公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

大岩雄次郎

【第364回】政府は財政リスクの説明責任を果たせ

大岩雄次郎 / 2016.03.22 (火)


国基研企画委員・東京国際大学教授 大岩雄次郎

 

 安倍晋三首相と経済閣僚らが内外の専門家と意見交換をする一連の「国際金融経済分析会合」が3月半ばにスタートした。政府は会合の目的について、G7サミット(主要7カ国首脳会議)議長国としての責任を果たすためであって、消費増税の是非を判断するためではないと説明している。だが、首相官邸に招かれる専門家の人選を見れば、政府の説明を鵜呑みにすることはできない。
 消費増税の目的は、社会保障の安定財源の確保により財政の健全化を図ることにあるが、政府が2014年11月18日に消費税率10%への引き上げの1年半延期を決定した際には、足元の景気の懸念ばかりが強調され、財政に及ぼすリスクについての説明はなかった。今、消費増税の再延期が取りざたされているが、増税の是非は目先の景気より、財政リスクとの関連で長期的な視点から判断されるべきである。

 ●「分析会合」に招くべき専門家
 首相官邸の向こうを張って、小欄が独自に国際金融経済分析会合を開くとすれば、ゲストは、米アトランタ連銀上級政策顧問のアントン・ブラウン氏、米カリフォルニア大学のゲイリー・ハンセン教授、米ハーバード大学のカーメン・ラインハート教授、同大学のケネス・ロゴフ教授(国際通貨基金=IMF=元調査局長)、小林慶一郎慶大教授、小黒一正法大教授らになろう。
 ブラウン氏によれば、社会保障費を抑制せず、財政安定化のために2017年度に消費税率を一気に引き上げる場合、税率は33%になる。ハンセン教授、小林教授、小黒教授も、必要な税率を31%から35%と推計している。引き上げ時期を遅らせると、税率はさらに高まる。ブラウン氏らの試算では、2022年まで引き上げを延ばすと、同じ効果を出すのに37.5%の税率が必要になるという。
 ラインハート教授とロゴフ教授は2010年に、「政府債務残高の対国内総生産(GDP)比が90%を上回ると、経済成長率が1%下がる」と指摘し、財政赤字が経済成長の妨げになることを明らかにしている。ロゴフ教授は、先進国で突出した規模の政府債務残高を抱える日本(2015年の対GDP比は230%超)が、国債のさらなる大量発行による金利上昇で経済停滞を引き起こす事態を避けるには、増税と歳出削減による財政健全化以外に選択肢はないと明言する。

 ●消費税据え置きなら2030年に財政破綻?
 政府は、財政リスクについての十分な説明なしに、前回と同様、経済状況の悪化を理由に消費増税を再延期することは許されない。小黒教授によれば、日本の財政は破綻に近づいており、消費税率が8%のままなら、2030年頃に破綻する。内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」には2024年以降の財政の推計は示されていない。政府は財政の持続可能性についての見通しをまず示し、財政健全化へ向けた選択肢を国民に提示すべきである。(了)