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櫻井よしこ

【第243回】オバマ大統領は大国の指導者として確固たる態度を

櫻井よしこ / 2014.04.21 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 今週、国賓として来日するオバマ大統領には、群を抜く大国の指導者としての責任ある振る舞いを期待したい。
 今回のアジア歴訪は昨年10月、インドネシアでのAPEC首脳会議を欠席したことで生じた空白を埋め合わせる、いわば失地回復外交である。歴訪国はすべて中国と領土領海問題を抱えている。それだけに最初の訪問国日本で、自由主義陣営の雄として、アメリカの掲げる価値観を明示し、アメリカもアジアも、さらには世界も、国際法、民主主義、自由の原則を重んずること、その価値観に反する行動は許容しないという明確なメッセージを中国に送らなければならない。対日、対ASEAN外交でこれらの価値観に挑戦し、脅威を高める中国に、誤解の余地のない確固たる姿勢を打ち出せるか、中国融和策に流されないか、大統領に厳しい目を向けざるを得ない。

 ●二本柱は日米安保とTPP
 今回の日米首脳会談を最重要視する日本政府はオバマ大統領を国賓として迎えるが、大統領は23日午後に到着し、25日には韓国に出発する。丸一日の滞在は24日のみで、この上なく慌ただしい。国賓であるにも拘わらず、夫人の同行はない。大統領は、迎賓館にも泊まらない。これで日米関係重視を中国に印象づけられるのか。
 日米関係の二本柱は日米安保条約とTPPである。眼前の安保の危機、尖閣諸島問題に関して安倍首相は昨年2月、ワシントンで「日本自身の力で日本の領土を守る」と強調した。そのうえで安倍政権はいま、集団的自衛権の行使容認に向けて、完全ではないものの、打開の目途をつけつつある。
 他方、今年3月、オバマ大統領はハーグでの米中首脳会談で、中国の提唱する「新型大国間関係」を積極的に推進すると発言した。だが、チベット、台湾、南シナ海、尖閣を中国の核心的利益とし、相互に核心的利益を尊重すべきだとする「新型大国間関係」の推進と、国務、国防両長官が尖閣は日米安保条約第5条の適用対象だと繰り返してきた日米同盟の重視は、両立し得ないではないか。オバマ大統領はこれまで尖閣諸島問題について直接言及したことはないが、いま、自身の言葉でアメリカの姿勢を明確にすべきである。

 ●異質の国の野望を阻止する責任 
 TPPに関して国内事情が厳しいのは日米共に同様だ。だが、中国の異質の価値観ではなく、我々自由陣営の価値観を国際社会のルールとするために、日米両国、これから歴訪するアジア諸国のためにも、オバマ大統領はTPP合意の機会を逃してはならない。大統領には大国が自ずと引き受けなければならない責任に加えて、消極的外交姿勢で引き起こした国際社会の混乱を最小化し、異質の国の野望を抑止する責任がある。TPP合意をなんとしてでも決断すべきである。
 同様の決断が安倍首相にも求められていることは言うまでもない。(了)