2022年4月の記事一覧
安保戦略転換で揺れるドイツ連立政権 三好範英(ジャーナリスト)
ドイツのショルツ首相(社会民主党=SPD)は、ロシアのウクライナ侵略開始から3日目の2022年2月27日、連邦議会の演説で1000億ユーロ(約13兆円)の国防予算の上積み方針を打ち出し、すでに公表していたウクライナへの武器支援方針などとともに、ドイツ安保政策の転換を画するものとなった。 それから2か月近く、いまでは対戦車砲、対空ミサイル、機関銃などを供与し、軍事的関与に消極的だったドイツの外...
中国軍の南太平洋進出に警戒を 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
ロシアのウクライナ侵略戦争に世界が気を取られている隙に、中国が南太平洋への軍事進出の一歩を踏み出した。中国の恒久的な軍事拠点が南太平洋に構築されれば、特に台湾有事の際に米軍やオーストラリア軍が台湾方面へ急行するのを妨害されかねないとして、米豪両国は中国の動きに警戒を強めている。日本の安全保障にも直結する問題なので、日本は米豪などとの政策調整を早急に具体化する必要がある。 ソロモンの軍事拠点化...
国民の命守る核シェルター設置を 奈良林直(東京工業大学特任教授)
ロシアが核兵器で恫喝する中、ウクライナ侵略と市民の虐殺が続いている。国連も北大西洋条約機構(NATO)もこの暴虐を止める術がない。せいぜいドローンや対戦車ミサイル、地対空ミサイルなどを供与するに留まっている。 そうした中で、ウクライナのマリウポリでは、アゾフスタリ製鉄所の地下に築かれたシェルターがウクライナ軍の抵抗拠点になっているが、永世中立国のスイスは、全国民を収容できる核シェルターの設置...
なぜ「攻撃力」と言わないのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
政府の国家安全保障戦略などの改定に向けて、自民党の提言が21日まとまり、「敵基地攻撃能力」については、「反撃能力」に呼称変更したうえで保有することが盛り込まれたと報じられている。 「反撃能力」とは敵からの攻撃を受けて初めて攻撃に移れる能力である。厳密に言えば、敵が明らかに我が国を攻撃しようと企図していて、弾道ミサイル防衛では能力的に迎撃が難しいと分かっていても、敢えて敵からの攻撃がない限り行...
参考にしたいイギリスの核戦略 島田洋一(福井県立大学教授)
自由民主制を取る高度産業国家で、周りを海洋に囲まれた島国、アメリカと同盟条約を結んでいるなど日本と様々に共通点の多いイギリスは、一方で日本と違い、独自の核抑止力を保持している。「連続航行抑止」(Continuous at Sea Deterrent, CASD)と呼ばれる。 英政府はこれを、「少なくとも1隻の核兵器装備潜水艦が、最も極端な脅威に対応するため、発見されずに常時パトロールを続ける...
軍事的常識を欠くウクライナ戦報道 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
連日のようにウクライナ戦争において報道各社が報じ、コメンテーターが論評するのを聞いていて、軍事的常識の欠落を感じる。コメンテーターの多くは、ロシアやウクライナ・欧州の地域研究者であって、必ずしも軍事的な専門知識があるようには見えない。またNHK等の報道各社も、軍事的に見れば非常識である用語を平気で使用していることには驚かされる。これらは、戦後一貫して軍事問題を忌避し続けてきた日本社会の縮図とも言え...
ポーランドがウクライナを全面支援するわけ 三好範英(ジャーナリスト)
ウクライナ隣国ポーランドには、水色と黄色の2色に染められたウクライナ国旗があふれていた。公的な施設にはポーランド国旗と並び掲げられていたし、ワルシャワ市内のバスもウクライナ国旗をはためかせて走っていた。ロシアのウクライナ侵略以来、250万人以上のウクライナ避難民が流入したポーランドは、国を挙げてのウクライナ支援、避難民受け入れ態勢を取っていた。 避難民にはIDを付与 4月初め、避難民や...
国民の命を守ることができる憲法改正を 奈良林直(東京工業大学特任教授)
ロシアの核兵器の恫喝のなかで、ウクライナに対する侵略と市民の虐殺が続いている。国連常任理事国のロシアや中国の同意が無ければ、安全保障理事会は機能しないことが証明された。まさにやりたい放題である。ロシア軍は原子力発電所へも侵入、制圧しており、核不拡散防止条約(NPT)体制も、脆くも破壊された。日本海でもロシアは軍事訓練を活発化しており、平和ボケした日本はこのロシア侵略の危機に覚醒すべきだ。 フ...
軍事的脅威にさらされる日本沿岸 山田吉彦(国基研理事、東海大学教授)
日本の近海は、かつてない危機に襲われている。 4月7日、中国人民解放軍のY9機が沖縄県の与那国島近海上空から宮古島南方の太平洋上を往復した。機体に取り付けられているアンテナ等から電子戦機であることが判明した。電子戦機とは、電磁波を軍事行動に利用するための装備を持った航空機で、レーダーやGPS機能、ミサイル誘導機能などに影響を与え、戦線を有利に展開させるために活用される。電子戦機が上空にいる間...
