2025年7月の記事一覧
日本の「ハーン」がモンゴル人に与えた意義 楊海英(大野旭、静岡大学教授)
モンゴル国をはじめ、世界中のモンゴル人の間で今、大きな「ハーン」ブームが沸き起こっている。これは、天皇皇后両陛下がこのほど、7月6日から13日までモンゴル国を国賓として正式にご訪問なさったことによるものである。 天皇皇后両陛下のご訪問 今上天皇はモンゴルにおいて「ジブホラント・エジン・ハーン」と呼ばれている。ジブホラントは「令和」のモンゴル語訳であり、エジンは「主君」を意味する。かつて...
「残された親世代は1人だけ」とは言うまい 荒木和博(特定失踪者問題調査会代表)
「残された親世代は横田早紀江さん1人になった」 この言葉は本年2月、北朝鮮による拉致被害者有本恵子さんの父、有本明弘さんが亡くなってからよく聞かれるようになった。 恐らくこう言う人は、家族であれ議員であれ、あるいは支援者、また報道関係者であれ、事態が切迫していることを訴えたいのだろう。しかし、あえて言いたいのだが、この言葉は二つの意味で危険である。 政府認定拉致被害者以外の切...
着々と進む中国の原子力開発 奈良林 直(東京科学大学特定教授)
6月22日から26日まで中国の山東省威海市で開催された第32回原子力工学国際会議(ICONE32)に出席した。この国際会議は、日本機械学会、米国機械学会が1991年に東京で開催したのが第1回で、2005年に中国原子力学会(CNS)が参加するようになった。筆者は東京の京王プラザホテルで開催された第1回から参加している。開催地は輪番制で、日本、米国、欧州、中国の順に開催されている。今年はトランプ米大統...
「不戦」で領土・主権を失っても良いのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
沖縄戦終了から80周年の6月23日前後、テレビの番組は戦争体験者の「戦争は絶対やってはいけない」とする声を収録した「不戦」の特集が多く、この傾向は終戦80周年の8月に向けてますます高まって行くであろう。 だが我が国が直面しているのは沖縄県の尖閣諸島を奪おうとする中国であり、核弾頭を搭載できる弾道ミサイルを日本海に撃ち込んでいる北朝鮮であり、中国と軍事協力をして北方を脅かすロシアの存在である。...
電波の戦いに勝利を 荒木和博(特定失踪者問題調査会代表)
私が代表を務める特定失踪者問題調査会では、平成17(2005)年から北朝鮮に向けて短波放送を流している。北朝鮮にいる拉致被害者に家族・関係者のメッセージなどを送って、日本で救出努力をしていることを知らせるとともに北朝鮮の各層に対して拉致被害者救出を求めること、そして北朝鮮の置かれた国際的状況や人権状況などについて情報を注入することが目的である。その目的から放送は「しおかぜ」と名付けられている。 ...
米のイラン攻撃を日本は支持せよ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
米トランプ政権は、イランの核開発関連施設をB2爆撃機搭載の地中貫通爆弾(バンカーバスター)などによって攻撃した。石破茂首相は、メディアから米の攻撃を支持するかを問われ「政府内で議論する」と回答したが、かつてジョージ・W・ブッシュ大統領が北朝鮮、イラクと並べて「悪の枢軸」と呼んだイランの核開発を止めた意義を強調して支持を表明すべきであった。 北朝鮮核開発を思い起こせ 1994年に、当時の...
歴史問題で対日包囲網形成の恐れ 荒木信子(朝鮮半島研究者)
6月3日、韓国左派「共に民主党」の李在明氏が第21代大統領に当選し、4日就任した。同大統領の対日姿勢が危惧されている。 「慰安婦」蒸し返しか 連合ニュースなどの報道によると、韓国の慰安婦支援団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)は4日、毎週行っている集会で、新政権に日韓慰安婦合意廃棄、第三者弁済中止を求めると主張した。 このような動きが出ていることは、李在明...
尖閣上空で領空侵犯機が退去しないとき 黒澤聖二(元統合幕僚監部首席法務官)
尖閣諸島周辺で5月3日、中国海警船の塔載ヘリコプターが日本の領空を侵犯した。航空自衛隊南西航空方面隊(那覇基地)所属の戦闘機が緊急発進したが、現場に到着する前にヘリは海警船に着艦していたという。 本件に関してはすでに様々な論評を目にするが、本稿では今後の議論のため、領空侵犯機が退去しなかった場合の問題点などについて検討してみた。 強制着陸後の準備はあるか 国際法上、領海では外国...
