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太田文雄

【第322回・特別版】米軍事故死傷者への思いやりはないのか?

太田文雄 / 2015.08.17 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 8月12日に沖縄沖で米陸軍のヘリコプターが米艦上に墜落し、自衛隊員2名を含む乗員7名が負傷した。5月にもハワイで米海兵隊の垂直離着陸輸送機オスプレイが墜落し、この時は海兵隊員1名が死亡している。
 こうした事故を自分の政治目的達成に利用しようとする翁長雄志沖縄県知事の発言は論外としても、菅義偉官房長官ですら、死傷兵士に対する「お悔やみ」や「お見舞い」の表明は一切なく、今回も「米側に原因究明と再発防止を申し入れる」としただけである。
 報道によれば、12日に墜落したヘリコプターは、海賊対処あるいは何者かに乗っ取られた船を制圧する特殊部隊訓練のさなかであったという。そうであれば、安倍晋三政権が標榜する積極的平和主義に合致する訓練ではないのか。そのために厳しい訓練に従事して死傷した兵士に対し、日本政府は思いやりの一言でも掛けるべきではないだろうか。

 ●「訓練に事故は付き物」
 1996年の環太平洋共同訓練(RIMPAC)で、海上自衛隊の護衛艦が米海軍の標的曳航機A6を20ミリ・バルカン砲で撃墜してしまう事故があった。幸いにしてA6のパイロットは緊急脱出し、一命を取り留めた。
 当時ワシントンで防衛駐在官の任にあった筆者は、事故直後にペリー国防長官と米海軍制服組のトップであった作戦本部長ジョンソン海軍大将の元に、日本の制服組の代表としてお詫びに赴いた。この時、両者から出てきたのは「訓練に事故は付き物」という言葉であった。
 今回の事故後、米陸軍参謀総長オディエルノ陸軍大将の発言も「訓練にリスクは付き物」であった。特に過酷な条件で訓練をすればするほど事故の危険は高まる。事故を皆無にしたいのであれば、訓練をやめてしまえば良いのであろうが、それでは任務は達成できない。

 ●軍人(自衛官)に温情を
 軍(自衛隊)をコントロールする政治家が事故を起こした者を、何か悪いことでもしたかのように扱うなら、軍人(自衛官)は危険を冒して国家のために任務を遂行する意欲がなくなってくる。政治家が靖国神社に詣でることも、殉職した旧軍人に敬意を払う意味合いがある。平素、自衛隊に敬意を示さない政党の党首が、自分たちの政治目的達成のために「自衛官に及ぶ危険」を政争の具に使おうとしても、自衛隊員には見透かされてしまう。
 同盟を強固にするのは、同盟国が攻撃された際に反撃を可能にする安全保障法制の整備だけではない。同盟国軍人が訓練事故で死傷した際に、彼らに思いを致す心情が同盟を支えるのである。(了)