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島田洋一

【第296回・特別版】自衛隊は歴史情報戦を戦えるのか

島田洋一 / 2015.04.24 (金)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 自衛隊の支援団体が出す機関紙「隊友」最新号(4月15日付、第732号)に載った記事を読んで、唖然とした。北大西洋条約機構(NATO)事務総長特別代表(女性、平和、安全保障担当)補佐官の肩書を持つ栗田千寿2等陸佐の連載コラムである。NATO本部(ブリュッセル)のオフィスに来訪したスリランカ人の法律家ラディカ・クマラスワミ氏との面談の模様を記しているのだが、そこには当然あるべき問題意識が微塵も感じられない。

 ●歪曲報告筆者との「光栄な」昼食
 栗田2等陸佐は次のように書いている。「彼女は、1996年に女性に対する暴力とその原因及び結果に関する国連の報告書(『クマラスワミ報告』)を担任したことで有名です。……私は、光栄なことにNATO特別代表とともにクマラスワミ氏と昼食に同席する機会を頂きました」。クマラスワミ報告といえば、吉田清治証言はじめ虚偽ないし歪曲誇張された伝聞資料に基づいて、慰安婦を日本軍に強制連行された「性奴隷」と決めつけた悪名高い文書である。今に至るも、各国の議会決議に引用されるなどその悪影響は拡大し続けている。
 日本政府は、昨年8月の朝日新聞による吉田証言に関する記事の撤回などを受け、昨年10月14日、外務省の佐藤地(くに)・女性人権人道担当大使をニューヨークに派遣し、クマラスワミ氏に面会させ、報告書中、吉田証言が引用された箇所などの削除、修正を申し入れている(それしか要求していないのは問題だが、それでも同氏は修正を拒否した)。

 ●反日勢力が狙う精神的な武装解除
 栗田2等陸佐がクマラスワミ報告に何の疑問も持っていない、あるいは(まさかとは思うが)中身に感銘を受けているとすれば、防衛省が国際情報戦の最前線に送り込むにふさわしい人材とは到底言えないだろう。加えて問題なのは、元統合幕僚会議議長が会長を務める自衛隊の準公的団体の機関紙が、こうした文章を何のチェックもせずに載せている事実である。編集部の意識も鋭く問われねばならない。
 内外の反日勢力は、日本の物理的な防衛力の向上阻止だけでなく、精神的な武装解除も常に狙っている。不当に日本軍を貶めた文書の責任者との面談をただ「光栄」と感じているような文章を自衛隊員やその家族に読ませることが、精神面でプラス効果を持つとは思えない。
 栗田2等陸佐は在ベルギー日本大使館ホームページに寄せた文章でも同面談に触れ、「とても穏やかで徳が感じられる方でした」と書いている。スターリンや毛沢東と会った人も、しばしば同じ感想を書き記している。相手の行動を冷徹に見る目が、特に国防の第一線にいる者には求められるのではないか。(了)