米価を下げる根本的対策は減反廃止しかない 山下一仁(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
減反は巨額の補助金を農家に出してコメの供給を減らし、米価を上げる政策だ。水田の4割を減反して1000万トン可能な生産量を650万トン程度に抑えている。減反をやめて350万トン輸出していれば、輸出量を若干少なくするだけで国内のコメ不足は生じなかった。 1993年の平成のコメ騒動の時も、生産可能な1400万トンを減反で1000万トンに減らしていた。それが冷夏で生産量は750万トン程度に減少した。...
「台湾防衛」へ踏み出したヘグセス長官 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
ヘグセス米国防長官が5月31日のアジア安全保障会議(シャングリラ対話、シンガポール)での演説で、台湾防衛について一歩踏み込んだ発言をした。対中抑止が効かず、中国が台湾に武力行使をした場合に、米軍は「戦い、決定的勝利を収める」と明言したのだ。「最高司令官(トランプ大統領のこと)の命令があれば」という条件付きだが、対中抑止が破られたときに米軍は「戦う」とトランプ政権高官が公言したのは初めてである。 ...
情報は親中政治家によって歪められる 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
5月26日夕方「日本の最南端である沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)で、中国の海洋調査船が事前の同意を得ずに活動した」と報じられた。NHKは第3管区海上保安本部の発表として「中国の海洋調査船による沖ノ鳥島周辺のEEZでの事前の同意のない活動が確認されたのは2024年1月1日以来で、過去10年間で9件目」と伝えた。 しかし実際には、中国が沖ノ鳥島を「岩」だと主張し始めた今世紀初頭から中国の...
沖ノ鳥島めぐる中国の認知戦に屈するな 黒澤聖二(元統合幕僚監部首席法務官)
第3管区海上保安本部は5月26日、日本最南端の沖ノ鳥島周辺のわが国排他的経済水域(EEZ)内で、中国の海洋調査船がワイヤーのようなものを海中に延ばしているのを確認したと発表した。 これを受け、中国外務省の報道局長は27日、「沖ノ鳥島は島ではなく岩」であり「沖ノ鳥島周辺を日本のEEZとするのは国際法違反だ」とする従来の主張を繰り返した。 中国調査船による無許可の海洋調査があるたびに、まる...
日米首脳会談「特ダネ」の舞台裏 有元隆志(国基研企画委員・産経新聞特別記者)
国家基本問題研究所(国基研)の事務所を入ると、すぐ横に本棚が並ぶ。収められているのは昨年1月に亡くなった田久保忠衛名誉顧問の蔵書だ。千葉県船橋市の自宅などにあったもので、横を通ると田久保先生の「世界」に入った気になる。蔵書だけでなく、いまでも国基研には田久保先生の教えが根付いている。 シンクタンクとして憲法改正をはじめ政策を提言し、その実現を図ろうという趣旨に沿って議論を続けているが、田久保...
トランプ関税に動じないスイス 奈良林 直(東京科学大学特定教授)
5月11日から18日まで、日本核シェルター協会のスイス視察団に参加し、同国の核シェルター、試験研究施設、企業を見て回った。平和な生活を送っていたウクライナでは、民間のアパートや病院など非軍事施設が連日のようにロシア軍の攻撃にさらされている。これを目の当たりにしたスイスは、核シェルターの改修工事に加え、人口増を予想して200万人分の新規シェルターを建設する。 核シェルター以外にも永世中立国スイ...
米の「中露引き離し」を拒否する侵略国 湯浅博(国基研企画委員兼研究員)
中国の習近平国家主席によるロシアの対独戦勝80周年式典など一連の行事出席は、米国が抱く「中露引き離し」へのかすかな期待を打ち砕いたと言える。トランプ米大統領には、プーチン露大統領との関係を修復すれば、ロシアを「北京封じ込め」のパートナーにできるとの淡い幻想があった。しかし、式典前に行われた中露首脳会談後の共同声明には、ウクライナの独立性を否定する「(ウクライナ戦争の)根本原因の除去」が盛り込まれ、...
やはり分からぬ遺骨収集議連の設立意義 渡久地政見(団体職員)
5月8日、戦没者遺骨収集の促進を目的とした「戦没者のご遺骨等の収集の加速化を図る国会議員連盟」が初会合を開いた。長年遺骨収集に関わり、関連する記事に定評のある産経新聞の池田祥子編集委員が講師として登壇した。遺骨収集の問題点を理解している池田氏を初回の講師に選んだのは適切な判断だと思うが、遺骨収集を体験してきた者として、この超党派議連にはどうしても距離感を覚える。 なかった関係機関との調整 ...
