公益財団法人 国家基本問題研究所
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第九回(令和四年度)国基研 日本研究賞

国基研 日本研究賞

第九回「国基研 日本研究賞」

 

受賞作品

 
日本研究賞 エヴァ・パワシュ= ルトコフスカ ワルシャワ大学教授「【増補改訂】日本・ポーランド関係史―1940-1945」「日本・ポーランド関係史Ⅱ―1945-2019年」(いずれも彩流社、2019、2021)
日本研究特別賞 李 大根 成均館大学名誉教授「帰属財産研究 韓国に埋もれた『日本資産』の真実」(文藝春秋、2021)
ジェイソン・モーガン 麗澤大学准教授LAW AND SOCIETY IN IMPERIAL JAPAN Suehiro Izutaro and the Search for Equity(Cambria Press、2020)(帝国日本における法と社会:末弘厳太郎と衡平を求めて、邦訳なし)

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選考の経緯

第九回「国基研 日本研究賞」
エヴァ・パワシュ= ルトコフスカ ワルシャワ大学教授
「【増補改訂】日本・ポーランド関係史―1940-1945」「日本・ポーランド関係史Ⅱ―1945-2019年」(いずれも彩流社、2019、2021)

本書はⅠ(2019年増補改訂版が邦訳、470ページ)が1904ー1945年、Ⅱ(2021年邦訳、605ページ)が1945ー2019年、合わせて110年を超える、長期に亘る日本ーポーランドの二国間の詳細な関係史である。これほど詳細な二国間の関係史は類を見ない。著者はポーランドの代表的日本研究者、ワルシャワ大学教授である(Ⅰはアンジェイ・ロメルとの共著)。

日本で初期にポーランドについて触れたのは新井白石の『西洋紀聞』であり、開国後は東海散士の『佳人之奇遇』で、そのポーランドが独露によって分割された悲劇に遭遇している事に触れ、また福澤諭吉『西洋事情』もポーランドについて言及している。さらに落合直文の長編詩『波蘭旅行』(1893)は後述の福島安正単騎旅行に触発されて書いたもので、その中の「波蘭懐古」が本書に紹介されている。波蘭の悲劇から、日本の警戒を訴えている。1919年に日本は波蘭の独立を承認し、外交関係が始まったが、日本に関する情報はかなり遡って記述されている。また外交関係開始と同時に情報将校の交換・ソ連情報の交換も行われている。

日本とポーランドは地政学的に強大なロシアによって一万一千キロも隔てられ、その脅威にさらされているという関係もあって、早くから政治的軍事的関係が形成された。著名なのは福島安正のシベリア横断旅行における当時独露に分割されていたポーランド人との接触で、その後日露戦争中の明石元二郎の情報活動に繋がったことである。さらに第二次大戦中の杉原千畝とポーランド諜報機関、そしてユダヤ系ポーランド人に対する日本通過VISA発給が著名である。これらについても詳細な記述がある。戦後においては、ソ連の支配下の時代の1957年に国交回復が行われているが、特にその以降の両国の外交関係に就いて詳しく叙述している以外に、ワルシャワ大学における日本・日本語研究をはじめ、両国の文化交流・人的交流についても詳細に記述している。いずれも史料を探査し、多数の関係者からの聞き取りを行った結果である。

「日本におけるポーランド人宣教師の活動」は戦前に遡って記述されている。当初多かった宣教師に加えて次第に様々なポーランド人在日者が増加したが、その記述と、逆に在ポーランド日本人についての記述も興味深い。外交関係では、1990年の海部俊樹首相、1994年の高円宮憲仁親王ご夫妻、同年のワレサ大統領、1999年のブゼグ首相、2002年の天皇皇后両陛下、2003年の小泉純一郎首相、2005年のベルカ首相、2008年のカチンスキ大統領、2013年の安倍晋三首相、2014年のコモロフスキー大統領の相互訪問をはじめ多くの外相、議員による相互訪問について詳しく書かれている。 著者は1985年に日本に留学、私のゼミに参加、日本語の読解も堪能で、真崎甚三郎を中心とする昭和戦前期の動きを真崎の関係文書などの史料や文献を丹念に集めて論文に纏められた。実に丹念な研究をなさる方と感心しました。

講評 選考委員 伊藤隆
国基研理事・東京大学名誉教授

第九回「国基研 日本研究特別賞」
李 大根 成均館大学名誉教授
「帰属財産研究 韓国に埋もれた『日本資産』の真実」 (文藝春秋、2021)

