公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

湯浅博

【第429回】手詰まり感否めぬ米の対北戦略

湯浅博 / 2017.03.27 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 湯浅博

 

 3月に東アジアを初訪問した米国のティラーソン国務長官は、北朝鮮に対する「戦略的忍耐は終わった」と宣言した。では、北朝鮮の核開発を断念させる手立ては、本当に残されているのだろうか。オバマ前政権の「戦略的忍耐」という不作為のおかげで、北朝鮮はすでにソウル、東京、グアムを破壊する能力をほぼ手中に収めている。長官が「あらゆる選択肢を検討中」と言うのは、実は手詰まり感の別表現であるように思えてならない。
 
 ●簡単でない軍事オプション
 米国の政府、軍、安全保障専門家の苦悩は深い。米国は過去20年にわたって、北朝鮮の核・ミサイル開発への対応を検討するたびに、武力行使の選択肢を断念してきた。軍事オプションは、将来の大きな悲劇を回避するために、目の前の小さな悲惨を覚悟する必要がある。
 1990年代には北の初期段階の核・ミサイル開発を一撃で砕けたかもしれないが、北との国境から50キロ足らずの韓国の首都ソウルは無傷ではすまない。時間は過酷なものだ。北の核施設は地中、海中も含めて広く分散し、もはや一撃で破壊するには遅すぎる。いまとなっては、武力行使に対する核報復さえ覚悟しなければならない状況を生んでいる。
 皮肉なことに、韓国への高高度防衛ミサイル(THAAD)配備は、これまでの米国の対北戦略が失敗したことの証明でもある。核兵器という病根を摘出できなかったために、痛みを和らげる対症療法のようなものだ。
 それでも米国は、議会が公聴会を開いて専門家から話を聴き、外交、経済、軍事のあらゆる面から脅威の阻止を検討している。トランプ政権は、北と取引のある中国企業を米国の金融システムから締め出すことや、北が次に発射するミサイルを撃ち落とすことも検討している。しかし、北の移動式発射装置はすべてを捕捉することが難しい。サイバー攻撃はミサイルプログラムを妨害し、軍命令を混乱させることはできても、一時しのぎで脅威はなお残る。
 
 ●危機意識のない日本の野党
 ところが、北朝鮮に近接する日本は米国まかせで、危機意識がまったく感じられない。特に3月6日午前、参院予算委員会の開会前に北が弾道ミサイル4発を発射したというのに、もっぱら大阪の学校法人・森友学園への国有地払い下げ問題で時間をつぶしていた。この日の北の声明は、「在日米軍基地を攻撃できる」と切迫したものだ。さすがに安倍晋三首相は、国家安全保障会議(NSC)を開くために40分間、予算委を中断した。それなのに民進党の蓮舫代表は、午後ものんびりと森友問題を蒸し返した。
 国民の生命と繁栄が破壊されかねない急迫の事態であるにもかかわらず、野党は次回選挙を有利にすることしか関心がない。なぜ、国会に専門家を招いて特別委員会や公聴会を開かないのか。日米が北から突きつけられた決断への時間は、残りが少ない。(了)