出生数激減への危機感を強めよ 工藤豪(日本大学文理学部非常勤講師)
総務省によれば、2024年10月1日現在の全国人口は1億2380万2000人で前年比55万人の減少、うち日本人は1億2029万6000人で前年比89万8000人の減少となった。また、2024年の社会増減は34万人の増加だが、日本人は2000人の減少であり、外国人の34万2000人増加が大きい。一方、自然増減は89万人の減少(出生数72万人、死亡数161万人)、であり、過去最大の減少幅となった。危惧...
令和コメ騒動の黒幕―農水省とJA農協 山下一仁(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
なぜコメがなくなり値段が高騰したのか 昨年夏スーパーの棚からコメが消え、その後その値段は2倍に高騰した。JA農協や大手卸売業者の民間在庫は昨年の5月頃から今年の2月現在まで、前年同月比で40万トン減少している。 3年前から農水省とJA農協は減反を強化して米価を上げようとしていた。2023年産米は作付け前から減反で前年比10万トン減少していた。さらに、猛暑の影響を受け白濁米などの被害が生...
遺骨収集超党派議連に感ずる不安 渡久地政見(団体職員)
先の大戦中に内外の戦地で亡くなった戦没者は約240万人。そのうち今もなお半分近い約112万柱の遺骨が沖縄や硫黄島といった日本国内のほか、海外の広漠とした大地や太平洋の島々、暗い海底に残されている。 戦後80年を迎えるが、遺骨の収集は遅々として進んでいない。その中で、遺骨収集促進を目的とした超党派国会議員連盟が5月8日に設立される。遺骨収集に自ら参加した体験から、この超党派議連について考えを述...
日本人拉致を歴史的に考える―北朝鮮残留邦人に着目して 荒木信子(朝鮮半島研究者)
本稿では、終戦後に生じた北朝鮮残留邦人に着目して、北朝鮮による日本人拉致を歴史的な視点から考えてみたい。 北朝鮮残留邦人とは、1945年8月の終戦時に北朝鮮に滞在、あるいはその後満州からの引き揚げの途上で北朝鮮に入境し、日本への帰国が困難になった人たちである。その多くは朝鮮戦争勃発(1950年6月)までに日本に戻ったが、途中で亡くなった人や帰れなくなった人がいた。日本統治時代、北朝鮮地域には...
中国が海底ケーブル切断装置を開発 黒澤聖二(元統合幕僚監部首席法務官)
今や海底ケーブルは、社会生活に欠かせないインターネットをはじめ国際通信の95%以上を担い、総延長140万キロ以上に達する必要不可欠な国際インフラに成長した。しかし、世界各地の海では、海底ケーブルが切断されるケースが相次ぎ、通信インフラの脆弱性に懸念が生じている。 そのような中、中国船舶科学研究センター(CSSRC)が海底ケーブル切断装置を開発したと香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストが...
中国海軍の豪州沖射撃訓練の問題点 黒澤聖二(元統合幕僚監部首席法務官)
2月中旬から月末にかけ、オーストラリアとニュージーランドに挟まれたタスマン海で中国海軍の艦隊が実弾射撃を行い、民間航空機は迂回を余儀なくされた。 豪州のマールズ国防相は21日、実弾演習の通告が直前にあったが、民間航空機は迂回せざるを得なくなったとして、ニュージーランドと共に懸念を表明した。これに対し、中国国防省報道官は27日、「国際法を完全に遵守したもの」と釈明した。 果たして中国報道...
おおむね成功だが課題も残した米印首脳会談 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)
インドのモディ首相は2月13日、ホワイトハウスでトランプ米大統領と会談した。会談は45分間にわたって行われ、両首脳は「印米包括的グローバル戦略的パートナーシップ」の重要性を改めて確認し、二国間関係のさらなる強化に向けて緊密に取り組んでいくことを約束した。 トランプ大統領がインドの高い関税を批判したのを受けて、モディ首相は米国産の石油やガスなどのエネルギー品の輸入拡大、米国からの軍装備購入拡大...
制服組に国会答弁をさせよ 武居智久(元海上幕僚長)
2月5日の衆院予算員会で、国民民主党の橋本幹彦議員が防衛省の制服組(自衛官)による答弁を求めたことに対し、安住淳予算委員長は自衛官が答弁に立たないとする理事会の判断を続けていくと答えた。安住委員長はその理由として、①判断はすべての会派の意思であること②制服組が答弁をしない判断は長い慣例だけでなく、先の大戦のことも踏まえ文民統制の観点からやってきたこと③国会以外のところで制服組の話を各党などが聴取し...