ウクライナ戦争とインドの立場 アルビンド・グプタ(インド・ビベカナンダ国際財団所長)
インドは、国連人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止した4月7日の国連総会決議に棄権した。インドの国連大使はこの投票行動について説明した際、ウクライナでの民間人殺害を強く非難し、人権尊重に対するインドの揺るぎない決意を改めて強調した。インドの棄権をもって、ロシアのウクライナ侵攻を支持していると解釈してはならない。 これまでのところインドはウクライナ情勢に関する国連決議に全て棄権してきたが...
「核」は独自保有まで真摯な議論を 湯浅博(国基研企画委員兼主任研究員)
日本には、「核論議すること自体が抑止である」との空疎な楽観論が跋扈していたことがある。しかし、ウクライナを侵略するプーチン露大統領は、「核の恫喝」で世界を震撼させ、朝鮮半島にはなお核を抱えた「悪魔の跳梁」がある。そして、核を増強する中国を含め、日本周辺の戦略環境は劇的に変わった。日本は米国が差し掛けている「核の傘」を見直し、核抑止力を再構築すべき時を迎えている。 米国の「核の傘は」万全か ...
幻想から覚めたドイツの軍備強化 佐藤伸行(追手門学院大学教授)
ロシアのウクライナ侵攻を眼前にしたドイツは、ようやく長い夢から覚め、ロシアと対峙する覚悟を示した。問題は、その決意がどれほど堅固・持続的で、かつ具体的であるかだ。 ドイツは長年の平和主義が幻想にすぎないことにようやく気づいたと言えるだろう。東西統一後のドイツでは、いずれの政権も多かれ少なかれ、経済関係の強化を通じてロシアが市民社会的国家へと変容するとの期待を抱いていたが、結局ロシア国家の専制...
再び被爆国にならぬために 奈良林直(東京工業大学特任教授)
ロシアのウクライナを侵略から1カ月余り、プーチン大統領は「我々は最強の核大国の一つ」と西側諸国を恫喝しながら、侵略開始早々、核戦力を「特別警戒態勢」に置くように命じ、すでに作戦部隊を展開している。また、小型の戦術核使用もほのめかして状況をエスカレートさせ、西側を牽制している。ウクライナへの支援を弱める意図も読み取れる。西側の軍事専門家は、ロシアが生物化学兵器を使用する可能性についても指摘している。...
「歴史戦」否定の国民民主に自民は乗るのか 有元隆志(国基研企画委員兼産経新聞月刊「正論」発行人)
今夏の参院選山形選挙区で、自民党は独自候補の擁立を見送り、国民民主党の現職候補に乗ろうとしている。自民党執行部には国民民主党が今年度予算に賛成したことへの「御礼」と共に、今後の協力も取り付けたいとの狙いもあるという。自民党は過去2回の参院選で山形選挙区において野党候補に連敗し、今回も候補者選びが難航しているという事情もあるが、果たしてそれでいいのか。 安倍政権の主張を真っ向否定 今回は...
2023年度米国防予算への懸念 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
バイデン米大統領は3月28日、2023年会計年度(22年10月~23年9月)の優先施策を盛り込んだ予算教書と国家防衛戦略(National Defense Strategy-NDS-)及び核態勢報告(Nuclear Posture Review-NPR-)のファクトシート(概要書)を発表した。予算は最終的に議会の判断を待つことになるが、教書ではバイデン政権の取り組み方針が窺われる。 国防予算...
ロシアの暴挙に目覚め、戦略練り直すとき 岩田清文(元陸上幕僚長)
我が国は、地政学的、歴史的に、常に北のロシア(旧ソ連)、朝鮮半島、そして南西の中国の3正面、さらに東の米国を加えた4正面に対し、どう立ち向かい、付き合っていくのか、国家の生存と繁栄に繋がる極めて重要な戦略的判断を継続してきた。一時期、その判断に大きな失敗をした時代もあったが、そのような過ちは二度とあってはならない。 価値観が共有できる最も強い国と同盟を組み、主敵を絞った上で、他の正面は隙を見...
ルーブル決済はプーチン氏にも両刃の剣 田村秀男(国基研企画委員 産経新聞特別記者)
ロシアのプーチン大統領は「非友好国」に対し、ロシア産天然ガス輸入代金をロシアのルーブル建てで払えと要求している。サハリンからの液化天然ガスを輸入する日本も例外ではない。 プーチン氏の狙いは米欧日の分断だが、ロシア産ガスのへの依存度が高いドイツなど欧州はルーブル払いを拒否し、従来通りのユーロ決済で通す態度を崩さない。プーチン氏は押し通せないようだと、一方的にガス供給を打ち切る挙に出かねないが、...