公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第244回】米の対アジア二重路線を警戒せよ

田久保忠衛 / 2014.04.28 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 日本のマスメディアは盛んに「オバマ訪日」が成功したがどうかを論じているが、二国間関係だけで国際問題を論じる視野狭窄症はもういい加減に改めないといけない。
 オバマ米大統領は、中国と領土問題を抱える日本、韓国、マレーシア、フィリピンの4カ国を訪れたのであり、その目的は、シリアやウクライナの問題にかまけて怠っているとみられていたアジアに対するリバランス(再均衡)政策もしくはピボット(軸足旋回)政策の強化であった。
 日本に関して、これまで米政府は領土問題と日米安全保障条約をあたかも切り離しているかのような公式態度だったのを、大統領自身が「コミットメント(防衛約束)は尖閣諸島を含め日本の施政の下にある全ての領域に及ぶ」と、誤解の余地のないように明言した。この点が唯一の成果だろう。戦略的意義を含んだ環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は合意できなかったから、今回のアジア訪問が成功したとは言えない。

 ●米中の新型関係を受け入れ
 ワシントンの視点に立つと、これに先立ちヘーゲル国防長官が東京、北京、ウランバートルに足を運んだ。東京では、尖閣問題で日本政府との同一歩調を確認し、日本の憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認への取り組みを支持し、イージス艦2隻を2017年までに日本へ追加配備すると約束した。北京では、尖閣問題や、中国が昨年11月に一方的に設定した防空識別圏をめぐり、常万全国防相と激しくやり合った。
 ここまではリバランス政策の強化である。ところがヘーゲル長官は、米中両大国間でアジアの国際問題を仕切ろうと言わんばかりの「新型」の米中関係を「発展させ、構築しなければならない」(4月8日の中国国防大学での演説)と明言した。

 ●同盟国支持に安心できない
 米中の「新型大国関係」は昨年6月の米中首脳会談で習近平国家主席が提案し、同11月にライス米大統領補佐官が講演の中で肯定したとの説が一般的だ。しかし、その2カ月前の9月6日にロシアのサンクトペテルブルクで開かれた20カ国(G20)首脳会議の傍ら行われた米中首脳会談で、習主席は「われわれは二国間関係の相互利益についての重要な合意に達した。特にわれわれは新型大国関係で再び合意した」(ホワイトハウスのプレスリリース)と発言しているのである。
 戦争を嫌い、同盟国絡みで戦争に巻き込まれたくないオバマ政権のアジア政策は、同盟国に対する支持の再確認と、中国との「新型大国関係」の二重路線で展開されているのである。この文脈の中で日本は針路を決めなければならないのであって、日米二国間だけで外交の評価をすると重大な間違いを犯すと思う。(了)