、その当然の事実に、改めて気づかせてくれました。

日本の先人たちは、アジア、世界にあって、その地の人々と深く交わりながら、その地の人々に今なお感銘を与え続ける、力強い足跡を残してきました。そのことに思いを致すとき、私は、日本に生まれ、日本人であることを、本当に誇りに感じます。

その時代を生きた人々の視座、従来の視点にはとらわれない、斬新な切り口。新進気鋭の若い皆さんによる日本研究は、これまでの「壁」を打ち破り、日本の真の姿を世界へと伝える、大きなきっかけとなると考えます。

そして、具体的な文献や証言に裏打ちされた緻密な研究は、過去、現在を超えて、未来をも切り拓く大きな原動力となるものです。ロバート・D・エルドリッヂさんの尖閣諸島に関する研究は、実証的な研究の上に、具体的な提言を伴った、大変示唆に富む力作であります。

以上のように、三人の研究者の皆さんが、国際的な視点から、日本と日本人の歴史に光を当てて下さったことに、心より敬意を表する次第です。本日の栄えある御受賞、誠におめでとうございます。そして、これからも、日本について研究を深めていただきたい。益々の御活躍を、大いに期待しております。

最後となりましたが、櫻井理事長をはじめ、国家基本問題研究所の皆さんの日頃からの活動に、改めて感謝申し上げます。そして、この「国基研 日本研究賞」が、世界中の日本研究者たちの大きな「希望の光」として、一層発展されていくことをお祈りして、私のお祝いのメッセージとさせていただきます。

平成二十八年七月五日 内閣総理大臣 安倍晋三

平川祐弘選考委員(国基研理事) - 乾杯の挨拶

平川祐弘選考委員(国基研理事)  乾杯に先立ち三人の受賞者にお祝いの言葉を三分間述べさせていただきます。今回の賞は東アジアにおける国際情勢を反映し、中華帝国の周辺地域を話題とするお三方が受賞されました。

南モンゴル出身のオーノス・チョクト様の中国名はYang Haiyingと言われましたが、その楊海英をいまや日本語作品のペンネームとして縦横に腕をふるい、モンゴルが中国によっていかに翻弄され、民族自決の機会を奪われたか、その実態を受賞作のみならず、数々の作品のなかで示しました。今の日本で有名なモンゴル人といえば、横綱白鵬ですが、もし、あなたの本が英訳されれば、世界的にはあなたのほうが名前が知れるようになるかもしれません。

陳柔縉様には受賞作のほか、羅福全に関するオーラルヒストリーがありますが、非常にできのいいものです。これは日本語訳だけではなく、すでに英訳もあるということでした。私は三十年前、台湾ではまだ日本語を教えることが公式に認められていない時代に、日本語を教えておりました。あの言論統制がしかれていた頃にくらべ、こうした戦前の台湾を懐かしむ著書の出る今の台湾はつくづくいい国だと思います。このことは昨今の韓国の言論事情のコントラストにおいて強く感じます。

陳さんから、蔡英文女史が新総統になられて以来、女子高校生の服装もTシャツもすっかり自由になったと伺いました。私もそれに乗じて、本日はネクタイを締めずTシャツを着てまいりました。ここには「民主 和平 護台湾」とプリントされています。実は、私は言論自由な台湾が大陸に併呑されぬことを切に祈るもので、二〇〇五年、反併呑の大きなデモが行われた際、実は私もこのTシャツを着て台北でデモに参加しました。

ロバート・エルドリッヂ様はUSマリーンと伺って、武張った恐ろしい方かと思いました。はたして頭は海兵隊らしくツルツルに剃ってありました。ところが、ご本を読みましたら、実に厳密で手堅いアカデミックな学術研究で敬服いたしました。

このようなスタンダードワークが日米両語で出ることは、日米関係者双方にとって、尖閣問題についての共通の認識が分かちもたれることになると思います。エルドリッヂ様は、数々の沖縄論ですでに賞をとっておいでです。どうかこの書物が日本の愛国左翼の若者にも読まれることを切望いたします。

それでは、受賞されたお三方の栄誉を祝し、ご家族、翻訳者、出版社、そして日本研究を支持してくださいます本席においでの皆さま方のご清栄を祈り、杯をあげたいと思います。乾杯!