公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第1140回】韓国与党惨敗で政権運営に厳しさ増す

西岡力 / 2024.04.15 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 4月10日、韓国で国会議員選挙があった。韓国の国会は300議席の1院制で、任期は4年で解散はない。1回の選挙でその後4年間の立法府の力関係が決まる。結果は与党「国民の力」が108議席しか取れず、惨敗した。第1野党の「共に民主党」が175議席、曺国・元法相が3月につくった祖国革新党が12議席、その他野党5議席で、野党の合計は192議席だ。

 ●尹大統領に国民の審判
 全議席の3分の2である200議席があると、①大統領弾劾訴追②憲法改正発議③大統領の再議請求権(拒否権)の無力化―が可能になる。保守派は野党が200以上の議席を持つことを「地獄の門が開く」と呼んで恐れていたが、その門は開かなかった。
 ただし、共に民主党と祖国革新党を合わせると186議席で、全体の5分の3を超える。180人の議員が賛成すれば特定の法案を「ファストトラック(迅速処理案件)」に指定できる。指定がなされると、その法案は委員会を通過しなくても330日たてば本会議に自動上程できる。だから、左派野党が手を結べば、どのような法案でも与党の反対を押し切って法案処理が可能になる。
 与党の最大の敗因は、尹錫悦大統領と夫人である金建希氏への国民的反感だ。野党が勝ったのではなく、尹政権が審判されたのだ。尹夫妻を激しく攻撃した曺国氏の新党が旋風を巻き起こしたのもそのためだ。保守系紙朝鮮日報も「(尹政権)審判論が選挙戦を揺さぶったのは、与党の大きな政策ミスや権力型不正のためではない。根本的に尹大統領の傲慢と独善的リーダーシップのためと言っても過言ではない」と書いた。
 野党は大統領夫妻の5大疑惑を取り上げ、責め立てた。尹大統領が①梨泰院雑踏事故捜査に消極的②海兵隊員殉職事件で国防相に命じて師団長の責任をもみ消した―とする。金夫人は①ソウル―楊平高速道路の路線を自分の親戚が土地を持つ方向に変更した②高価なブランドバッグを贈与され届け出しなかった③株価不正操作事件に関与した―とされる。その上、尹大統領が強引に進めた医学部定員の6割増員政策に医師らが激しく反発し、大病院のインターン医ら多数が辞表を提出したことが与党の足を引っ張った。

 ●疑惑解消へ特別検察官受け入れも
 野党は、国会が開かれればすぐ、五つの疑惑に関して捜査する特別検察官を任命する法案を提出すると言っている。すでに金夫人の株価操作疑惑に対する特別検察官任命法案は国会を通り、大統領が拒否権を行使しているが、そのときも与党内では、総選挙後に受け入れるべきだという声があった。再度拒否権を行使しても、与党から8人以上が賛成に回れば3分の2を超え、法案は成立する。
 尹大統領がレームダック化を防ぐには、潔白を証明するために特別検察官を受け入れると発表するくらいの譲歩が必要だ。人の話を聞かない大統領にそのような決断が出来るかどうかを見守りたい。(了)