一国の発展の始発時点で与えられている一切の前提が「初期条件」である。35年にわたる日本の朝鮮統治が第二次大戦での敗北によって終焉し、三年間の在韓米軍政庁(米軍政)による直接支配を経て、大韓民国が独立したのが1948年8月であった。この時点において韓国に与えられていた与件が、すなわち初期条件である。

日本統治の時代に築かれたすべての資産は米軍政によって接収され、米軍政に帰属した。「帰属財産」である。これが大韓民国の樹立とともに新政府に移管され、一部が国有・公有、他の一部が民間に払い下げられた。帰属財産の資産価値は朝鮮の総資産の実に80~85%に及んだといわれる。後に朝鮮戦争が勃発して相当部分が北朝鮮のものとなったが、それでも製造業生産額の約半分を韓国が占めた。韓国の大いなる発展がこの初期条件と無関係であるはずもないのだが、このことに言及した研究者はこれまでいなかった。

朝鮮における日本の統治のとば口を開いた歴史的事業が土地調査であった。朝鮮に私有財産制度を導入して所有権を確定し、徴税基盤を形成するための最初の重要課題が土地調査であった。土地調査事業を通じて約40%の土地が総督府によって収奪されたという作り話が、中・高等学校の教科書に堂々と書かれてある。作り話の淵源をたどっていくと、韓国歴史学会によって造作された学説に行き着く。嘘の上に形成される韓国人のアイデンティティはまことに危うい。この危機的な知的状況を打開すべくひとつの有力な研究が発表された。

李大根氏の『帰属財産研究―韓国に埋もれた、<日本資産>の真実』(文藝春秋)である。氏はいう。「たとえそれが他民族に支配された恥ずべき歴史であるとしても、先祖の歴史である以上、はなからこれを否定したり、歪曲して捏造したりする知的風土をこれ以上容認してはならない」「特に、日本の植民地時代の歴史に対する韓国人の偏見を正すためには、帰属財産の実態に関する正しい理解を何よりも優先すべきであろう」 韓国併合によって日本から朝鮮に持ち込まれた法的な規範や秩序、とりわけ私有財産制度と市場経済制度こそが韓国に近代化をもたらした主因であることを徹底的な実証研究によって明らかにした著作が、同書である。鉄道、電力、港湾などの社会間接資本の建設、重化学工業化を通じて朝鮮は伝統的な農業社会から産業社会へと転換した。

その結果、韓国はすでに1930年代に日本の資本と技術によって、「第1次産業革命」を経験していた。これで、韓国は第2次大戦後の数多の開発途上国の中で先駆的な地位を占めることになった.. 李大根氏の『帰属財産研究』はこの事実を一次資料の精細きわまる分析によって証した生気の著作である。

民族反逆者として糾弾されかねない風土の中にあって厳密な資料解析を行い、解析によって得られた事実をかくも整然たる文章によって記述する、研究者としての高い志操に深く頭を垂れる。公益財団法人 国家基本問題研究所は、理事長、審査委員全員の合意により李大根氏の同書を令和四年度の第九回日本研究特別賞として推挙した。

講評 選考委員 渡辺利夫
国基研理事・拓殖大学顧問

第九回「国基研 日本研究特別賞」
ジェイソン・モーガン 麗澤大学准教授
LAW AND SOCIETY IN IMPERIAL JAPAN Suehiro Izutaro and the Search for Equity(Cambria Press、2020)
(帝国日本における法と社会:末弘厳太郎と衡平を求めて、邦訳なし)

本書の著者はアメリカ人の歴史学者であるが、日本には英米法の衡平(Equity)に似た法の伝統があることに気づき、末弘厳太郎の研究をした。本書は、著者の末弘厳太郎についての博士論文を補充した研究書であり、網羅的であり、かつ理論的深さにおいても立派な学術書である。末弘は、民法、法社会学、労働法の学者であり、とりわけわが国の法社会学と労働法の草分けである。日本で有名な法律の月刊誌『法律時報』の創刊者でもある。

末弘についての研究書は我が国には多くあるが、英語で書かれた研究書は本書の他にはないと著者はいふ。私は、本書は末弘についての単なる研究にとゞまらず、我が国の法の伝統の中に、英米法における衡平(Equity)との共通点を論じた点が独特であると考へる。Equityは英米法に独特な概念で、コモンロー上の不都合な結果を救済することで発達してきた。著者は、末弘の法理論が日本におけるEquityの重要性を主張したものであると論じてゐる。

