「国基研 日本研究賞」創設の趣旨
私たちは日本国の基本をゆるぎなく立て直し、本来の日本らしい姿を取り戻したいとの思いで2007年に国家基本問題研究所を創立した。日本独自の価値観を守りつつも、広く世界に視野を広げ、国際社会のよき一員でありたい。そのために、憲法、安全保障、教育など、日本が直面する国家的課題に果敢に取り組み、日本再生に貢献したいという切望が、私たちの原動力だった。
志を実現するには国際社会の日本理解を深め、諸国との相互尊重を確立することが欠かせない。だが、現実は私たちの願いから程遠く、多くの点で日本は誤解されている。とりわけ歴史問題に関する誤解は根深く、その誤解の壁は現在も私たちの前に立ちはだかる。日本と価値観を同じくする西側諸国でさえも、必ずしも、例外ではない。
誤解を解くのに一番よいのは、外国の人々に日本を知ってもらうことであり、なんとか日本研究の人材を育てたいと考えていたときに、寺田真理氏より御厚志をいただいた。志を同じくする氏の思いも反映して創設したのが日本研究賞である。
同賞に托す私たちの願いは、日本の姿、歴史、文化、文明、政治、戦争、価値観のすべてを、二十一世紀を担う国際社会の研究者に極めてもらうことだ。日本研究賞が自由かつ誠実な日本研究を進める一助となれば、それは私たちにとっての大いなる喜びである。
成功も失敗も含めて日本のありのままを研究してもらえれば、そこから生まれる評価は肯定的否定的とを問わず、自ずと偏見の壁を打ち破るはずだ。学問的誠実さに裏づけられた研究は、その全てが私たちにとっても貴重な学びとなるはずだ。
「国基研 日本研究賞」によって、日本の真の友人が国際社会にふえていくことを心から願っている。同時に、私は日本の文化文明、日本人の生き方を決定づける価値観は、必ず、二十一世紀の国際社会のより良い在り方に貢献できるものと、信じている。
国家基本問題研究所理事長 櫻井よしこ
日本研究賞を創設した意図と将来に向けてのビジョンについて、櫻井理事長と田久保副理事長が対談しました。
櫻井国家基本問題研究所の創設の趣旨はいくつかあったと思います。第一は戦後の日本のあり方を根本的に変えなければならない。そのためには、憲法改正が重要だということでした。もう一つは、それと同時進行で、海外における日本に対する、歪曲された理解、誤解を ... 続きを読む
要綱
- 一.
- 国家基本問題研究所は、政治、経済、安全保障、社会、歴史、文化の各分野で、日本に対する理解を増進する、内外の優れた日本関係研究を顕彰し、奨励する。
- 一.
- 原則として個人に対し、日本研究賞1点、1万ドルを受賞者に贈る。奨励賞は5千ドルとする。特別賞を出す場合もある。
- 一.
- 対象となるのは、近年刊行、発表された日本語か英語による作品で、日本に帰化した一世を含む外国人研究者とする。但し、特別賞の場合は、この限りではない。
- 一.
- 候補作品は、毎年末までに推薦委員その他識者に広く推薦を依頼、その結果を基に選考委員会が翌年春までに選考する。
- 一.