昭和百年に敗戦史観を克服しよう 髙池勝彦(国基研副理事長・弁護士)
大正15(1926)年12月25日、大正天皇の崩御により昭和天皇が践祚され、昭和が始まつた。昭和元年である。2025年の今年は昭和百年となる。 実現した「昭和の日」 昭和天皇は、昭和64(1989)年1月7日に崩御され、平成となつた。昭和天皇のお誕生日は4月29日である。昭和時代は「天皇誕生日」(昭和22年までは「天長節」)の祝日であつた。崩御された後も、昭和といふ時代を偲ぶためにこの日を...
選択的夫婦別氏への対案はこれだ 髙池勝彦(国基研副理事長・弁護士)
立憲民主党、公明党のほか、自民党の一部が賛成してゐるといはれる選択的夫婦別氏(別姓)制度の導入が現実味を帯びてきた。私は夫婦別氏を認めることに反対し、平成22年2月1日、令和3年6月28日及び令和6年9月10日の「今週の直言」で、その旨を主張してきた。反対の理由は、夫婦別氏が認められると、子の名字が父または母と異なることになり、家族の一体性が損なはれるからである。複数の子供がゐる場合、兄弟間で名字...
政治力学の変化がもたらした原発の活用 有元隆志(産経新聞特別記者)
中長期的なエネルギーのあり方を定める「第7次エネルギー基本計画」の原案では、平成23(2011)年9月の東京電力福島第1原子力発電所事故を受けた平成26(2014)年の計画改定以降、必ず盛り込まれてきた「原子力依存度を可能な限り低減する」との文言が初めて削除された。ロシアのウクライナ侵略をきっかけとした資源価格の上昇、電力需要の大幅増加に加え、政治力学が変化したことも要因として挙げられる。 ...
シリアの化学兵器廃棄に日本は貢献できる 黒澤聖二(国基研企画委員兼研究員)
12月8日、父の代から54年間続いたシリアのアサド政権がシャーム解放機構(HTS)など反体制派の首都ダマスカス制圧を受け崩壊し、バッシャール・アサド大統領はロシアに逃亡した。10日に樹立された暫定政権には課題が山積する。特にシリア国内は様々な勢力が入り乱れ、それを支援する各国の思惑も交錯し、状況が複雑化しているが、気がかりは化学兵器の行方である。 前政権の置き土産 シリア国内の反政府系...
韓国の内政混乱を憂える 荒木信子(朝鮮半島研究者)
12月3日の戒厳令宣布に始まる韓国の一連の混乱を見て、「なぜこのタイミングでこんなことが起きるのか」と残念に思う。韓国にとって国際的に懸案が山積みであるのに揉めている暇などないのだ。 揺らぐ「安保は米国、経済は中国」 最も大きな懸案はトランプ大統領の再登場により、米国の東アジアへの関与がどうなっていくかという点だ。 韓国は第2次世界大戦後、経済は日本と米国を、安全保障は米国を頼み...
アサド政権崩壊で弱体化する4カ国枢軸 湯浅博(国基研企画委員兼研究員)
シリアの独裁者、アサド大統領がモスクワに逃亡したことにより、イランが主導するイラン代理勢力による「抵抗の枢軸」が事実上崩壊した。同時にそれは、アサド体制を支えてきたロシアの弱体化と中国による関与の後退を引き起こす可能性がある。シリア内戦で浮上した独裁国家群の地政学的ブロックが、10年という時間とともにほころび始めた。 シリアが失った露とイランの支援 アサド体制の崩壊は、ロシアによるウク...
シリア政権崩壊はロシアのブーメラン 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
シリアのアサド政権が崩壊した。主因は、後ろ盾となっていたロシアがウクライナ侵攻でシリアを支援できなくなったことと、ロシアがけしかけて始まった昨今の中東紛争で、レバノンのイスラム主義組織ヒズボラもイスラエルの攻撃でダメージを受け、シリアを支援できなくなったことだ。ロシアのウクライナ侵攻と中東での親イラン勢力支援がブーメランとなってロシアに帰ってきた。 ロシアの中東支援挫折 ウクライナの反...
大戦略を欠くトランプ氏の「力による平和」 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
トランプ次期米大統領は「米国第一」と共に「力による平和」の外交を唱える。共和党の先輩政治家であるレーガン元大統領も「力による平和」を掲げていた。しかし、同じ標語でも、内容は大いに異なる。 3種類の「てこ」 レーガン研究の第一人者で、米ジョージ・ワシントン大学大学院教授の政治学者、ヘンリー・ナウ氏は、著書「コンサーバティブ・インターナショナリズム」(保守的な国際主義)で、レーガン氏が米ソ...