明治維新によつて、明治政府は、それ以前の法を、「封建的」であるとして捨て去り、西洋の法を取り入れようとした。また、法解釈学も進化論の影響で法進化論が取り入れられたが、他方で、捨て去ることのできない従来の伝統との軋轢や、工業化の進展の歪みの中で様々な矛盾が生じてきた。

末弘は、従来の法解釈がドイツフランスの厳格の解釈学であることを批判し、先例や慣習を重視した「生きた法」の解釈を目指し、また実践活動では、同じ民法学者の穂積重遠と協力して、東大セツルメントの運動をはじめた。

著者は、末弘が「法と社会」の相関関係を研究し、末弘が大岡越前守を取り上げてゐることを評価しそれを一種のEquityであるとして、生きた法解釈であるといふ。 末弘は明治維新の際の外国法の流入と以前の慣習との調和を目指したのであるが、その末弘の研究は、十分現代的意義があると著者はいふ。なぜならば、昭和の敗戦により、占領軍による憲法その他の法の制定は、従来の慣習との軋轢を生んでをり、Equityの理解が必要であるからであるといふ。

本書は、当研究所の日本賞特別賞にふさはしい。

講評 選考委員 髙池勝彦
国基研副理事長・弁護士


 

選考委員

委員長櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長
副委員長田久保忠衛 同副理事長・杏林大学名誉教授
伊藤隆 東京大学名誉教授
平川祐弘 東京大学名誉教授
渡辺利夫 拓殖大学顧問
髙池勝彦 国基研副理事長・弁護士
 

推薦委員

推薦委員 ジョージ・アキタ
米ハワイ大学名誉教授

ジェームズ・アワー
米ヴァンダービルト大学名誉教授

ブラーマ・チェラニー
インド政策研究センター教授

ケビン・ドーク
米ジョージタウン大学教授
第一回「寺田真理記念 日本研究賞」受賞

ワシーリー・モロジャコフ
拓殖大学日本文化研究所教授
第一回「寺田真理記念 日本研究奨励賞」受賞

ブランドン・パーマー
米コースタル・カロライナ大学准教授
第一回「寺田真理記念 日本研究奨励賞」受賞

許世楷
津田塾大学名誉教授

アーサー・ウォルドロン
米ペンシルベニア大学教授

エドワード・マークス
愛媛大学准教授
第二回「寺田真理記念 日本研究賞」受賞

デイヴィッド・ハンロン
米ハワイ大学マノア校教授
第二回「寺田真理記念 日本研究奨励賞」受賞

楊海英
静岡大学教授
第三回「国基研 日本研究賞」受賞

陳柔縉
コラムニスト・元聯合報(日刊紙)政治部記者
第三回「国基研 日本研究奨励賞」受賞

ロバート・D・エルドリッヂ 
元在沖縄米軍海兵隊政務外交部次長
第三回「国基研 日本研究奨励賞」受賞

ジューン・トーフル・ドレイヤー 
米マイアミ大学教授
第四回「国基研 日本研究賞」受賞

ヘンリー・スコット・ストークス 
元米ニューヨークタイムズ紙東京支局長
第四回「国基研 日本研究特別賞」受賞

ロバート・モートン 
中央大学教授
第五回「国基研 日本研究賞」受賞

崔吉城 
東亜大学教授、広島大学名誉教授
第五回「国基研 日本研究特別賞」受賞

蓑原俊洋 
神戸大学大学院法学研究科教授
第六回「国基研 日本研究奨励賞」受賞

ペマ・ギャルポ 
拓殖大学国際日本文化研究所教授
第六回「国基研 日本研究奨励賞」受賞

秦郁彦 
現代史家
第六回「国基研 日本研究特別賞」受賞

李建志 
関西学院大学社会学部教授
第七回「国基研 日本研究特別賞」受賞

ミンガド・ボラグ 
フリーランスライター、通訳・翻訳家
第七回「国基研 日本研究奨励賞」受賞

トシ・ヨシハラ 
米戦略予算評価センター(CSBA)上席研究員
第八回「国基研 日本研究賞」受賞

李宇衍 
元落星台経済硏究所硏究委員
第八回「国基研 日本研究特別賞」受賞

(順不同)