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櫻井よしこ

【第323回】子の安全を願う「自衛隊員の父」に答える

櫻井よしこ / 2015.08.24 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 「昨年自衛隊に入った息子の父親」という人物からメールが届いた。趣旨は以下の通りだ。
 「中越地震などに際して身を粉にして人々を守り、人命救助に徹する自衛隊員の姿に憧れて息子は入隊した。しかし、今回の安保法制で自衛隊員の活動範囲が広がり、死のリスクが高まるのは明白だ。これ以上息子を自衛隊に置きたくない。毎日心配している」
 子息の無事を願う父の心情が窺われる。父親のこの問い掛けは世間の多くの父母が共有するものかもしれないので、答えてみたい。

 ●戦争を抑止する安保法制
 問い掛けを二つに分けて考えることが大事だろう。一つは日本国民と国の安全、もう一つは自衛隊員の安全についてである。
 第1点について、今回の平和安全法制の目的は、国民の命と国の安全を守り得る安全保障体制を作ることだ。現状では、平時と有事の間のグレーゾーンで国民も国も守り切れない防護の穴が多数ある。敵対勢力の侵略に対し、現状では打つ手がない場面で、最小限ながら軍事行動を可能にするのが今回の法制である。
 日本を除く全ての国々が行使する集団的自衛権は、友好国が共同で防衛する権利である。尖閣諸島などを窺う中国、核攻撃の構えを見せる北朝鮮などに対し、極く制限的であっても日本が米国などと共に集団的自衛権を行使することは、対日侵略を思いとどまらせる大きな効果を生む。安保法制はこの意味で戦争抑止法案である。決して戦争法案ではない。
 これを戦争法案だと非難する一部マスコミは、23年前の国連平和維持活動(PKO)法案のときも日本が侵略国になると批判した。しかし、23年間の自衛隊の実績は、当時のマスコミの批判とは正反対に国際社会で高く評価されている。今回も同様であろう。

 ●自衛隊への国民の信頼
 第2点の自衛隊員のリスクが高まるとの懸念に関しては、安保法制の有無にかかわらず、自衛隊にリスクは付き物であることを指摘したい。今も、日常活動で自衛隊員の尊い犠牲は生じている。たとえば悪天候下、離島の患者の緊急搬送作業で亡くなる隊員もいる。訓練中には事故も発生する。
 だが自衛隊員は、国民と国家を守るために究極の場合、命を賭して任務を遂行すると宣誓して職務に就いている。
 そのように身を賭して公益の為に働く姿を実感するからこそ、国民の自衛隊への信頼度は92.2%と比類なく高い。圧倒的多数の国民は、自衛隊がいて初めて国民も国も守られると感じ、自ずと尊敬と感謝の念を抱いている。
 国民を守り、国を守る責務を自らの使命とする自衛隊こそ、国民と国との一体感の中心軸を成す。その要の位置にある人に近い人ほど、安保法制を正しく理解し、それが決して戦争法案などではないことを学んでほしいと願っている。(了)