選択的夫婦別姓導入で野党に譲歩するな 有元隆志(産経新聞特別記者)
石破茂首相は11月29日の衆参両院本会議での所信表明演説の冒頭、「政権運営の基本方針」を示した。10月の衆院選を受けて、これからどのように政権を運営するかの考え方を示したものだが、その内容は危うさをはらんでいる。 石破首相は「民主主義のあるべき姿とは、多様な国民の声を反映した各党派が、真摯しんしに政策を協議し、よりよい成果を得ることだと考えます」と述べた。その上で、10月27日投開票の衆院選...
本当の「年収の壁」 本田悦朗(元内閣官房参与)
10月の総選挙で躍進した国民民主党が掲げる「『年収の壁』を103万円から178万円に引き上げる」との提案について、活発な議論が行われている。「年収の壁」とは、年収が一定の金額(「壁」)を超えた場合に税や社会保険料の負担が増えることを言い、その結果、「壁」を超えないように労働者は働く時間を調整し、人手不足が増幅されることとなる。103万円、106万円、130万円、150万円等の「壁」があるが、このう...
インドは途上国の反米化の阻止役 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)
激変する国際社会において、インド外交に対する注目が高まっている。日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」のメンバーであるインドは、一方でロシアの友好国であり、中国やロシアが主導する新興国グループBRICS、上海協力機構など、多数のミニラテラルの枠組みに参画している。新興・途上国「グローバルサウス」のリーダーを自称するインドは2023年度の20カ国・地域(G20)議長国を務め、首脳会議で共同声明を出すこと...
トランプ政権復活を歓迎するインド 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)
11月5日の米大統領選挙でトランプ候補がハリス候補に圧勝したのを受けて、インドのモディ首相は「両国国民の利益と世界の平和と安定のための『印米包括的グローバル戦略的パートナーシップ』の重要性を改めて認識し、技術、防衛、エネルギー、宇宙などの分野で二国間関係のさらなる強化に向けて再び一緒に緊密に取り組んでいくことを楽しみにしている」と祝辞を送った。 トランプ次期政権の主要人事がまだ発表されていな...
米国の戦前への回帰を警戒せよ 冨山泰(国基研企画委員兼研究員)
後世の歴史家が2024年の米大統領選挙を振り返る時、第2次世界大戦後に米国が民主主義世界のリーダーだった時代の終わりを確定する転換点だったと位置づけるのではないか。トランプ共和党候補(前大統領)のハリス民主党候補(副大統領)に対する完勝は、「米国第一」を外交の特徴とする「トランプ現象」が一時的なものではなく、トランプ政権の4年間の空白にもかかわらず、米国に深く根付いていることを示した。 孤立...
BRICS活用に失敗したプーチン氏 湯浅博(国基研企画委員兼研究員)
ロシアのプーチン大統領は、同国カザンで10月下旬に開いた主要新興国によるBRICS首脳会議で、ウクライナ侵略に対する免罪符の獲得に失敗した。プーチン氏は加盟国を5カ国から9カ国に拡大した「BRICSプラス」の初開催をテコに、欧米によるロシア孤立政策の「失敗」を印象付け、制裁解除の足掛かりにしようと目論んだ。しかし、「制限なし」の協力を侵攻直前に誓ったはずの中国から、逆に侵略戦争を終わらせるよう求め...
中国軍の台湾封鎖演習が持つ意味 中川真紀(国基研研究員)
中国人民解放軍東部戦区は10月14日、陸海空ロケット軍等による統合演習「聯合利剣‐2024B」(以下、「B」)を実施した。5月の「聯合利剣‐2024A」(以下、「A」)に続く台湾周辺における大規模統合演習である。 今回の演習も「A」と同様、台湾に対する海上封鎖が主要テーマであったが、展開戦力の質と量を増強させ、台湾及びそれを支援する米国等への政治的メッセージを含んだものでもあった。 短...
日朝連絡事務所は選択肢として排除すべきでない 荒木和博(特定失踪者問題調査会代表)
9月30日の「今週の直言」に有元隆志企画委員の寄稿した「石破自民党新総裁は『過去』から脱却を」で、「日朝連絡事務所設置構想は撤回せよ」との提言があった。これについては西岡力企画委員もたびたび主張しており、家族会を含めて拉致被害者救出運動の一致した立場だと考えておられる方が少なくないと思う。しかし、家族・支援者含め全てがそう考えているわけではないし、連絡事務所設置を頭から否定するのはいかがなものかと...