公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

江崎道朗

【第1139回】内閣に「憲法審査会」を新設せよ

江崎道朗 / 2024.04.15 (月)


国基研企画委員・麗澤大学客員教授 江崎道朗

 

 「日本は米国と共にあります」。4月11日、岸田文雄首相は米連邦議会においてこう訴えた。自由と法の支配を尊重する国際秩序を守るため、日本は米国の「グローバル・パートナー」になっていくべきだという岸田首相の主張に強く賛同する。
 問題は、本気で米国の「グローバル・パートナー」になるつもりがあるのか、ということだ。例えば、中東地域のテロ集団に対する軍事行動への参加を求められたらどうするのか。台湾有事に際して、米軍の後方支援だけで果たしていいのか。日米安保条約を双務条約へと改定し、日本を守るために米国が戦うだけでなく、日本も米国を守るために戦ってほしいと米国側から求められたら、どうするのか。
 「日本は米国と共にあります」。これを軍事面で実現するためには、憲法9条の改正が不可欠だ。それも「自衛隊明記」案でなく、フルスペックの集団的自衛権を行使できるような憲法改正が必要だ。だが、実際の憲法改正論議は遅々として進んでいない。

 ●政府も改憲案の提案権がある
 国会に「憲法調査会」が設置されたのは平成12年のことで、改正条文案を起草する場である「憲法審査会」が始動したのが平成23年のことだ。普通の法改正であれば内閣が法案を提出し、賛成多数で可決・成立できる。一方、憲法改正については現行憲法第96条に基づいて国会で発議する議員立法、つまり与野党の賛成が必要で、内閣つまり与党主導ではできないと思われている。
 しかし、実は内閣主導でも憲法改正は可能なのだ。小西洋之参院議員の質問主意書に対して、政府は次のような答弁を閣議決定している。
 「憲法改正の原案を国会に提出することについては、憲法上、内閣は、憲法第72条の規定により、議案を国会に提出することが認められていることから可能であると考えている」(平成29年5月16日)
 内閣法制局の角田禮次郎長官も「内閣による憲法改正」について次のように答弁している。
 「国会においてその改正案を審議されるもとになる案を国会に出す権限、これを発議権と区別して申し上げますと提案権になるわけでありますが、そういう提案権は議員がお持ちであることは当然でありますけれども、政府もまたそういう提案権を持っているということは、従来から政府の一貫した解釈でございます」(参院法務委員会、昭和55年12月18日)
 しかも、こうした憲法解釈のもとで昭和31年、内閣に「憲法調査会」が設置されていた(昭和40年に廃止)。内閣が憲法改正案を作成し、国会に提案することはできるのだ。

 ●グローバル・パートナーへの道
 よって、「未来のためのグローバル・パートナー」と題する今回の日米首脳共同声明の政策項目を実現していくためにも、政府は内閣に「憲法審査会」を設置し、日米安保条約の改定を含む安全保障と憲法との関係について議論を主導すべきなのだ。(了)