2020年6月の記事一覧
攻撃力だけでは語れぬ敵基地攻撃能力 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
昭和31年、当時の鳩山一郎総理と船田中防衛庁長官は国会で「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」として「基地をたたくことは法理的には自衛の範囲」という見解を出している。即ち憲法上、敵基地攻撃能力を保有することに何ら問題がないことは64年も前に決着済みなのだ。 兵理上も、防御だけ、あるいは攻撃だけの手段で国防は全うできない。攻撃と防御の両手段併せ持つことが必要である。特に、昨今の...
コロナ後の世界経済と我が国の産業強靱化 奈良林直(東京工業大学特任教授)
新型コロナウイルス肺炎が南半球にも拡大し、パンデミック(世界規模の感染拡大)は終息の見通しが立たない。このような中で、3蜜(密閉、密集、密接)を避けるような形での経済活動の自粛が続いており、消費増税に加え、「コロナ恐慌」に直面しようとしている。 ここで、明確になったのが、中国を「世界の工場」とした一国集中型のサプライチェーンの脆弱さである。わが国の経済は、グローバリゼーションの旗印の下で、...
還暦を迎えた日米同盟 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
日米安保条約は6月23日で締結から60年を迎えた。10年前の2010年6月17日、日米通商150周年、日米安保50周年記念セミナーがワシントンのウィラード・ホテルで行われ、筆者も「グローバルな公共財へのアクセス安保を保持しよう」(Let’s maintain secure access to the Global Commons)と題する講演を行った。 それにしても、この10年で世界情勢は...
「準軍事同盟」と化した中露 遠藤良介(産経新聞論説委員、前モスクワ支局長)
尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の接続水域にロシア海軍艦艇が出没し、中国海警局の公船と伴走するケースが目立っている。18日付の産経新聞が報じた。 中国海警船は露艦艇に尖閣の領有権を通知する内容の交信を行っており、「外国軍への対応」を領有権主張の補強材料にする狙いがあるとの見方が出ている。 露軍がどれだけ意図的・積極的に中国と協調しているかは現時点で不明だが、重要なのは、露艦艇と中国公船の伴走...
『風と共に去りぬ』は差別映画か 斎藤禎(国基研理事)
米ミネソタ州で黒人男性が警官の暴行を受けて死亡した事件以降、全米で激しい抗議運動が続いている。余波は映画にも及び、アカデミー賞作品『風と共に去りぬ』には差別的な表現があるとして、その配信が一時停止された。 時は1960年に遡る。16歳、高校2年生になったばかりの私は、学校の図書室で『風と共に去りぬ』を見つけた。時あたかも“60年安保”騒動が最高潮に達したころで、級友の何人かは国会前のデモに...
中国潜水艦のトカラ通峡の狙い 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
中国海軍と思われる潜水艦が6月20日、潜没のまま鹿児島県口永良部島西のトカラ海峡の我が国接続水域を太平洋から東シナ海に向けて通過した。平成26年6月15日にも中国海軍のドンディア級情報収集艦がトカラ海峡を南東進したが、この時から中国はトカラ海峡を国際海峡と主張している。国際海峡であれば通過通行が認められるので潜水艦は浮上しなくても通峡できるからである。 これに対して我が国は、トカラ海峡は国際...
陛下の相談役として五百旗頭氏は適任か 有元隆志(産経新聞正論調査室長兼月刊「正論」発行人)
新しい宮内庁参与の一人に兵庫県立大の五百旗頭いおきべ真理事長が6月18日付で起用された。果たして五百旗頭氏は天皇陛下の相談役にふさわしい人物なのか、宮内庁による人選を疑問視する声が相次いでいる。 宮内庁参与は昭和39年から始まり、初代の吉田茂元首相と小泉信三元慶應義塾塾長をはじめ、政官財界や宮内庁長官経験者、学者らに委嘱されてきた。菅義偉官房長官は19日の記者会見で「皇室の重要事項の相談役で...
米比協定はバランス外交の道具か 黒澤聖二(国基研事務局長)
フィリピンのロクシン外相は6月2日、米国との訪問軍地位協定(VFA:Visiting Forces Agreement)の破棄を一旦保留すると明らかにした。米国にはすでに2月11日、破棄を通告しており、それから180日後の8月に失効する予定だったが、当面回避されたことになる。ただし、保留の期間は6か月とされ、12月以降に再び破棄される可能性は否定できない。 1988年に締結されたVFAは、1...
理解できぬイージス・アショア計画の停止 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
15日、河野太郎防衛大臣は山口県と秋田県で進めていた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画を停止すると表明した。理由はミサイル発射後のブースターを確実に演習場内に落下させることができないからだと言う。ブースターとは、発射する迎撃ミサイルを加速するための第一弾ロケットだ。長さにして数メートルで燃焼後の空タンクは、海上か演習場内に落下しなくても人命に影響を及ぼすことは万に一つの確率であろう...
香港の人材受け入れに出遅れるな 有元隆志(産経新聞正論調査室長兼月刊「正論」発行人)
中国による香港版国家安全法制定で、自由や人権が大幅に制限されることを懸念する香港市民の移住の「受け皿」として英国、シンガポール、台湾が積極的に名乗りを上げている。ニューヨークやロンドンと並ぶ国際金融センターである香港の人材獲得も大きな狙いだ。日本としても香港の優秀な人材獲得の好機を逃すべきではない。 ●首相も推進の考え表明 6月11日の参院予算委員会で、安倍晋三首相は「東京が金融面で...