- 授賞式及びレセプションは、通常、毎年7月に行う。
第11回「国基研 日本研究賞」
受賞作品
日本研究賞 |
ジョン・マーク・ラムザイヤー 米ハーバード大学教授
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日本研究特別賞 | 鄭 大均 東京都立大学名誉教授
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選考の経緯
第11回「国基研 日本研究賞」
ジョン・マーク・ラムザイヤー 米ハーバード大学教授
『慰安婦性奴隷説をハーバード大学ラムザイヤー教授が完全論破』(ハート出版、2023)
第二次世界大戦中の日本軍相手のいはゆる慰安婦、特に朝鮮人慰安婦が性奴隷ではなかつたといふことは、今やわが国では決着がついてゐると思はれるが、国際的には性奴隷説が未だ広く行きわたつてゐる。
本書の著者は、専門の経済学や経済法の立場から、戦前の売春婦と芸者の年季奉公契約に関心を持ち、1991年にそれについての論文を書いた。
その後、戦時の慰安婦が問題となり、特に、朝日新聞が、後に誤報と認めた吉田清治の慰安婦など朝鮮人強制連行説を長期間にわたつて真実であるかのやうな報道をし続けた結果、朝鮮人慰安婦性奴隷説が広く知られるやうになると、著者はそれに関心をもち、その結果、慰安婦は、強制連行ではなくて、年季奉公契約類似の契約を結んでゐたことがわかり、戦時慰安婦についての論文を書いた。
2021年(令和3年)1月に、産経新聞に著者とその慰安婦についての主張が紹介されるとその直後から、アメリカで著者に対して殺人予告を含む嵐のやうな人身攻撃が始まつた。学術雑誌に掲載された著者の論文撤回要求は、数千名もの学者の署名のある政治的プロパガンダであつた。
著者はその攻撃に対して誠実に学問的に反論したが、受け入れられなかつた。これは現在のアメリカの学界の残念な状況を示してゐる。
本書は、慰安婦に関する著者の当初の論文から反論に至るまでの4つの論文を編訳者らがまとめ、それに著者による経過説明、補充論文を加へたものを解説、翻訳したものである。
読者は本書を読めば、アメリカといふ自由民主主義の代表であるかのやうに思はれている国における全体主義的な風潮とそれに対する学問的良心とはどのやうなものであるかを理解することができる。
本書は、当研究所の日本研究賞にふさはしい。
講評 選考委員 髙池勝彦
国基研副理事長・弁護士
第11回「国基研 日本研究特別賞」
鄭 大均 東京都立大学名誉教授
『隣国の発見 日韓併合期に日本人は何を見たか』(筑摩書房、2023)
東京都立大の鄭大均(ていたいきん)名誉教授は、昨今の反韓気分に乗じて隣国の悪口を言いつのる日本論壇の常習執筆者をたしなめる知性の持主です。公平を念じる著者は新著『隣国の発見』(筑摩書房)で、日韓併合期にも朝鮮の山河や文化を肯定的に語った谷崎潤一郎、柳宗悦、安倍能成、浅川巧らがいたことをその文章を引くことで示しました。しかし戦前は韓国人を「実に有史以前に属するものなり」と否定的に断じた新渡戸稲造などもおりました。戦後は日本の植民地支配を過激に非難することで「良心的日本人」として韓国では聖人化された梶村秀樹などもおりました。
しかし本書はそんな「あけすけな偏見の持主たち」の弾劾ではありません。日本や朝鮮の螢研究でノーベル賞候補(一九三八)にもなった、狭間(はざま)文一京城医学専門学校教授(一八九八-一九四六)を発掘、最終章に登場させたことで本書は光彩を発しました。狭間博士の存在はこれで世に知られました。選考委員一致の授賞となった所以です。
螢来い。螢来い
花婿の部屋に燈(ひ)をともせ
花嫁の部屋に燈をともせ
市(いち)に出掛けた父さんの
帰る夜道に燈をともせ
これは「旅する科学者」が朝鮮の田舎で拾った民謡の狭間自身による訳です。
鄭教授は「独立後の韓国が戦前の時代を抑圧、収奪、抵抗の物語として語り続けることに不安と不満を覚え」、バランスのとれた三点測量を行ないます。平川はそこに共感を覚えます。日本統治期に台湾で鉄道などインフラが整備され、学校・病院が建ち、農業に化学肥料が用いられたことは現地台湾の人にも肯定的に評価されています。それだけに、韓半島についても加害・被害者史観を脱却した、韓国系日本人鄭教授の複眼の見方にほっとします。日韓関係での難題は、日本人がかつて半島から与えられたこと、また与えたことを意図的に無視する風潮が、戦後、両国で続いたからだという鄭教授の指摘こそ正論と言えましょう。
講評 選考委員 平川祐弘
国基研理事・東京大学名誉教授
選考委員
委員長 | 櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長 |
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副委員長 | 田久保忠衛 同副理事長・杏林大学名誉教授 |
伊藤隆 東京大学名誉教授 平川祐弘 東京大学名誉教授 渡辺利夫 拓殖大学顧問 髙池勝彦 国基研副理事長・弁護士 |
推薦委員
推薦委員 | ジョージ・アキタ 米ハワイ大学名誉教授 ジェームズ・アワー ブラーマ・チェラニー ケビン・ドーク ワシーリー・モロジャコフ ブランドン・パーマー 許世楷 アーサー・ウォルドロン エドワード・マークス デイヴィッド・ハンロン 楊海英 陳柔縉 ロバート・D・エルドリッヂ ジューン・トーフル・ドレイヤー ロバート・モートン 蓑原俊洋 ペマ・ギャルポ 秦郁彦 李建志 ミンガド・ボラグ トシ・ヨシハラ 李宇衍 エヴァ・パワシュ=ルトコフスカ 李大根 ジェイソン・モーガン |
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