ICT活用で「量から質」の成長目指せ 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)
日本の経済情勢を分析する国際通貨基金(IMF)の対日報告書(1月10日公表)によれば、高齢化と人口減少は生産性と成長を押し下げ、現行の政策を続けた場合、40年後の実質国内総生産(GDP)が25%下振れする可能性があると警告している。 一般に、経済成長(GDPの増加)は、生産要素である労働の増加及び資本、並びに全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)の増加によ...
電通依存と役所の足腰劣化 細川昌彦(中部大学特任教授)
新型コロナによる売り上げ激減の中小企業などに給付する持続化給付金を巡って国会でも大問題になっている。769億円の事業を一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」が受託し、その97%にあたる749億円が広告最大手の電通に再委託されている。 これに対して、この協議会が不透明で、実体のない“幽霊法人”“トンネル法人”ではないかと報道されている。さらに政権と電通の癒着だと批判されている。果たしてそう...
プーチン流「少子化対策」に学ぶ 名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)
2019年の人口動態統計で、1人の女性が生涯に産む子供の数にあたる合計特殊出生率は1.36と12年ぶりの低水準になった。19年に生まれた子供の数も86万人で戦後最少。新型コロナウイルス禍などで不安が広がれば、少子化は一層加速し、将来の経済活動や安全保障に重大な打撃を与えることになる。 少子化対策では、母親への各種手当など財政的インセンティブを導入し、出生率を高めたロシアの経験が参考になる。危...
次亜塩素酸水めぐる拙速報道に苦言 奈良林直(東京工業大学特任教授)
新型コロナウイルスの消毒剤が逼迫している状況のなかで、経済産業省の委託を受けた製品評価技術基盤機構(NITE)は5月29日、アルコール消毒剤の代替となる複数の界面活性剤や次亜塩素酸水の試験結果を公表した。 次亜塩素酸水については、国立感染症研究所のpH5.0のサンプル液では、有効塩素濃度49ppm、噴霧後1分で99.99%の感染値減少の効果が確認されたが、北里大の検証試験では4つのサンプルで...
米中経済戦争で注目される対印投資 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)
世界的な新型コロナウイルスの感染拡大と米中経済戦争の激化とともに、世界中の企業の間で中国から他国へ拠点を移そうとする動きが広まりつつある。最近の日経新聞の調査でも、日本企業の7割が海外のサプライ・チェーンの再構築を検討しているという。中国一辺倒になりすぎた多くの企業の有力な移転先として注目を集めつつあるのが、インドである。 ●中国からの移転を呼びかけ インドでは新型コロナウイルスの感...
堂々と媚中する二階幹事長 有元隆志(産経新聞社正論調査室長兼月刊「正論」発行人)
「日本に上陸しているもう一つの脅威」と題して、月刊「正論」7月号(6月1日発売)は、西側情報機関がまとめた中国の対日工作の実態を報じている。報告書では、中国側が「日本の政財界のリーダー、エリート官僚に取り入り、経済協力の魅力的な提案を提示し、中国市場参入への有利な条件を申し出る。そうしたことで中国の活動に対する米国などによる批判を抑える工作をしている」と記している。 中国の「工作」に乗っかっ...
米国の領空開放条約離脱の意味 黒澤聖二(国基研事務局長)
5月21日、領空開放(オープンスカイ)条約(Treaty on Open Skies)からの離脱を米政権が発表した。この条約は、加盟国の軍事施設を上空から相互に監視するもので、非加盟国のわが国には馴染みが薄い。しかし、極東ロシアを査察する米機が横田基地を経由してわが国領域を通過しており、全く無縁とは言えない。そもそも同条約はいかなるもので、米国の離脱にどのような意味があるのか、この機会に整理して...
コロナ禍が示したデジタル化促進の方向性 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)
新型コロナウイルス感染の拡大以前から、日本経済は長期低迷に喘いでいる。奇しくも、コロナ感染は、その主要な低迷要因である国際競争力の低下、つまりデジタル化の遅れに伴う生産性の低さの実態を露にした。 コロナ感染は必ず終息する時が来る。急速な人口減少が見込まれる中、コロナ感染終息後の社会・経済的変化を踏まえて、コロナ感染以前に掲げられた第4次産業革命、働き方改革の実効性を高め、生産性向上に繋げる抜...
憲法上の裏付け欠く自衛隊では士気上がらず 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
5月28日の衆議院憲法審査会では、野党側の反対により、憲法改正に不可欠な国民投票法改正案の今国会成立が困難な見通しとなった。こうした状況では、憲法上裏付けのない自衛隊員の士気は上がらない。自分の約35年間の自衛官生活を振り返って述べてみたい。 ●最低だった1973年の違憲判決 昭和48(1973)年9月、いわゆる長沼ナイキ基地訴訟で札幌地方裁判所が「自衛隊は憲法第9条が禁ずる陸海空軍...
安倍首相は対中包囲網でイニシアチブを 有元隆志(産経新聞社正論調査室長兼月刊「正論」発行人)
トランプ米大統領は世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスをめぐって中国寄りの対応をとったとして、WHOからの脱退を宣言した。日本政府は残留するが、トランプ支持の保守派にはWHOだけでなく「国連不要論」も根強い。米国が「一国主義」、「孤立主義」に向かわないように働きかけるのも安倍晋三首相にとっては重要な役目である。同時に「中国封じ込め」のためには、国際機関が中国依存にならないようにしなければな...